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南北合意 平和につながるのか?

2018年3月7日放送 NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」

解説:出石直解説委員

 

韓国と北朝鮮は来月末、板門店にある韓国側の施設で南北首脳会談を開催することで合意しました。

北朝鮮は非核化への意思を明確に示し、対話が続く間は新たな核実験や弾道ミサイルの発射は行わないと約束したということです。

一方日本やアメリカ政府は北朝鮮の真意を見極めたいと慎重な構えです。

今回の合意の意義や今後の展開について聞きます。

 

今回の南北合意、聞いて驚きましたけど、どう評価いたしますか?

出石:

私も正直驚きました。

北朝鮮側はかなり踏み込んだなというのが率直な印象です。

ひとつは文在寅大統領の親書を携えたとはいえですね、金正恩委員長が直接彼らと会って、笑顔で握手を交わし、厚くもてなした。

これもびっくりです。

合意内容を見ましても、あくまでも韓国政府の発表ですけど、これまで北朝鮮がかたくなに拒んでいたものも含まれているんですね。

まず北朝鮮の体制が保証されるならば核を保有する必要がないとした点なんです。

実は金正恩体制になってから北朝鮮憲法を改正して、自分たちは核保有国であると明記したんです。

核開発と経済発展を政策の二本柱としてきているわけなんです。

今回体制が保証されるならばという条件は付いていますけど、金正恩体制になって北朝鮮が非核化の意思を示したというのは初めてのことです。

もうひとつ驚きましたのは、非核化問題の協議と米朝関係正常化のためアメリカと対話をする用意があるとしている点なんです。

北朝鮮はこれまで非核化の対話には一切応じないと繰り返し主張していましたので、非核化について対話に応じると表明したのは大きな前進と言っていいと思います。

それから北朝鮮がずっと中止を要求していましたパラリンピック後の米韓合同軍事演習についても北朝鮮側は理解を示したというんですね。

これも驚きです。

 

南北首脳会談の場所なんですけど、板門店ということで、今までは平壌だったわけですけど、これもかなり異例ですね。

出石:

これまで2回の首脳会談は平壌でしたから、今回は板門店のしかも韓国側の施設で行うとしているんですね。

これがもし実現しますと、北朝鮮の最高指導者が初めて軍事境界線を越えて韓国側の施設に足を踏み入れると、これは画期的な出来事になると思います。

 

これまでのかたくなな強硬姿勢とは打って変わって大幅に方向転換したようにも受け止めますけど、北朝鮮というのはなかなか信じがたいところもあるし、この思惑・真意はどう読み解いたらいいんでしょうか。

出石:

正直金正恩氏に聞かないとわからないところがありますけど、ひとつは国際社会による制裁が功を奏して、制裁を何とか逃れたいと制裁逃れを狙っているという見方もできると思います。

北朝鮮は9月に建国70周年を迎えて、これを今年大々的に祝いたいわけなんですけど、その時に制裁の解除あるいは緩和によって、経済を立て直したい、国民の生活を豊かにすることで金正恩委員長への求心力を高めたいと、こういった思惑があるのかもしれません。

ただ考えてみますと、国連安保理による制裁が本格的に強化されたのは猶予期間がありましたので今年の1月からなんですね。

ですから制裁の効果が実際に効いてくるのはもう少し先になりますので、いま厳しい制裁に耐えきれなくなって態度を変えて来たというのは見方としては違うのではないかと思います。

むしろ北朝鮮がここにきて態度を変えてきたのは、ここまで核開発を続けてきて、金正恩委員長が自信を持ったという表れだと見ることもできるんですね。

去年11月に北朝鮮ICBM発射しました。

この時に北朝鮮は、国家核武力が完成したと言いました。

今年の新年の辞でも金正恩委員長は同じ表現を使っているんです。

彼れが言うところの抑止力としての核、つまりアメリカから攻撃を受けないための核武装が完成したのだから、これからは同じ核保有国同士として、アメリカと対等の立場で交渉ができると、北朝鮮はそう考えているのではないでしょうか。

北朝鮮核武装が完成したかどうかについては諸説ありますけど、少なくとも北朝鮮はそう考えているというふうに見るべきだと思います。

 

そうなりますと今後の焦点は果たしてアメリカの方が北朝鮮との対話に応じるかどうかだと思いますけど、そのあたりはどうでしょうか。

出石:

北朝鮮が言っている体制保証ですね、それから米朝関係の正常化、これをどう捉えるかという所がポイントだと思います。

北朝鮮が言っているのは、朝鮮戦争の休戦状態を終わらせて、アメリカと平和協定を結ぶんだと。そして国交正常化をしたいんだと。こう言っているわけなんですね。

その上で、同じ核保有国として核のない世界を目指してお互いに核軍縮交渉を行いましょうと。

さらにそのためには最も沢山の核兵器を持っているアメリカが核軍縮をするのが先だと。

これが北朝鮮の言い分なんですね。

これに対してアメリカは、核を持っている北朝鮮と平和協定を結んだり、国交回復をすることには応じられないと。

むしろ、核を完全な形で放棄するのが先だろうというのがアメリカの立場なんですね。

つまり核兵器が先なのか、平和協定や国交回復が先なのか。

両者の主張は大きく隔たっているんです。

ですからたとえ米朝対話が始まったとしても、まったく出口の見えない議論が果てしなく続くと、こういった可能性は十分にあると思うんですね。

 

そうしますと対話が続いて引き伸ばしになるということはないですかね。

出石:

時間稼ぎという見方もありますし、今回あたかも北朝鮮が譲歩をしているようにも見えるんですけど、むしろ核武装が完成したという自信を背景に強い態度に出てきているようにも受け取れると思います。

 

