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ASEAN50周年、東ティモール加盟の課題は

8月9日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:ASEAN東南アジア諸国連合)が創設から50年の節目を迎えました。

今、東ティモールの加盟がいつ認められるのかという点に注目が集まっています。

東南アジア担当の高橋解説委員に聞きます。

高橋さん、東ティモールというのは、比較的最近独立した国でしたよね。

 

高橋:そうですね、俗に21世紀最初の独立国とも言われます。

というのは、ポルトガルによる植民地支配とインドネシアによる占領の後、今から15年前2002年に独立を果たしました。

人口およそ120万人で、面積も東京・千葉・埼玉・神奈川と4つの都県を合わせたのと大体同じくらいの小さな国なんです。

独立後の国づくりを支援するために、かつて日本から陸上自衛隊のPKO部隊が派遣されたこともありましたからご記憶の方も多いかもしれません。

当時は治安が一向に安定しなかったり、石油・天然ガスの開発以外にめぼしい産業がなかったりして、随分先行きを心配されましたけど、近年は治安も格段に安定し、先月から議会の選挙が行われたんですけど、これも国連の手は借りず全て自前で滞りなく行われました。

その東ティモールが6年前からASEANに加盟を正式に申請しています。

この加盟を認めるかどうかをいまASEAN10カ国が検討しているんです。

 

キャスター:加盟の申請は認められそうなんでしょうか。

 

高橋:まさにそこがいま焦点となっているんです。

日がちティモールはASEANが創設50年の節目を迎えた今年中にも加盟を果たしたいという意欲を見せています。

しかし昨日閉幕したASEANの外相レベルの一連の会議では現在の加盟国から反対意見こそ出なかったものの、逆に年内加盟を積極的に後押ししようという意見もまた出なかったんです。

 

キャスター:なぜでしょうか。

 

高橋:問題の一つはASEANが抱えている域内格差という問題です。

域内の先進国シンガポールと、後発国と呼ばれるミャンマーカンボジアとの間には、一人当たりの名目GDPで40倍もの開きがあります。

いま東ティモールの加盟が認められれば、この後発国にあたりますので限られた援助の奪い合いになりかねないあるいはASEANが一昨年から進めている経済共同体づくりにも支障が出かねないというのです。

 

キャスター:となりますと、加盟が認められるまでには、まだ時間がかかりそうですね。

 

高橋:問題は加盟が認められるかどうかというよりも、それがいつ認められるかです。

というのも、ASEANには全会一致を前提とする独特の意思決定法があるからです。

もともとASEANは、政治体制も経済規模も民族も宗教も異なる国々が一つにまとまることで中国やアメリカなど大国のいいなりにはならない独自の存在感を高めてきました。

ところが、50年前5カ国体制でスタートしたASEANは今や10カ国、加盟国が増えて多様化が進めば進むほど、コンセンサス作りに時間がかかり、互いの利害や温度差が逆に大国による干渉を招きかねないジレンマを抱えているんです。

ASEANは今年11月に、フィリピンの首都マニラの北西にあるパンパンガ州というところで、今度は首脳レベルの会合を開きます。

果たしてそれまでに東ティモールASEAN加盟について結論は出るのかどうか、東ティモールの加盟の是非をめぐる議論は、いまのASEANが直面している課題そのものを浮き彫りにしています。

 

 

北朝鮮リスク市場警戒 朝刊読みくらべ

8月10日放送 「森本毅郎・スタンバイ」

 

日本経済新聞の一面ですが、

北朝鮮リスク市場警戒という記事です。

世界の金融市場が、アメリカとの軍事衝突を警戒する北朝鮮リスクに神経質になっているという記事です。

安全資産とされる円が買われて、円相場は2か月ぶりの水準に上昇、

日経平均は一時335円も安くなってしまいました。

北朝鮮の行動については、市場はこれまであまり反応しなかったんですね。

ところが今回は攻撃対象がグアムという具体的な名前が出てきたほか、

政策運営の行き詰まりが目立つトランプ氏が、得点稼ぎで北朝鮮に厳しく出るという見方が浮上して、実際にアメリカでは北朝鮮の軍事行動を支援する世論調査も出てきた。

こういう雰囲気の変化で、市場が危険レベルを一段階上げたように感じられるという分析も出てきています。

ところが、産経新聞の一面

リスク高まる

なんですが、米朝衝突のリスクはトランプリスクだという記事。

なかなか面白いですね。

北朝鮮はこれ以上アメリカにいかなる脅しもかけるべきではない、さもなければ北朝鮮は炎と怒りに見舞われる、とトランプさんが言った。

これは金正恩体制顔負けの言葉で、軍事行動に踏み切る意思を明言したんだ。

他国から軍事攻撃を仕掛けられたというわけでもなくて、脅しをかけられただけなのに報復を言及するというのは極めて異例だ。

こういうふうに言って、トランプさんの行動を疑問視する声は党派を超えて広がっている。

つまりトランプさんの不用意な発言で動揺が広がって、誤解と誤算による米朝の衝突が現実的なリスクになってるんだ。

トランプ悪いという記事。

なかなか面白いと思います。

 

