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沖縄報道 県内外での温度差

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」 5月18日放送

解説:ノンフィクションライター 藤井誠二

 

司会:沖縄が本土に復帰してから今年の5月15日で45年となりました。

藤井さんは、もともと東京にお住まいでしたが、10年ほど前から沖縄に仕事場を設けて、月の半分くらい沖縄に暮らしながら仕事をしていらっしゃいます。

 

そこで、沖縄県内での報道と沖縄の外での報道、両方とも目の当たりにしていらっしゃるわけですけど、率直にどんな印象をお持ちですか?

    

藤井:半分程度しかいない私ですら、地元の2紙、沖縄タイムズとか琉球新報とかありますけど、その新聞をまめにチェックしていると、圧倒的に県外で報道されないのはやはり、米兵とか米軍の軍属の犯罪ですよね。

 

最近も殺人事件とかは大きく報道されましたけれど、住居侵入とか窃盗とか交通違反とか飲酒運転とか、そういうルールを守らないような、日常的にそういうことが起きていて、沖縄の新聞でも小さなベタ記事になるくらいたくさん起きているんですね。

 

それが、全然こちら、東京なんかにいると、伝わって来ないですけれど、地元に住んでいる方だと、そういった日常の米兵の住居侵入、夜中に酒に酔って勝手に入って来るんですね。

 

そこから強姦事件に発展したりとか、あるいは殺人事件に発展したりするということが、可能性としては高いわけで、特に基地が集中している中部から北部にかけての住民の方々、特に子供さんとか、毎日そういう恐怖とかを持って、警戒心を持って生活をされているということが、新聞を読むだけで分かりますし、そういう方々と接していると、話としてそういうことは分かりますよね。

 

そういうことが東京にいるとなかなか想像できないと思いますね。

 

司会:それがずっと昔から続いているわけですよね。

 

藤井:そうですね。

 

実は私は今「沖縄アンダーグラウンド」という本を書いていて今年中に出版をするんですけれど、これは沖縄に長い間あった、歓楽街とか売買春街と言われた、最近なくなったんですけど、戦後史ですね、これをルポした本なんですけど、もともとアメリカが沖縄を占領した時から、毎日のように米兵によるレイプ事件、殺人事件、車によるひき逃げ事件とか、あるいは強盗事件というものがものすごい数起きてるんですね。

 

それが起きても、基地の中に逃げ込んじゃうから犯人すらわからない。

 

地元でそういう記録をつけている方がいるんですけど、それもごくごく一部しかつけられていない状況なんですね。

 

ごくまれに、捕まっても、すぐ国(アメリカ)に送り返されてしまって、それは今でも続いている地位協定がありますから、アメリカの米兵・軍属の地位は保障されているわけですね。

 

だから、アメリカに帰ったら、人を殺していてもとても軽い罪で済んでしまうような。

 

そういった現状が、ずっと戦後続いているということがあるんですね。

 

もちろん、数や規模は昔の方がひどかったですけど、今は数はもちろん減ってますけど、その歴史の延長線上というか連続性の中にいまだに沖縄の方々は置かれていて。

 

そういった記憶ですね、つい自分のおじいちゃん・おばあちゃんまで沖縄の地上戦を経験して、その後のアメリカによるひどい占領ですね、人間を人間とも思わないような、沖縄の方を、そういった時代を記憶していると。

 

ですから、まだ近い歴史の事なんですよ。

 

そういった感覚も、なかなか(本土の)私たちにとっては想像しにくいのかなと思うんですよ。

 

で、今の40代50代、日本に復帰する数年前に生まれた人たちの話を聞いても、友人の友人とかあるいは近しい家族が米兵から殴られるとか、嫌がらせをされるとか、中にはレイプ事件の被害者になるとか、そういう話は割と普通に聞くんですよね。

 

どれだけそういった危険が身近かということがよく分かりますし、今の70代80代の方、タクシードライバーとかの話を聞くとですね、ドライバーさんが車を奪われたりとか暴行されたりとか、ということもしょっちゅうだったと。

 

当時の新聞を見ますと、本当に数が多いんですよ。そういった事件が。

 

これだけ、被害にあっていれば、今の沖縄の方々がアメリカの基地に抱き続けている感情というのは、そうそう簡単になくなるわけではないし、沖縄戦で亡くなった人も含めて、その後も被害が続いているということを、私たちはもっと知るべきだと痛感します。