プーチン大統領が「草の根を食ってでも核は放棄しない」といった発言が思い出されるんですけど、ただ折れてきたということではないと。

出石:

北朝鮮がいっている非核化というのは、一方的に北朝鮮だけが核を放棄するということではないんですね。

むしろ核兵器をなくすことには合意しますよ、そのためには自分たちも核軍縮をやるけれども、まずはアメリカが核兵器を手放さなくてはいけないんだと。

そういうことですから決して彼らが非核化に応じるあるいは非核化の交渉をアメリカとすると言ったからといって、一方的に北朝鮮が折れてきたというわけではないんですね。

 

そうしますと南北が合意したからといって今後の交渉はなかなか楽観は当然のことながらできませんね。

出石:

むしろ難しくなってきたという見方もできると思うんですね。

ただ朝鮮半島情勢が大きな転換期を迎えていることは間違いないと思います。

今回金正恩委員長との会談に臨んだ韓国政府の当局者は近くアメリカを訪問して、会談の結果を説明することになっています。

この後中国・ロシア・日本と六カ国協議の当事国も訪問するわけなんですね。

各国からも韓国政府に対して、北朝鮮の真意はどこにあるんだとあるいは今後どうするんだと、さまざまな質問が寄せられると思います。

いま何より大切なのは、国際社会の連携だと思うんですね。

物事が北朝鮮のペースで進むこともよくないですし、韓国が北朝鮮との融和を急ぐあまりどんどん前のめりになってしまうのもよくない。

ですから国際社会が一致して朝鮮半島の非核化という目標に向かって進んでいく。

国際社会の足並みを乱さないということが大事じゃないかと思います。

 

そうすると日米韓・中国・ロシアと、ここのところの思惑や足並みが乱れないことが肝心ということになりますね。

出石:

思惑の違いはもちろんあるんですけど、だからといってお互い足を引っ張るんじゃなくて、できるだけ調整して朝鮮半島の非核化のために努力していくということが一番大事だと思います。

 

 

シリアの人道危機 どう打開するか

2018年3月6日放送 NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」

解説:出川展恒解説委員

 

内戦が続くシリアの首都ダマスカスの近郊の東グータ地区にいま世界の目が注がれています。

アサド政権による攻撃で子供を含む多くの犠牲者が出ていて、国連のグテーレス事務総長が「この世の地獄」とまで呼ぶ、極めて深刻な人道危機が起きています。

国連の安全保障理事会は先月24日、30日間の停戦を求める決議を全会一致で採択したものの、その後も戦闘はやまず、停戦が実現する見通しは立っていません。

東グータ地区をめぐる状況を中心にシリアの人道危機をどう打開すればよいのか聞きます。

 

まず、いま東グータ地区でそれほど激しい攻撃が行われているというのはどういうことなんでしょうか。

 

出川:

まずこの東グータ地区なんですが、首都ダマスカスに隣接していて、およそ40万人が暮らしています。

7年前に内戦が始まって以来、反政府勢力が支配し、アサド政権が支配している首都を攻撃する拠点となってきたんです。

シリアの内戦全体像なんですけど、去年の秋に過激派組織ISが事実上シリアから排除されまして、現在はアサド政権側が反政府勢力側との戦いで圧倒的優勢に立っています。

ただ一言で反政府勢力と言いましても、様々な背景や思想を持つ数多くの組織・集団をひとまとめにしてそう呼んでいるにすぎません。

アサド政権から見ますと、東グータ地区はいわばのどに刺さった骨です。

ここを制圧さえできれば反政府勢力側の首都攻撃を防ぐとともに、内戦に勝利できると、そう考えて東グータ地区に容赦ない攻撃を加えているんだと思います。

 

 

実際にはどんな攻撃が行われているんですか。

 

出川:

アサド政権軍は地上からの攻撃、戦闘機を使ったミサイル攻撃に加えて、樽のような容器に大量の火薬や金属片を詰めたいわゆる樽爆弾を空から投下しています。

これは非常に破壊力が強く、無差別に人を殺傷するきわめて非人道的な兵器とされているんです。

現地で人道支援活動を行っている国際機関やNGOは、住宅や学校に加えて、いくつもの病院が意図的に攻撃されている。そのためにケガ人の治療ができなくなっていると指摘しています。

また東グータ地区では先月、塩素ガスとみられる化学兵器も使用された疑いが強まり、国連などが調査に乗り出しています。

現在東グータ地区はアサド政権軍によって完全に包囲されて、薬も食料も届けることができない状態が続いていまして、ユニセフによりますと、多くの子どもが危機的な栄養失調に苦しんでいます。

そして内戦の情報を集めているシリア人権監視団によりますと、2月18日から3月5日までに750人以上が犠牲になり、そのおよそ4分の1が子どもだということなんです。

 

 

この東グータ地区について国際社会ではどのように見て、どう対処しようとしているんでしょうか。

 

出川:

とにかく一般市民の犠牲を顧みない攻撃の仕方が国際社会の強い非難の的となっています。

そしてアサド政権を強力に支援しているロシアも、その攻撃を黙認するだけでなく、自らも攻撃に参加しているという批判を浴びています。

国連のグテーレス事務総長は、「今こそこの世の地獄に終止符を打つべき時だ。すべての勢力が人道上の義務を果たし、市民の生命を守るよう求める」と訴えました。

これを受けて国連安全保障理事会では、先月の24日停戦決議が採択されました。

東グータ地区だけではなく、シリアの全土で各勢力が少なくとも30日間戦闘を停止して、その間に必要とされている地区に国連などが人道支援物資を届けてケガ人・病人を退避させるという内容です。

反政府勢力側もこれを受け入れる姿勢を見せたけれども、それから10日経ちましても停戦は実現していません。

むしろ東グータ地区では、アサド政権側の攻撃が一層激しくなっているんです。

 