 

 

戦争と国際法 木村草太

8月9日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:戦争と国際法、お話は首都大学東京大学院教授で憲法学者の木村草太さんです。

今日8月9日は長崎原爆の日です。

あれから72年が経ったんですね。

 

木村:その年月の中で、原爆の日の記憶が薄れていくことに強い危機感を抱いております。

2015年の8月3日に公表されたNHKの世論調査では、長崎の原爆の日が何月何日であるか、正しく覚えていた人が3割に満たないというかなり衝撃的な結果が出ておりました。

やはり原爆の日の記憶というのは継承していかなくてはいけないわけですし、また原爆の投下は二つの世界大戦における極めて悲惨な出来事です。

その原爆の記憶と共に二つの世界大戦を経て成立した国際法の原則についても考えて欲しいと思いました。

国際法の原則は憲法9条などの日本の憲法原則とも大きく関わっているものです。

 

キャスター:今おっしゃった国際法と戦争との関係ですけど、歴史的にはどんな経過をたどってきたんでしょうか。

 

木村:まず19世紀以前の国際法においては、戦争や武力行使はそれ自体は違法とはされておりませんで、それらを国際法違反ではないと考えられていました。

これを無差別戦争観、正しい戦争も間違った戦争もないという無差別という意味ですが戦争観と言います。

19世紀の国際法では、法の力で戦争や武力行使それ自体が完全に防げるわけではなかったので、せめて先制攻撃を禁止して、必ず宣戦布告をしてから戦争を始めようとか、民間人は虐殺しない、捕虜は虐待しないといった、戦争をやるのであればせめてそのルールを守ってくれという発想であったわけです。

しかし20世紀に入ってからは、やはり戦争や武力行使それ自体を禁止しないと平和は実現できない、また兵士の武力行使を禁止しておきながら、宣戦布告をすればいくらでも武力行使をしても良いというのでは、窃盗を処罰しながら強盗を放任するようなものだという批判も出てきて、戦争それ自体を禁止するべきだという考え方が生まれてきたわけです。

20世紀は実は二つの世界大戦の時代であると同時に不戦条約の時代でもありまして、国際連盟規約あるいは1928年のパリ不戦条約などが成立し、次第に戦争・武力行使は違法であるという考え方が一般的になってきました。

そして、1945年の6月26日には二つの世界大戦の反省を踏まえて国際連合憲章というものが出来上がってきて、この国連憲章2条4項では「全ての加盟国はその国際関係において、武力による威嚇または武力の行使を、いかなる国の領土保全または正義的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と規定されています。

 

キャスター:ちょっと正直難しい文章なんですけど、どういう意味でしょう。

 

木村:この条文は色々修飾が使われてるんですけど、要するにある主権国家が他の主権国家に対して武力による威嚇・武力行使・戦争をしてはいけない、武力による威嚇・武力行使・戦争は一切合切違法である、国際法違反であると宣言した内容になっております。

これでありとあらゆる武力行使・戦争が違法とされまして、現在ではこの原則は、武力不行使原則と呼ばれています。

国際法の内容は19世紀的な無差別戦争観から20世紀半ば以降武力不行使原則へと大きく転換をしたわけです。

そして当たり前のことですけど、国連加盟国は全てこの原則を国連憲章に書いてあるわけですから国際法の基本原則として承認しています。

日本の憲法9条も原則として戦争・武力行使を禁じる内容になっていますが、これは日本特有のものというよりもむしろ、現在の国際社会・国際法の基本的な考え方と言っていいと思います。

 

キャスター:ただ、いくら武力を禁じる原則があったとしても、それを破って侵略を行う国が出てくることも現実には起きてきますよね。

 

木村:もちろん国連憲章はどんな場合も武力を行使してはいけないと言っているわけではなくて、侵略国家が現れた場合はの対応を決めています。

国連憲章では集団安全保障という考え方を採用しましたが、これは侵略国が現れた場合に、被害を受けた国やその同盟国だけでなく、国際社会全体で対応しようという考え方です。