 

司会:もちろんこういった状況というのは日本各地にある沖縄以外のアメリカ軍基地の周辺でもあると思うんですけど、沖縄は基地の規模が飛びぬけて大きいですね。

 

藤井:そうです。母数が違うというのがありますよね。

 

70%以上の米軍基地の機能が沖縄に集中しているということがあるので、当然数も圧倒的に多くなります。

 

それから、当時ベトナム戦争に出発して行くとか、他の所に沖縄から出発して行くわけですよね。

 

そうすると、精神的にかなりダメージを受けた兵士が返って来たり、ということになると、非常に荒れるわけですね。

 

その荒れたストレスとかそういうものが沖縄の方へ向けられると、沖縄の人々に向けられると、そういう状況もあったので、それは他の地域、横田とかいろんな所に米軍基地はありますけど、そことは比較にならないくらいの米軍被害があったし、今も続いているということだと思います。

 

司会:先月NHKが行った世論調査でこんな結果が出ているんですね。

 

沖縄の人に対して行った調査なんですけど、ここ5年ほどの間に沖縄を誹謗中傷する言動や行動が増えたと感じるか聞いたところ、感じるもしくはどちらかというと感じると答えた人が57%、感じないもしくはどちらかというと感じないと答えた人が27%。

 

6割近い人が沖縄を誹謗中傷する言動や行動が増えていると感じている。

 

藤井:僕も驚いているんですけど、ただ、向こう(沖縄)に通ってますと、やっぱり「あるな」と感じますね。

 

今の翁長知事が2013年にオール沖縄ということで市町村長と銀座でデモ行進したんですね。

 

オスプレイ配備するなと。

 

その時に、一部の心なきヘイトスピーチが浴びせられて、「非国民」とか。

 

そういった言葉が浴びせられて、翁長さん含めてすごくショックを受けるんですね。

 

そんなこと言われたことなかったですから。

 

ですから、沖縄がどういうふうに見られているのかということを、本当に肌身で感じたそうなんですね。

 

それまでは、そういったことをもろに受けることはなかったんですが、特にインターネットなんかは、沖縄の声を聞いてくれと書き込むと、それに対して「日米安保だから当然だ」とか「北朝鮮のミサイルの脅威には沖縄が必要だ」みたいなことで何言ってるんだと、それこそ非国民というようなことがどんどん書き込まれるんです。

 

そうすると、沖縄からすると内地、すなわち県外の人は敵じゃないかみたいな、沖縄のことを分かってくれようとしていないじゃないかという意識が若い世代にも広がってるんじゃないかという気がします。

 

NHKのアンケートでもあったと思うんですけど、沖縄差別という言葉が使われていると思うんですよ。

 

これはやはりここ数年ですよね。

 

沖縄差別があるかということに対して何らかの形で「ある」と言う割合がどんどん増えていると思います。

 

司会:そのギャップというか、それは縮めていかないといけないと思うんですけど、一方で難しいという気もします。

 

藤井さんは沖縄のことを知りたいと思って、一個人で取材を始めたわけですけど、なぜ知りたいと思ったんですか?

 

藤井:僕はもともと沖縄が好きなんですね。一言で言って。

 

沖縄って人口の流動性が高くて、移住者も多いんですよ。

 

沖縄の気候とか自然とか人柄が好きで移住する人が多いんですけど、僕も同じで。

 

行ってみて溶け込んでいくうちに、いろんな問題も当然見えてくるし、僕は仕事上いろいろと取材もしますから、いろんな深い部分が見えてくるわけです。

 

ですから、好きの延長で、いろんなものがおいしいなとか、沖縄そばがおいしいなとか、もちろんそれだけでもいいんですけど、さらにその先の問題、沖縄が抱えた問題を見ていくと、より沖縄を理解することにつながるだろうなというふうに思うんです。

 

今は海外からの観光客も多いですけど、観光資源も多いですから、それはそれでいいことなんですが、普通に国道とか走っていたら基地がたくさんありますから、なんでこんなに基地が多いんだろうとか、普天間の街の中、なんでこんな住宅街の中に基地があってオスプレイが飛んでくるんだろうとか、というようなことまで、もう少し深く見て、沖縄が好きだという延長線上でそういったことを考えてもらえば、もう少し温度差が縮まるのかなという気がします。