 

停戦決議と国連安保理、これは国際法ですよね。

それが採択されたのになぜ停戦にならないんでしょうか。

 

出川:

この安保理決議自体がいわば妥協の産物でして、その決議の内容自体に問題があるからです。

と言いますのは、過激派組織のISやアルカイダなどのテロ組織を停戦の対象から除外しているんですけど、このテロ組織の定義が大きな問題となっています。

アサド政権側は、反政府勢力全てがテロ組織だと主張して、ロシアもこれを支持しています。

確かに反政府勢力の中にアルカイダ系の武装組織も含まれているんですけど、アサド政権側はそれを口実にして、東グータ地区への攻撃を強化して、停戦が一向に実現しなくなっています。

安保理決議の採択後、今度はロシアの提案で、先月の27日から東グータ地区で日中の5時間に限ってアサド政権側が攻撃を停止することになりました。

この5時間の間に住民を退避させて、人道支援物資を運びこむ狙いなんです。

ロシアとしても国際社会からの非難にある程度は耳を傾けざるをえなかったと見られています。

 

 

この5時間の時間を限った停戦、これは一定の効果があるんでしょうか。

 

出川:

まだ残念ながらほとんど効果が上がっていません。

アサド政権とロシアは東グータ地区の住民を退避させるための避難路を設けたんですけど、これを使って退避したという住民はほとんどいないんです。

と言いますのは、やはりアサド政権は信用できない、そして恐れているということなんですね。

アサド政権側は、反政府勢力が住民をいわゆる「人間の盾」にしていると非難したうえで、空爆を続けています。

また、東グータ地区に地上部隊を侵攻させていまして、すでに地区全体の3分の1以上を制圧したと見られています。

3月5日、支援物資を積んだ国連などのトラック40台余りが初めて東グータ地区に入ることができました。

しかしアサド政権側は、積み荷を厳しくチェックし、一部の医薬品の搬入を禁止するなどしたため、作業ははかどらないまま、物資を住民に配布し終わらないまま撤収しました。

多くの専門家の見方ですけど、アサド政権側がおととしの12月に反政府勢力側から奪還した北部の主要都市アレッポと同じやり方で東グータ地区をしようとしているのではないかと見ています。

すなわち反政府勢力が住民を「人間の盾」にしていると非難して、そのうえで地上部隊を侵攻させて、一気に制圧するやり方です。

国連の人道調整官が4日、国連安保理決議が求めている停戦は実行されていないばかりか、暴力がますますエスカレートしていると強い危機感を示しています。

一方アメリカのトランプ政権は、やはり4日、アサド政権およびこれを支援するロシアとイランを名指しして、東グータ地区への攻撃を続けていることを強く非難する声明を出しました。

 

 

シリアの人道危機を打開するために具体的にはどうすればいいんでしょうか。

 

出川:

非常に困難な状況なんですが、国際社会の監視の下、東グータ地区など戦闘の激しい地域を優先的に、まずは部分的な停戦を段階的に進めるしかないと考えています。

地域あるいは時間を限定した停戦を確実に実行させて、一般市民の命を救う支援活動を十分に行ったうえで停戦の対象範囲を広げていくやり方です。

しかし現在のシリア、それさえもままならない極めて深刻な状況です。

これまで中立的な機関、たとえば国連などが停戦を監視し、違反を処罰する体制がなかったためなんです。

そもそもシリアの内戦には、外国から様々な勢力が介入していることが停戦の実現を阻む大きな障害となっています。

いま毎日のように多くの子どもが命を奪われ、傷つく様子を撮影した映像が世界中にインターネットなどで広がっています。

そこには「私たちを見捨てないで」と訴える声もあります。

国際社会全体がシリアで起きていることを厳しく監視し続けて、当事者そして関係国に停戦を守らせるよう、国際世論の圧力をかけることが大切です。

とりわけアサド政権の後ろ盾となっているロシアやイランがアサド政権を強く説得しない限り停戦の実現の見通しが立ちません。

何の罪もない人々を見殺しにしてはならないというのが、何よりも優先されなければならない差し迫った課題だと言えます。

 

 

リニア談合事件の正体

2018年3月2日放送 NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」

解説:清永聡解説委員

 

リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件と今後の捜査の争点について伺います。

まず今回はどんな談合事件なんですか?

 

清永:リニア中央新幹線というのは多くの人が聞いたことがあると思います。

最高時速はおよそ500キロ、東京と名古屋の間をおよそ40分で結び、2027年の開業を予定しています。

総工費は9兆300億円。

3分の1にあたるおよそ3兆円は国が長期間にわたり低い金利で資金を供給する財政投融資でまかなわれています。

東京地検特捜部によりますと、大成建設の元常務と鹿島建設の専任部長の二人が大林組清水建設の当時の幹部らと共に事前に落札業者を決めるなどの談合をしていたとして、独占禁止法違反の疑いがもたれているわけです。

これまでの調べに対して二人は、「談合はしていない」あるいは「他社と情報交換したことはあるが、不正な受注調整には当たらない」などといずれも容疑を否認しているということです。

 

 

今回談合に係った疑いがもたれている四社なんですけど、いずれも日本を代表するゼネコンですよね。

 

清永:今回のリニア工事も大半がこの四社が受注しています。

JR東海によりますと、昨年末の時点で本体の建設工事は24件契約が結ばれているんですが、この四社がその7割近い15件を受注、しかも各社3、4件ずつほぼ均等に受注していることがわかります。

リニアの工事というのは、確かに高度な技術力が必要です。

JRの入札も業者が提示した見積価格それから技術提案を総合的に評価するという方式で行われているので、金額だけで競争するというわけではありません。

だからといって、自由な競争を阻害することは正当化できません。

あくまでも公正な手続きで工事を受注する必要があります。

もし均等に受注できるよう四社の間で合意があったとすれば、それは適正な競争を妨げる行為だったということになります。

 