現在の国際法では、武力行使は基本的にはそれを容認する侵略を認定して、それを排除するための武力行使をして良いという国連安全保障理事会の決議がある場合に限られるのだとされています。

91年の湾岸戦争の時には、イラククウェート侵略に対して国連安保理決議を出して、それに基づいて多国籍軍武力行使が行われました。

これはもちろん適法とされております。

また安保理が対応するまで被害を受けた国が何もできないというのは酷なので、安保理が決議をするまでの間は被害国自身が個別的自衛権を行使し、また被害国から要請を受けた国が集団的自衛権を行使して被害国を防衛するための武力行使をすることが必要性と均衡性の範囲で認められるとされています。

ただし個別的自衛権集団的自衛権は、被害国への武力攻撃の着手がある場合出ないと行使できないとされています。

北朝鮮のミサイル開発問題・核開発問題で、開発が済む前に先制攻撃をというような議論も聞かれなくはないですけど、ただもちろんミサイル開発問題・核開発は国際法違反ですので外交経済上の制裁、この前安保理の決議が出ましたが、それはやってもいいんですが、ただし武力行使以外の手段に止める、あくまで北朝鮮のミサイル開発問題も北朝鮮が他の国へ武力攻撃へ着手した場合は別にして、そうでない場合には、少なくとも核兵器を開発しているにとどまる段階では、武力行使まではほかの国はやってはいけないというのが現在の国際法です。

ですから仮に先制攻撃などをした場合には、それは国際法違反だという批判を受けるということになるというのが現在の国際法な訳です。

 

キャスター:ということは先月国連で採択されました核兵器禁止条約ですけど、これは国際法上から見ても当然出てくる流れだったという気もしますね。

 

木村:やはり核兵器というのは被害があまりにも大きくて、ご指摘の通り仮に武力行使が許される状況でも、国際法の原則に照らして適法に使用できる可能性というのは非常に低い兵器な訳ですね。

当然民間人を巻き込まないかたちで核兵器を使うのは相当難しいでしょうし、ですからこの国際法の流れからしても進めて言ってほしい流れであるというのはよくわかる話です。

日本やアメリカがすぐには参加ができないという事情はわかりますけど、国際法の大きな流れの中で条約の意味を考えてほしいと思います。

 

キャスター:ただ、原則というのはあくまでも原則で、それを守らない国があると結局それに対応する武力が発動されてしまうと、原則に意味があるのかという声も出てきそうなんですけど、木村さんはどうお考えですか。

 

木村:もちろん国際連合は当初期待されたほどの役割は果たしてないというのは、20世紀から指摘されていたことであります。

ただそうは言っても、20世紀の後半以降は主権国家同士が本格的に戦争を行うという事態、2度の世界大戦のような事態は非常に少なくなってきています。

戦争が少なくなったことについては、いろんな理由が指摘されますが、現に侵略を行なっている国以外の国には武力行使は絶対に許されないというルールが確立し、また19世紀は安全保障というのは軍事同盟に頼っていたんですが、軍事同盟というのは常にお互いに仮想敵国を想定して同盟国の結束を、敵国に対する敵愾心を煽ることによって固めるということをしなければならない枠組みなんですが、戦後は国際連合の下で、もちろん冷戦等はあるんですが、しかし曲がりなりにも国際協調を原則とする枠組みができたこと、これも20世紀後半以降戦争が少なくなった大きな要因と言っていいと思います。

ですから武力不行使原則は二度の世界大戦の悲惨な体験を経て、多くの人の努力によって確立した、そしてそれは非常に大きな役割を果たしている国際法原則であるということは否定できないと思います。

ぜひ、長崎原爆の日には、憲法9上のこともそして国際法のことも考えてほしいと思っています。

 

 

 

 

アメリカトランプ大統領のインフラ投資政策

8月8日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:アメリカのトランプ大統領の経済政策では、税制改革と並んで市場の期待が大きかったのが、インフラへの巨額投資でした。

現状はどうなっているのか、ワシントン支局の田中記者に聞きます。

トランプ大統領は10年間で官民合わせて1兆ドル日本円で110兆円余りの巨額のインフラ投資を行う方針を掲げて大統領選挙を勝ち抜きましたけど、その進捗状況はどうなっているんでしょうか。

 

田中:巨額のインフラ投資への市場の期待はしぼんでいます。

市場では、当初1兆ドルの多くが政府によるものだと期待していましたが、政府の予算要求いわゆる予算教書の中で、連邦政府の予算として求めたのは10年間で2千億ドルだけで、残りの8千億ドルは民間の投資に委ねたかたちです。