 

今回談合への関与について、四社は認めているんでしょうか。

 

清永:そこが割れているんです。

関係者によりますと、大林組清水建設は談合への関与を認めている。

そして大成建設鹿島建設は否認しているということです。

このように分かれている背景には、平成18年に導入した課徴金減免制度があると見られます。

あまりなじみのない言葉なんですが、これは談合などに加わっていた業者が違反行為について公正取引委員会に自ら報告した場合に、課徴金といういわゆる制裁金が免除されたり減額するという制度なんです。

今回大林組清水建設は、この四社による不正な受注調整を認めて、公正取引委員会に違反を申し出ていたと見られています。

いうなれば、自首すれば許すというアメとムチのようなものがあります。

密室での談合やカルテルを明らかにしようという狙いです。

つまり、どこかが自主的に申告するかもしれないと考えれば、業者同士が密約を結ぶことができなくなって、談合がなくなることにつながると期待されているわけです。

ただ一方で、捜査が恣意的に進むということがあってはならないわけで、あるいは申告した業者が自分に不当に有利な証言だけを行うという恐れがあるのではないか、この点は慎重な捜査が今まで以上に求められています。

 

 

今後の捜査の焦点はどこにありますか。

 

清永:このリニア関連の工事、発注しているのはJR東海です。

非公表の入札情報は適切に取り扱われていたのか、あるい受注業者を決める過程でJR側の意向が影響を及ぼすことはなかったのか、この受注調整に至るまでの詳しい経緯の解明、ここが焦点になってくると思います。

 

 

談合によってもし本来よりも高い値段で工事が行われるということになると、結局利用する側のお金から支払われるわけですよね。

 

清永:JR東海ということは東海道新幹線を持っていますから、新幹線を利用する人たちの料金が最終的にはリニアの建設工事をまかなっているわけですから、これは民間の事業といっても、われわれには全然関係ないというわけではないということを改めて認識してほしいですね。

 

トランプ大統領 高関税と自由貿易の行方

2018年3月5日放送 NHK先読み!夕方ニュース

解説:神子田解説委員

 

トランプ大統領が打ち出した一方的な輸入制限措置が世界の自由な貿易を危機に陥れようとしています。

自由貿易体制を守るために世界はどう対応すべきかを考えます。

 

神子田さん、事の発端となったアメリカの輸入制限措置、まさに「殿御乱心」とも言えるんですけど。

どういうものなんですか。

 

神子田:通商の政策の常識ではあまり考えられない一手なんですね。

トランプ大統領は、中国で過剰に生産された鉄鋼製品がアメリカに不当に安く輸入されているのは、安全保障上の脅威だとして、鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の関税を課すと表明しました。

通商上の問題でなぜ安全保障という理屈を持ち出したかといいますと、まず海外からの安い製品の輸入で鉄鋼メーカーの存立が脅かされていると。

この鉄鋼製品というのは戦闘機や軍艦の製造に使われる重要部品だと。

こうした兵器の原材料を自国で調達できなくなるのは安全保障上の問題だということです。

今回の措置は50年余り前に作られたアメリカ通商拡大法232条に基づいていますが、歴代の政権は外部からの検証が難しい安全保障を理由に輸入を制限すると、相手国も同じ安全保障上の脅威を理由に対抗措置をとる可能性があるとして、発動に慎重な姿勢をとってきました。

しかしトランプ大統領は、秋の議会の中間選挙を控えて、中西部の鉄鋼産業などの労働者を海外製品から守る政策を打ち出すことで、与党共和党の支持を固めたいとの思惑があると思います。

 

 

中国がターゲットとしてるんだったら中国に絞ればいいと思うんですけど、なぜ日本など他の国も対象になるんでしょうか。

 

神子田:おっしゃるとおりですね。

中国は不当に安い製品ということではターゲットには違いないんですけど、実際にアメリカの鉄鋼製品の輸入に占める中国からの輸入品の割合は去年1年間で数量ベースで見ますと、3.4%程度とあまり多くないんですね。

その一方で、アメリカの鉄鋼業界は、アメリカ国内にある工場の稼働率を80%まで引き上げたい。そのためには輸入全体の3分の1くらいを止める必要があるということで、全ての国が対象となるということです。

 

 

日本にはどんな影響が出て来るんでしょう。

 

神子田:去年1年間でアメリカへ輸出された鉄鋼は鉄鋼製品の輸出全体の6%程度、アルミの輸出額はアルミ輸出全体の10%近くを占めています。

日本が対象となりますと、アメリカに鉄鋼製品を輸出しているメーカーを直撃するということがあるんですが、このほかにもアメリカに輸出されていた製品が、アメリカに輸出できなくなって、アジアに流入することになりますと、アジアでの供給が過剰になって、価格が下がって、ここでまたメーカーの業績にマイナスの影響を与えると。

さらに、今回の措置の影響は鉄鋼メーカーだけにとどまりません。

トランプ大統領の一連の発言を受けて、外国為替市場では円高が進んでいます。

これはなぜかといいますと、アメリカは日本に対しても巨額の貿易赤字を抱えています。

アメリカ政府は今後、円安は日本からアメリカに輸出したときに有利になりますので、その円安を許さないという姿勢を強めるのではないかという思惑が広がって、円高になっているんですね。

今後も円高傾向が続くことになれば、日本経済全体が打撃を受けることになります。

 

 

これは日本だけの問題ではなくて、他の国からも批判の声が上がっています。

 

神子田:主なターゲットとされた中国は、自らを守るために一方的な制限措置をとるべきではないと批判しています。

EUも国内産業を保護するためのあからさまな介入だと指摘するなど、各国から批判の声が上がっています。

中でもEUは、執行機関であるヨーロッパ委員会のユンケル委員長が、もしアメリカが実際に措置を発動した場合は、アメリカから輸入される高級オートバイやジーンズ、バーボンといった幅広い報復関税を検討する考えを表明しました。

これに対してトランプ大統領ツイッターで反応して、もしEUがアメリカの企業に対して関税をさらに増やしたいというんだったら、アメリカに輸入される自動車に税を課すだけだ、と述べて、売り言葉に買い言葉で貿易戦争も辞さない姿勢を示しています。

こうした報復合戦は、自由貿易を危機にさらすことになります。

アメリカの一方的な措置に各国が報復関税で対抗すれば、世界の貿易は縮小し、輸出できなる各国の景気を冷え込ませるということになりかねません。

それを敏感に感じ取っているのが株式市場です。

1日のニューヨークの株式市場は、トランプ大統領が輸入制限を表明したと伝わった直後、500ドル以上も値下がりしました。

さらにその翌日も一時400ドルも値下がりするなど、大きく動揺しています。

貿易戦争が世界経済を落ち込ませることが懸念されているんです。

 

 

 

配達業界に広がる早朝深夜配送 トークファイル山縣裕一郎

8月10日放送  「森本毅郎・スタンバイ」

 

山縣:いま人手不足ですから、その中で配送をどうやって行くかということで頭を悩ませています。

特にインターネット通販が急激に伸びて、2016年には15兆円規模になっているんですけど、5年間で8割も増えたんですね。

ネットで注文するのはいいんですけど、結局配達してくれるのは人にやってもらわなければいけないので、どうしても配送面で人手不足が深刻になるわけです。

その中で、早朝とか深夜とか、そういった配達時間に分散して上手くやれないだろうかという動きが出ているんです。

まず早朝の方なんですけど、生活協同組合のコープみらいというところがあるんですけど、早朝5時から食料品などの配達サービスをできないかと実験してるんです。

通常は午前9時から午後5時までの配達をしてたんですけど、新たに朝5時から7時という時間帯を追加してみて、一度にするのは危険ですから、東京都の目黒区と千葉県の市川市で配送拠点の近くで早期配達を希望する方300人ぐらい集めまして、やってみているわけです。

早朝ということなので、呼び鈴は寝ている方もいるので鳴らさない。

それから商品を配送用の容器に入れて玄関先に置いておきますというやり方なんです。

ですから日中は仕事でいないとか、最近は共働きが当たり前ですから、共働きで空けてしまうという方に、食料品をいない時に置かれていると夜帰ってくるまで食料品が家の前に置いてあるようなことになりますから、朝だったら出勤前に取り込むことができますよね。

ですから利用者側にもいいのではないかということです。

配送の面からしますと、朝5時くらいだと車が少ないですよね。

配送で大変なのは、いちいち交通渋滞に巻き込まれると大変効率が悪くなるので、会社の方からすれば、それを見越して人員の体制も取らなければいけないので、人件費も上がると思うんですね。

ですから早朝だと交通量も少ないですし、配送効率も高まりますから、配送する側の組織からしてもいいわけですね。

実際、コープみらいでは、日中の配達にどれぐらい時間がかかるかというと、配送1件に平均7分半かかるらしいです。

実験では、早朝だと5分弱に短縮できているそうです。

1件について2分ぐらい短縮できますから、件数が増えればかなり違いますよね。

ですからまずそういう方向で早朝実験をする。

そして早朝にある程度配達してしまえば、1日に決まっている配送量があれば、夕方以降に配送しなくても済んでしまうということにもなるわけですね。

ドライバーの人たちも早朝の配達だけ担当する早朝シフトにすればいいので、自分の働き方も工夫ができるようになります。

ですから働き方改革という意味でも、早朝シフトをうまく利用してほしいというのが、会社側の利益にもなるのでお願いしたいというところでしょうね。

実際一部のコープでは、通常7時間勤務のドライバーさんが多いんですが、4時間勤務というのも作って採用をしてみたり、それから女性にも働いてもらわないと男だけでは手が回らないということで、軽トラックにすればやりやすいという話もあって、そっちに設備投資しようというのもあります。

深夜の方、こちらもビッグカメラなどがやってるんですけど、通販の配達時間を24時まで拡大して、通常22時までなんですけど、夜遅く帰ってくる方がいるのでやろうということで、23区内であれば、午後3時までに注文すればその日の24時までに商品を受け取れるというようにしようということですね。

これは、帰宅してから商品を受け取れる便利さもありますし、会社の側からすれば、配達時間の分散ということで、配送効率を高められるのではないかということになってきてるんですね。

ですから、早朝・深夜に分散しながら、利用する人にもいいし、会社の方もうまくいくんじゃないかということです。

ヨドバシカメラは自分で店舗まで来てくれれば、ずっとお店を開けておくから取りに来てという24時間いつでも受け取れるというサービスを実験しています。

いろいろ工夫してるんですね。

 

 

スマホ当たり屋にご用心 トークファイル渋谷和宏

8月9日放送  「森本毅郎・スタンバイ」

 

スマートフォンを使った新手の詐欺とか恐喝とか傷害事件が増えているということです。

7月31日付の産経新聞が報じていまして、私たちの身にも降りかかってくるかもしれない犯罪なので、注意喚起の意味も含めて詳しく紹介したいと思うんです。

まず、スマホを持ってわざと人にぶつかり、スマホが壊れたじゃないかと主張して高額の修理代を請求するスマホ当たり屋の犯罪が増えてるんですね。

産経新聞によると、繁華街を受け持つ都内の警察署には、去年からこうしたスマホ当たり屋の相談あるいは110番通報が相次いでいるということです。

だいたいこのスマホ当たり屋は男性で、駅構内のトイレなどから出てくる人を狙って、スマホを持ってわざとぶつかって、ぶつかったせいでスマホが壊れた、修理代を払えと言って、修理代の一部として1万円とか1万5千円程度を請求する。