このため、IMF国際通貨基金)は先月、財政出動の規模が当初の想定ほど大きくないとして、アメリカの来年のGDPの伸び率の見通しを従来の2.5%から2.1%まで大幅に下方修正しました。

さらに既存のインフラ事業でさえ進捗が危ぶまれているケースも出てきています。

ミネソタ州ミネアポリスでは、7年前から進められてきた鉄道の建設計画の先行きが不透明になっています。

この事業は、連邦政府が毎年2300億円ほどの予算を配分している公共交通の整備プログラムへ承認され、これまでに環境影響評価などの予算として連邦政府から15億円が注ぎ込まれています。

今年建設を開始して、4年後の開通を目指していました。

しかし、トランプ政権がこの計画に待ったをかけました。

事業費2000億円のうち半分は連邦政府補助金を見込んでいましたが、今後は民間資金を活用した事業を優先するとして、政府の要求段階では予算の計上が見送られたのです。

鉄道会社のマーク・ファーマン副社長は、この鉄道計画への投資は、地域の繁栄にとって欠かせない、引き続き他の州と一緒に手続きが進行中の連邦政府補助金が得られるよう求めていく、と話していました。

 

キャスター:既存のインフラ投資計画も滞っているケースがあるということですけど、トランプ政権の方針によって、事業コストが上がる懸念も広がっているようですね。

 

田中:トランプ大統領は、アメリカの製品を買おうと呼びかけていて、こうした政策をさらに強化する方針を打ち出しています。

トランプ政権の前から、アメリカでは政府調達に加え、連邦政府の補助を受ける鉄道事業などでは、物資の購入にあたって、アメリカ産の製品を使う比率が定められてきました。

ワシントンのシンクタンク「アメリカンアクションフォーラム」の調べによりますと、アメリカの鉄道事業者は、車両の購入にあたって、外国と比べて34%もコストがかかっていることがわかりました。

これは、法律で車両のコストのうち60%以上アメリカの部品を使用することが義務付けられていたためです。

このシンクタンクのフィリップ・ロセッティ研究員は、Buy American政策による高いコストを負担しなければならないのは、どのケースでも最終的には納税者だ。こうした政策は、特に保護主義的と言えるだろう。と話していました。

アメリカのインフラ投資には、日本企業も期待を寄せていましたが、その規模が想定ほど大きくない上、Buy American政策がさらに強化されれば、日本企業が入り込む余地も限られる可能性があり、大きな期待はできそうにありません。

市場の期待が大きかった税制改革、インフラ投資といったトランプ政権の経済政策は、思うように進んでいないと言えそうです。

 

 

高齢者のがん治療、その実態  朝刊読みくらべ

8月9日放送 「森本毅郎・スタンバイ」

 

産経新聞の一面ですが、

がんと診断された75歳以上の高齢者は、手術や抗がん剤などの治療を行わない例が多いことが国立がん研究センターの調べで分かったという記事です。

それによりますと、年齢ごとの治療法について経年分析をしたのは初めてだそうですが、集計によるとがんと診断された患者の平均年齢は徐々に上がっていまして、

27年は68.5歳になったそうです。

75歳以上の患者の割合も27年には36.5%にあがりました。

ただ、高齢の患者は糖尿病とか高血圧などの持病もあったりして、全身の状態が悪かったりするもんですから、若い患者と同じ治療を行うことは難しいとされている。

その結果、27年に早期の状態であるステージ1の大腸がんと診断された40歳から64歳の患者では、9割以上が手術や内視鏡の治療をしたんだけれど、75歳以上では3倍に近い4.6%、85歳以上では18%で手術や抗がん剤の治療は行わなかった。

こういう記録が出てきてるんです。

しかし読売新聞は、これも一面のトップで取り上げてるんですが、

85歳以上のステージ4の人の例を出してるんですよ。

これはもう相当進んじゃってる85歳でしょ。

いきなりそこに行かないで、75歳から85歳に至るまでの人たちがどういう治療を受けているのか、あるいはどういう意識を持っているのか、そこのところをもう少し細かく出してもらわないと、極端から極端にいかれても、実態がもうひとつ浮かび上がってこない。

病院のせいなのか、個人のせいなのかもわからない。

という記事です。

 

 

NHKの世論調査の内閣支持率について

8月8日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:昨日まとまったNHKの世論調査安倍内閣の支持率が出ました。

太田解説委員に聞きます。

NHKが今月4日から行いました世論調査で、安倍内閣の支持率が、支持すると答えた人が改造前の先月の調査よりも4ポイント上がって39%、逆に支持しないは5ポイント下がって43%でした。

まだ支持しないという人の数字の方が高いんですけど差は縮まりましたね。

この数字をどう見ますか。

 