実際に支払ってしまった被害者もいるということなんですね。

この被害は埼玉県でも発生してまして、去年2月なんですが、JR大宮駅近くの路上で、同様の手口でスマホの修理代を請求しようとした20代の男が詐欺未遂の容疑で県警に逮捕されています。

その一方で、スマホ当たり屋とは逆に、スマホを見ながら歩いている人を狙って、体当たりするスマホ体当たりという暴力行為も全国で相次いでいるとのことです。

先月19日なんですけど、神戸市中央区にあるJR三宮駅のホームで、スマホを見ながら歩いていた50代の女性が前から来た男に体当たりされて転倒する事件が起きました。

この女性は後頭部を強く打ちまして、頭の骨を折る重症を負ってしまったんですね。

その後、60代の男が傷害容疑で兵庫県警に逮捕されました。

男は女性がスマホを見て前を見ていなかったからぶつかったんだと、相手が悪いなどと供述していたんですが、駅の防犯カメラに数メートル手前から方向を変えて女性に向かって行くその男の姿が映っていて、立件する決め手になったということです。

むしゃくしゃしていて、けしからんということでぶつかって行くという、こういう犯罪ですね。

さらに今月にも、町田市でスマホで音楽を聴きながら歩いていた女性を蹴ったとして、50代の男が逮捕されるトラブルも発生しています。

スマホ当たり屋は金銭狙いということなんですが、スマホ体当たりの方はむしゃくしゃしていたとか、歩きスマホを見ていてムカついたとかいった、刹那的なものが多いんですよ。

ですから怒りとか不満のはけ口を見ず知らずの他人に向けて暴発させるという犯罪ですけど、実はネットの掲示板では、こうした行為を歩きスマホをする人のマナーを正すための注意喚起だと賞賛するようなコメントもあったりするんですね。

中には、体当たりするのが楽しいなどというコメントもあったりして、煽ってるような書き込みもあったりするんですね。

それがまた、スマホ体当たりを増やしている可能性は否定できないですね。

もし自分がスマホ当たり屋の標的になってしまって修理代を請求されたらどうするか。

詐欺被害などに詳しい弁護士は、本当にスマホが壊れたのかどうかわからない状態でその場で修理代を払ってしまうのはダメだと指摘しています。

ですので、一緒に警察に行きましょうと、相手と一緒に警察に行こうということで引いてしまうケースもあるそうなんですね。

ですので、それだったら警察に行きましょうというのがいいということです。

ただ、それでも行かないぞと相手が被害を主張し続けた場合、この場合は弁護士などを通じて後日正式に請求して欲しいと告げるのがいいということです。

 

森本:そんなこと言ったら殴られそうだな。

 

渋谷:怖いですよね。

でも払っちゃったら取られ損になってしまうということなので、まずは警察に行きましょうと、こう言ううのがいいと弁護士は指摘しています。

一方でスマホ体当たり、これに対しては歩きスマホはしないという以外にないですよね。

トラブルの引き金になるようなことはしないというのが一番ですね。

歩きスマホはそれによる事故も増えてるんですよね。

東京消防庁によると、歩くスマホによる事故で救急搬送された人は、2012年から2016年の5年間で193人に達している。

このうち46%が人や物と接触した事故で、20代から40代の搬送が6割近くを占めているということなので、歩きスマホをしていた人が加害者になってしまって、ということもあるわけです。

ですので、歩きスマホはしないということですね。

先週ハワイのホノルルで道路を横断する際の歩きスマホを今年の10月から禁止して、違反者には罰金を科すということが報じられましたけど、とにかくスマホが変える社会や行動習慣にどう対応するかという新たなルールや危機管理が必要なのかと思います。

 

 

変わるお盆事情 トークファイル 酒井綱一郎

8月8日放送  「森本毅郎・スタンバイ」

 

酒井:お盆は本来は14日15日ですけど、今週金曜日11日が休みですよね。

みなさんにとっては嬉しいですよね。

金曜日が休みになれば、土日休んで、お盆休んで、場合によっては来週の木金と休みを取ればゴールデンウィークになりますが、みなさんどれぐらい休むんだろうというので、楽天リサーチというところが20代から60代の会社員1000人に調べたところ、平均6日ですね。

6日でも、今までに比べれば増えています。

その影響なのか、交通機関も結構増えてますね。

JR各社が8月10日から17日のお盆期間の新幹線在来線の指定席の予約件数を発表していますけど、先月25日時点で、去年の10%増ということですね。

ピークは下りが11日、上りが15日になりそうです。

飛行機は3日時点ですけど、国内線が予約者数が8%増、国際線はアジア方面が人気で7%ぐらい増えて好調です。

という話をしながら、でもお盆はいろいろと変わって来てますよという話をしたいんですが、

ひとつ目がお年玉ならぬお盆玉

これがじわじわと広がって来ているという話です。

もともとの趣旨は、お子さんとかお孫さんが実家に帰省したりした時におじいちゃんおばあちゃんがお小遣いを渡すという話なんですけど、それに拍車をかけたのが、山梨県の和紙メーカーのマルアイという会社が、お盆玉ぶくろを作った。