太田:過去の例を見ても、内閣改造後は支持率が上がるケースが多いので、政権への支持が回復したというより、このところの支持率低下にひとまずストップをかけることができたということだと思います。

今回の内閣改造安倍総理が経験者を多く閣僚に起用する、安定最優先の人事をしたのも、これ以上内部から政権基盤が崩れるのを防ぎたいという思いからでした。

関係者からは、支持率低下もこれで底を打ったのではないかと期待する声も聞かれます。

 

キャスター:安倍総理としてはこれで一息つけるということなんでしょうか。

 

太田:ただ、先程も言われた通り支持と不支持が逆転している状況に変わりはありませんし、内閣を支持する理由では、他の内閣よりよさそうだからという人が50%以上を占めており、決して積極的な支持とは言えません。

また、今回の改革改造と自民党役員人事の評価を聞いたところ、評価するが50%、評価しないが42%とそれほど大きな差はなく、まさに真価を問われるのはこれからといった感じです。

さらに、政党支持を見ますと、いわゆる無党派層などが減って、自民党の支持が内閣支持率と同じく4ポイント上がっています。

要するに、政権への不信感から自民党の支持をやめた人たちが、今回の改造や国民へのお詫びから始めた先日の総理の会見などを見て少し戻ってきたという事情です。

 

キャスター:さらなる信頼回復をしようと思ったら、何が必要ですか。

 

太田:まずは総理自身に対する国民からの不信にきちんと向き合うこと。

今回の調査でも、加計学園をめぐる問題で、総理の説明に納得できる人は15%、納得できない人は78%と、依然国民は厳しい目を向けています。

その上で、国民の不安解消を第一に考え、今日も台風で各地に影響が出ていますけど、このところ相次ぐ自然災害や北朝鮮のミサイル問題あるいは子育て・老後への不安など、今国民は様々な不安に直面しています。

政権として、自らがしたいことではなく、今国民が望んでいることにしっかり取り組む、それが信頼回復への第一歩だと思います。

 

キャスター:今回の世論調査では、来月1日に行われます民進党の代表選に関する質問もありましたね。

 

太田:蓮舫代表の辞任表明を受けて、代表が交代する民進党に期待できるかどうか尋ねたところ、期待するは23%、期待しないは70%でした。

民進党の代表選では、これまでに枝野元官房長官と、前原元外務大臣が立候補を表明しています。

民進党の支持率は今回の調査でも、二桁台に届かず、低迷が続いていますから、こちらの方も信頼回復の道のりは厳しいということだろうと思います。

 

 

 

新入社員の自殺。人格否定の新人研修が原因だとして、遺族が会社側を提訴

8月8日放送  「荻上チキ・Session-22」

 

2013年に大手製薬会社ゼリア新薬の新入社員の男性が自殺したのは研修中に受けた講師によるパワハラなどが原因だとして、遺族がゼリア新薬と研修を実施したコンサルタント会社ビジネスグランドワークスなどを相手取り、損害賠償を求める裁判を起こしたことがわかりました。

遺族側の弁護士によりますと、当時22歳だった男性は、新入社員研修中講師から同期社員の前で過去にいじめを受けた経験について告白するよう強要されたり、周囲に隠していた吃音を指摘されるなどした後、精神疾患を患い自殺したということです。

労働基準監督署は一昨年、男性の自殺と研修との因果関係を認め、労災として認定していました。

 

荻上チキ

いま裁判を起こしているということで、具体的な事柄がさらにこれから報道で出てくると思いますが、今回の研修が異常な内容になっていたんじゃないかということは、注目に値すべきものだと思います。

いじめを受けていた体験とか吃音を指摘されたという点に関しては、家族側は事実を否定しています。

過去にそうした吃音を聞いたことはないと。

だから、自分の過去のトラウマを吐き出すようなことを強要される中で、何かを言わなくてはいけないという格好で、そういった事実ではないことを言わされていたんじゃないかとか、いろんな話が出ていたりするんですけど、やはり集中的に圧力をかけられて、ストレスが高まってそこから逃げることが出来なくて、その関係性がこれからも続いていく、逃げようと思っても、逃げた先でさらに他の人に迷惑をかけるんじゃないかというような感覚に陥って、非常にメンタルが参っていく、鬱のような状態になっていく、というような回路というものはこの話を聞くだけで揃っているわけですよね。

そういった状況というものを、いかに会社の側がストレスを取り除いていくのかということがこれからより重要になってくるのに、ストレスをより味わわせて、それに耐えた者のみが一流の戦士となれるという発想の企業マインドというのは、非人道的であるし、古い上に、古かった当時ですら科学的根拠があるかと言えばそうではなくて、単に生き残った奴は生き残った奴でそうじゃない奴を振るいに落とすという方法なのであって、雇ったほとをちゃんと育てるという発想ではないんですよね。

よくストレスに耐える力を身につけて社会に出なければいけないんだということを言う人がいますけど、社会に出る時にはストレスに耐える力ではなくてストレスをおかしいと思って拒絶する力というものを身につける方がむしろ重要だと思います。

個人の能力としてというよりは、そういった風にみんながなるように社会としても目指していきましょうということが重要で、個人がストレスをはねのけるんだということが、あまりに推奨されすぎているわけですけど、もちろん大事だと思いますよ、ストレスに対抗する力はあった方がいいとは思います。

ただ、個人にそんなにストレス耐性ばかり言って、社会にあるストレス要因の方をなんとかしなければ、元も子もないし、そっちの方を疑う力をみんなが身につけなくてはいけない。

そういった研修こそが本来必要で、会社の側から理不尽な指導を受けた場合には、労基法でこうですよという、そうした研修をやってくれれば、ホワイト企業ですよね。

そうではなくて、上司なども含めた理不尽な叱咤などに耐えなくてはいけないですよみたいな、そんなレクチャーをする講師はいらないですよね。

よくわからない研修をやっている会社って未だにたくさんあるんですけど、研修の効果測定をどうしてるんだろうと思いますよね。

この実態については、しっかりと把握すると同時に、パワハラとか様々なプレッシャーをより適切に対応していくような企業体質あるいは社会の体質になってほしいなと思います。

 

対岸の火事ではない ロンドン集合住宅火災

8月7日放送  「先読み!夕方ニュース」

 

キャスター:今年6月、イギリスロンドンで起きた高層住宅の火災について、中村解説委員に聞きます。

高層住宅の火災と言いますと、外壁が焼ける高層の建物火災、今月4日にUAEのドバイでも起きましたよね。

こうした火災は日本で起きないと考えていいでしょうか。

 

中村:そうは言い切れないところなんですね。

そこでこのロンドンの火災から何を学び取らなければならないのか、日本の火災対策の課題を考えてみたいと思います。

 

キャスター:このロンドンの火災では80人ほどが亡くなられましたよね。

どうしてこんなに大きな被害になったんでしょうか。

 

中村:捜査当局などが調べているところではありますけど、大きく避難と外壁の問題が指摘されているんです。

まず避難ですけど、24階建てのこの高層住宅では、建物の外側は全て住居で人が住んでいるところで、中心部分の内側に階段とかエレベーターがまとめてあったんですね。

階段は一つしか無かったので、階段に煙が充満するなどして、避難する経路が確保できなくなったということが、亡くなった方が多かったことにつながったと指摘されているんです。

 

キャスター:ロンドンの火災なんですけど、特徴として外壁が一気に燃え上がったというのがあげられると思うんですが、なぜあの様な燃え方をしたんでしょうか。

 

中村:外壁には断熱材が取り付けてあったんですね。

さらにその外側にパネルが設置されていました。

 この断熱材が焼けたこととその外側のパネルも焼けたということで、大規模な外壁の火災につながったとみられているんです。

その断熱材とかパネルに使われていた材料の種類が比較的燃えやすい物だったのではないかなどといった指摘があるんですが、この辺の詳しい原因は当局の調べを待たなくてはならないというところです。

 

キャスター:そうした火災というのは日本では起きてるんですかね。

 

中村:国内では比較的最近起きた高層ビルの火災としては1996年に広島のマンションで起きた火災などがありますけど、ロンドンの様な外壁を伝わって火災が建物全体に広がったという例は無いですね。

一方で、海外では毎年の様に高層住宅とか高層ホテルで繰り返しこういった火災は起きているんです。

 

キャスター:ロンドンの火災の場合、避難と外壁の問題ということですけど、日本の場合はどうなんですか。

 

中村:日本でこういうことが起きないと言い切ることはできないというのが現実だと思うんですね。

ひとつ避難について言うと、ロンドンの様なタワー型の超高層のマンションは日本にもありますけど、二つ以上の階段があって、逃げる経路も二つ以上確保されたり、あるいは階段に煙とか炎が入らない様な扉で守るというようなことをやっているので、地上に降りるための避難経路を確保できるようにしています。

こうしたことから、日本では避難ができなくなって大勢が犠牲になるという火災は起きにくいというのが専門家の見方です。

ただ外壁については課題があると指摘されています。

外壁を伝わって日が広がらないようにするルールというのが日本でどうなっているのか見てみると、建築基準法では窓からの炎が上の会の窓に広がるのを防ぐために原則上下の窓の間隔を90センチ以上開けるなどということは定めてあるんですが、外壁の外側に取り付ける断熱材とかパネルについての規定がないというのが現状なんですね。