さらに、それに目をつけたのが郵便局で、2014年から全国2万の郵便局の店頭にそのお盆玉袋を置いて、そこからじわじわと広がり始めている。

ただ反対も当然多い。

だってお金が年2回出ていくんだもん。

そんな風習ないだろうということで、反対意見は根強いです。

次は、土用の丑の日にうなぎ以外の商品を売ろうという話があったんですけど、イオンなんかが仕掛けてるんですけど、夏向きのおせち料理「夏おせち」はいかがでしょうか。

一応理屈はあってですね、帰省される、お友達が集まるということで、ホームパーティを開く時に、一緒に食事をするとしたら、夏おせちみたいなものがあるといいじゃないかというので、中身に数の子や昆布巻きが入っているものもあると。

夏ですから、冬のものを食べても季節感が出ないので、洋風のオードブルみたいなものが多いみたいですね。

だからお肉とかが多かったりとか。

百貨店もこの夏おせちを売り出してまして、こちらは恒例になりそうだという話なんですね。

次は、恵方巻き。

本来は2月ですよ、節分の時に食べるんですけど、節分て年4回あるんですよ。

8月6日が夏の節分。

だからデパートやコンビニ各社が、夏の恵方巻きを発売したんです。

中身はちょっと変わってますね。

ファミリーマートだと中落ち牛カルビの焼肉恵方巻きとか。

そうすると節分は4回あるということは、コンビニが何を考えてるかというと、年4回恵方巻きをやろうとしていますが、いかがでしょうか。

徹底してるでしょ。

僕は恵方巻きは好きだからいいと思うんですけど、ちょっと風習とは違う。

そうすると、季節感を大事にされる方からすると、嫌だなと思うかもしれませんよね。

 

甘い見通しの学部新設の将来は? トークファイル山田恵資

8月7日放送  「森本毅郎・スタンバイ」

 

山田:今問題になっています加計疑惑ですけど、次の焦点は8月末に結論が出ます加計学園獣医学部新設の可否なんですが、それにちなみまして、いま一度専門職の資格取得を目的とする大学の設置が熟慮なく認められると何が起きてしまうかという、ひとつの悪い洗礼を見てみたいと思います。

それは何かと言いますと法科大学院なんですね。

これは司法改革の一環として法務省文科省などが中心となって進めていったわけなんですが、2002年政府はそれまで年間1200人程度だった司法試験の合格者を一気に3000人にするという閣議決定をいたしました。

理由はいわゆる経済のグローバル化とか知的財産分野などの裁判が増えるという予想と言いますか見立てで、弁護士や裁判官などの法曹人口を増やそうという狙いだったわけです。

そして2004年、法科大学院制度がスタートしました。

この時は74の大学に法科大学院が設置されました。

ところが今はこれが39校になってしまったんです。

廃止が15校、募集停止が20校で、ほぼ半分に減って、来年2018年も募集をしているのは39校になってしまっています。

関東では話題になりましたが青山学院大学とか立教大学とか桐蔭横浜大学なども募集停止に踏み切ったそうです。

これは、ひとつは法科大学院の志願者の数が激減しています。

法科大学院がスタートした2005年のデータなんですけど、志願者が4万人、入学者が5500人という数字だったんですが、これが2017年度の志願者数は8000人、入学者は1700人ということで、大きく下回っています。

この理由はそもそも制度設計が甘いということです。

需要が多いと思っていたら全然訴訟が増えるようなこともなかったということですね。

つまり供給過剰になってしまったんですね。

2015年に裁判所が受理した事件数は2004年に比べて4割減ったということですので、弁護士になっても仕事がないということがある種定着してしまっているわけなんです。

それから法科大学院に行っても司法試験に受からないということがあって、これはレベルの問題かもしれませんが、この時に少し司法試験を優しくというか問題をあまり専門的にしないというようなこともなされたわけですけど、それでも司法試験に受からないということでした。

当初の見通しでは法科大学院から司法試験の合格率は7割から8割と見込んでいたんです。

ですから法科大学院に入ればかなり高い確率で合格できるという見込みがあったんですけど、現実には2割台に低迷しているということです。

そこに追い打ちをかけましたのが、2011年からスタートした予備試験という試験があるんですが、これは法科大学院に通わなくても司法試験の受験資格が受けられるという制度なんですけど、この予備試験から司法試験に合格する人の割合が6割なんですね。

今では司法試験の合格者全体の15%がこの予備試験から通っているということです。

そうして状況で国は法科大学院に対して司法試験の合格率などによって補助金を一部打ち切るという策にも出てまして、国から大学院への補助金をゼロにする制度を導入したために2015年度で13校が募集停止しています。

お金がなければ運営していけませんから。

こうしたことで10年間でいろんなことがあったわけなんです。

これもいわゆる岩盤規制の看板のような形で導入されていて、文科省も完全に見通しを誤ったわけです。

文科省の幹部からも聞いたことがありますけど、精査と言いますか反省をしっかりしないといけないと。

今回の加計学園獣医学部の新設の問題についても、一体需要と供給はどうなんだということが言われているわけです。

政府は今のところそれにははっきりとした数字を出していないんですけど、競争原理に任せればいいという人もいてですね、しかしそうであれば、一時的には過剰状態が生まれるわけで、そうすると質の問題が新たな問題になります。

知り合いの司法関係者何人かに聞いてみたら、大きな声では言えないけどということですけど、やはり正直言って新しい制度になってからの弁護士の質がややバラツキが大きくなったと遠回しな言い方ですが、質が悪くなっているという見方もあるわけですね。

そうしたことを教訓にするのであれば、受給をしっかり見た上で増やさないと同じ問題が起きると思います。

 

中国とドイツが急接近 その背景と思惑は

8月10日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

 キャスター:世界第2と第4の経済大国中国とドイツが急接近しています。

その背景や思惑について、国際部の木村記者に聞きます。

木村さん、中国とドイツが接近する動きが目立ちますね。

 