また法律ではないんですが、自治体の担当者などが作っているいわゆるガイドラインがあるんですけど、このガイドラインでも上の階への延焼を防ぐことについて明確に定めたルールというのはないんです。

つまり、外壁を伝わって日が広がらないようにするような明確なルールがないというのが日本の現状なんですね。

 

キャスター:そういう状況の中で、日本には外壁に断熱材やパネルを取り付けた建物はどれぐらいあるんですか。

 

中村:国土交通省も調べたりしていますけど、全国的なことになると実態はよくわからないというのが現状なんですね。

壁に断熱材やパネルを取り付けるメーカーとかそういう工事をしている業者を取材すると、例えば断熱材を取り付けるときには火にさらされても燃えないように断熱材の表面を完全に燃えないもので覆うようにしているとかしてるんですね。

これはヨーロッパとかアメリカなどの海外のルールに準じた設計をしているということなんですね。

またより燃えにくいような特殊な材料を使っているケースもあるんですね。

 

キャスター:そういうことを聞くと対策は日本ではできていると考えていいんでしょうか。

 

中村:そうも考えられるんですが、ただ現状に課題があると考える専門家は少なくないんですね。

法律などに規定がない中でそういった対策が本当に徹底されているのか、あるいは日本の実情に合ったようなルールがなくていいのかというようなことが指摘されているんですね。

外壁に火が回るような火災が起きたときというのは非常に危険ですので、そういった業者側の自主的な取り組みだけでは不十分だと思います。

 

キャスター:どんな対策が必要になってくるんでしょうか。

 

中村:国土交通省は、このロンドンの火災の状況などを踏まえて、必要な対策を検討することにしています。

先ほど言ったガイドラインを作った全国の担当者などで作る団体もガイドラインを見直す必要がある家内か今月中にも協議を始めることにしています。

いずれにしても、国レベルのルールづくりというのが求められていると思います。

例えば火がつかないように外壁に取り付ける断熱材やパネルには不燃性のものにするということを要求するとかですね、あるいは海外にあるように断熱材の表面を覆うなど火が届かないような作り方をするように求めることなどが必要だと思います。

また仮に、断熱材やパネルが燃えても、その日がそのまま上の階に広がるのを抑えるように、壁を燃えない材料で区切るというようなことをするとか、あるいは梯子車が届かなくなる11階以上の建物については、外壁についてのルールを厳しくするといったことを検討する必要があると思います。

 

 

世界危機遺産に指定されたウィーン

8月7日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:オーストリアのウィーンの中心部は世界遺産に指定されています。

百年以上前の美しい街並みを求めて世界中から多くの観光客が訪れています。

ところが先月、ユネスコ世界遺産委員会は、ウィーンを危機遺産に指定しました。

ウイーン支局の小原記者に聞きます。

小原さん、この危機遺産というのは、具体的にはどのような遺産のことを言うんでしょうか。

 

小原:世界遺産としての価値がこのままでは失われてしまう恐れのある遺産のことなんです。

武力紛争や自然災害で破壊されたり、観光開発で指定の理由となった自然が失われたりしている世界遺産が、危機遺産に登録され、世界に50以上あります。

ただウィーンのように、先進国の世界遺産危機遺産に指定されるのは、異例のことなんです。

 

キャスター:なぜ危機遺産になってしまったんでしょうか。

 

小原:実は高層マンションの開発計画がきっかけになっているんです。

世界遺産指定されている地区の中で、再開発計画が進んでいまして、高さ60メートルを超える高層マンションが建設されようとしています。

ウィーンの中心部の歴史地区は世界遺産に指定されているわけですが、この地区の建物の高さは、教会などを除いて百年以上前から30メートル以下に制限されています。

景観が保たれている理由の一つなんですが、計画のマンションは制限の2倍以上で、市民からも反対の声が上がっています。

 

キャスター:規制があるわけですよね、行政は動いていないんですか。

 

小原:実はこの計画を推進しているのが行政なんです。

この計画に関してだけ制限を外すとしていて、ユネスコと真っ向から対立しています。

市は、高層マンションの計画で呼び込んだ投資マネーで、市民が利用出来るスケートリンクを合わせて建設するとしています。

また、マンションひとつだけで、この街の歴史的な価値も失われるわけではないと反論しています。

そしてあくまで、計画を推し進める姿勢で、世界遺産の指定を取り消されることになれば、それも仕方がないと、世界遺産で亡くなったとしても観光客は来るとまで話しています。

 

キャスター:かなり強い言葉ですけど、行政はなぜこの計画にそこまでこだわっているんでしょうか

 

小原:焦りがあります。

イギリスがEUから離脱を決めたことで、多くの企業やEUの機関がロンドンに代わる新たな本拠地を探しています。

ウィーンもその候補地の一つとなっていますが、世界遺産に指定されていることで、街の中心部で新たな都市開発をするのは簡単なことではありません。

市としては、高層マンション計画を実現することで、投資マネーを歓迎する姿勢を国内外に示し、一つでも多くの企業や組織の誘致につなげたいと言う意図があります。

 

キャスター:ただウィーンには世界中から観光客も来ますし、焦る必要はないようにも思うんですけど。

 

小原:ウィーンがあるオーストリアでも、実は少子高齢化が急速に進んでいます。

社会保障費が大きくのしかかる中、税収と雇用を増やさなければ、このままでは市の財政もますます厳しくなると言う危機感があります。

市の担当者は、世界遺産という称号は有り難いが、それだけでは食べていけないと話していましたが、それが本音なのだと知りました。

市は来年2月までに、ユネスコに改善策を提出しますが、市・ユネスコそして市民の間で、どのような議論が行われるのか取材を続けたいと思います。

 

イタリア中部地震から1年、復興の現状と課題

8月7日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:およそ300人が死亡したイタリア中部の地震からまもなく1年となります。

被災地の現状についてヨーロッパ総局の堀記者に聞きます。

まずはこの地震による被害状況を改めて整理してください。

 

堀:現地時間の去年8月24日の午前3時36分頃、マグニチュード6.0の地震が人口2600人余りの町アマトリーチェを襲い、これまでに住民や観光客など299人が死亡しました。

また、同じイタリア中部では去年10月にも1981年以降で最も大きいマグニチュード6.5の地震が発生するなど、その後も地震活動は活発で、最初の地震では持ちこたえていた多くの住宅や建物が倒壊しました。

さらに今年1月に相次いだマグニチュード5.0を超える地震では、雪崩も発生し被害はさらに拡大しました。

イタリア政府によりますと、地震によって19万棟余りが被害を受け、最大で3万人余りが避難を余儀なくされました。

 

キャスター:最初の地震からまもなく1年となりますけど、復興は進んでいるんでしょうか。

 

堀:私は先週、被災地のアマトリーチェを取材しましたが、復興には程遠い状況です。

町の中心部では、今も瓦礫の撤去作業が行われていて、メディアだけでなく、住民達も自治体の許可がなければ立ち入りができない状態が続いています。

住宅の復興は遅れていて、再建できたのはわずか10%にとどまっています。

また、仮設住宅の建設も進んでおらず、全体の20%未満しか完成していません。

 

キャスター:なぜ復興がそこまで遅れているんでしょうか。

 

堀:最大の要因は、今も続く地震活動があげられます。

イタリアの国立地球物理学火山学研究所によりますと、イタリア中部ではこの1年間にマグニチュード3.0以上の地震が1100回余り発生しています。

この数は日本でも地震活動が活発とされる熊本地震に匹敵する数で、自治体は地震で被害が拡大する度に、住宅などの被災状況の調査に追われています。

このため、住宅の再建や仮設住宅の建設に想定以上の時間がかかっているんです。

 

キャスター:となりますと、住民生活への影響も大きいでしょうね。

 

堀:住民は今も新たな地震への恐怖にさらされています。

私が取材した地震で夫を失い、自宅も大きな被害を受けた48歳の女性は、まだ仮設住宅に入居できず、支援を受けたキャンピングカーで寝泊まりしています。

すぐそばには観光客が所有する別荘があり、被災者には無償で貸し出されているのですが、この女性は深夜の地震で倒壊したら逃げられないなどと理由を説明していました。

キャンピングカーで寝泊りを続ける被災者に数多く出会い、住民の不安の大きさを感じました。

 

キャスター:復興へ向けて今後まず何から始めなくてはなりませんか。

 

堀:一刻も早い仮設住宅の建設と住民の不安の払拭です。

これだけ地震活動が続く状況は異例ですが、1年間で仮設住宅の供給率が20%に満たないのは大きな問題だと思います。

また、被災地は豪雪地帯としても知られていて、厳しい冬を迎える前に仮設住宅を建設し、住民が安心して暮らせる環境を整備することが急務です。

さらに、被災者の中には地震で職を失ったままの人も少なくなく、復興活動に従事してもらうなど、雇用を生み出す対策も求められています。