木村:政府間の交流がかつてないほど緊密になっているんです。

象徴的だったのは先月ドイツのハンブルクで開かれたG20です。

中国の習近平国家主席はG20の開会を前に、国賓としてドイツ入りし、その滞在日数は実に5日間にも及びました。

ドイツ訪問中、習主席はメルケル首相と共に首都ベルリンの動物園に送られたパンダを見学したり、両国の少年たちによるサッカーの試合を観戦したりしました。

習主席の訪問の様子は中国の国営メディアが大々的に伝え、ドイツの友好関係を盛んにアピールしていました。

私は去年までの4年間、特派員として首都ベルリンに駐在しましたが、ヨーロッパを牽引するメルケル首相の元には連日世界中から首脳や要人がひっきりなしに訪れていました。

極めて多忙とも言えるメルケル首相が、これだけの時間を割いて対応するのは異例のことです。

 

キャスター:この二つの国が接近する背景には何があるんでしょうか。

 

木村:双方にとって相手国が極めて重要な存在になっているからです。

中国はアジアとヨーロッパとをつなぐ巨大な経済圏構想一帯一路を実現させる上でドイツを重視しています。

EUの実質的な盟主でEUの意思決定に最も影響力のあるドイツとの関係を強化することでヨーロッパの巨大市場へのアクセスを容易にしようという思惑がうかがえます。

また、ドイツにとって中国は去年アメリカを抜いて第1の貿易相手国になりました。

ドイツで最も重要な企業の一つ大手自動車のフォルクスワーゲンは、排ガスの不正で信頼が揺らぐ中でも、去年世界の新車販売数が1千万台を突破し、世界一となったんですけど、中国での販売が全体のおよそ4割を占めて堅調に伸びたことがその最大の要因です。

 

キャスター:その一方で課題はないんでしょうか。

 

木村:貿易が増えるに従って、一部で深刻な貿易摩擦を生んでいるのも事実です。

特にルル工業地帯を抱えるドイツの鉄鋼業界は中国の安価な鉄鋼が大量に流入していることに強く反発しています。

経済の減速や過剰生産の問題をヨーロッパへの輸出増で解消しようという中国の狙いは、ドイツにとってはメリットばかりではありません。

また中国の人件問題への懸念もあります。

ノーベル平和賞を受賞した中国の作家で先月亡くなった劉暁波氏は、ドイツでの治療を望み、ドイツ政府も出国を後押ししていましたが、中国側は断固として認めませんでした。

中国政府の対応には、ドイツでも批判が相次いでいます。

ナチス旧東ドイツ時代の教訓から、人権意識の強いドイツでは、中国の人権問題は無視できないテーマです。

経済的な利益を求めて急接近している中国とドイツですが、真の友好関係を築くのには、まだ課題は残されていると言えます。

 

ポーランドで与党が成立を目指している法律の波紋

8月10日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:ポーランドでは今、与党の保守政党最高裁判所の人事の掌握を可能にする法律の成立を目指していて、国内外で反発を呼んでいます。

ベルリン支局の野田記者に聞きます。

与党が目指しています最高裁判所の人事に関する法案というのは、どんなものなんでしょうか。

 

野田:最高裁判所の判事を一旦全員解雇し、その上で政権側が後任を自由に選べるようにするものです。

ポーランド政界で最も力があると言われる与党法と正義のカチンスキ党首が進める司法改革の柱となっています。

政府与党は判決までに時間がかかりすぎるなど国民の不満の多い司法制度を改革するためだと説明しています。

これに対し野党側は、この法律ができれば政府による司法の介入につながり、民主主義の根幹である司法の独立が脅かされると懸念しています。

 

キャスター:ポーランドでは大規模なデモが続いたそうですね。

 

野田:特に法案が議会下院を通過した直後の先月20日には各地で野党支持者によるデモがあり、このうち首都ワルシャワでは、主催者の発表で5万人が集まりました。

私も現地で取材をしたんですけど、ポーランドやEUの旗を手に大勢の若者が集まり、多くの人が現政権はポーランドの民主主義の歩みを逆行させていると危機感を抱いていました。

また、EUも、EUにおけるポーランドの議決権の停止という思う制裁を課すことも辞さないと異例の厳しい警告を行いました。

 

キャスター:この法律が成立する見通しはあるんでしょうか。

 

野田:最高裁判所の判事の人事権に関する法律は大統領が署名して成立するばかりだったのですが、大統領は署名しませんでした。

大統領は与党の出身だったため、この判断はポーランド国内では驚きを持って受け止められました。

ただ大統領は新たな法案を提案するといっていますし、与党は抗議や海外からの圧力には屈しないと述べて、あくまで政策を推し進める決意を表明しています。

今後の見通しは読みにくいのですが、少なくとも現時点で野党側の勝利と結論づけるのは時期尚早で、 夏休み後の動きに注目しています。

 

キャスター:今、旧東欧諸国では右派の台頭が各国で起きていますけど、こうした事態はEUの結束を揺るがす新たな問題になるんでしょうか。

 

野田:ポーランド政府は今後も経済成長を続けるには、EUの力が必要だと考えています。

実際EUからは加盟国の中で最大の補助金を受けており、道路や港湾などのインフラ整備を進めてきたことが経済成長の原動力となってきました。

しかしポーランドとEUとの対立は司法改革だけでなく、難民の受け入れをめぐっても起きています。

EUは一昨年、中東などからの難民を分担して受け入れることを決めましたが、ポーランドハンガリーチェコと共に受け入れを拒み続けています。

イギリスがEUからの離脱を決めた後、EUはEUに懐疑的な勢力の躍進が懸念された今年前半のオランダ議会選挙、そしてフランス大統領選挙を乗り切りました。

ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領を中心に統合の強化に向けて取り組んでいこうとしているところです。

そこに今回、EUの理念に逆行する動くが引き出したかたちで、新たな亀裂をどう埋めて行くのか、EUの指導力が問われています。