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世界経済フォーラム(ダボス会議)に出席して

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」 5月23日放送

解説:慶應義塾大学名誉教授・東洋大学教授竹中平蔵氏にインタビューしていました。

 

司会世界経済フォーラム、通称ダボス会議の東アジア地域会議がカンボジアの首都プノンペンで今月11日と12日の2日間開かれました。

 

アジア各国の首脳や経済関係者などおよそ700人が参加して、デジタル化・高齢化問題などを議論しました。

この会議について出席した慶應義塾大学名誉教授・東洋大学教授の竹中平蔵さんに伺います。

 

このアジア・ダボス会議は、スイスのダボスで開かれる世界経済フォーラムの年次総会・ダボス会議のアジア版なんですね。

 

竹中:はい。その通りです。

 

ダボス会議は、いくつかの地域会議(リージョナル・ミーティング)というのを持っていまして、ラテンアメリカ会議とかアフリカでの会議とかあるんですが、そのアジア版が、今年も開かれたと、毎年開かれるんですが、今年はカンボジアプノンペンで開かれたということです。

 

司会:かなりたくさんの方が集まったようですね。

 

竹中:そうですね。1000人弱くらいだったと思います。

 

カンボジアの方これほどの国際会議が開かれるのは初めてだと言っておられました。

 

私はダボス会議全体の理事をしていますので、毎年ほとんど出てるんですが、今年は特に主催しているのはカンボジアですから、フンセン首相が議長になってですね、あとラオスの首相・ベトナムの首相・フィリピンの大統領というそうそうたる方々がそろいました。

 

司会:今回はどんなテーマで話し合われたんでしょうか。

 

竹中:今年は2017年ということでASEANが結成されてからちょうど50周年の節目になります。

 

1967年にASEANが結成されるわけですけど、東西冷戦が終わってから、それ以前は政治的なつながりが強かったんですが、冷戦後は経済共同体という形に変貌しまして、非常に強い発展を遂げているわけですけど、それをさらに強めようという意気込みが感じられる会議でした。

 

司会:ちょうど1967年といいますとベトナム戦争の最中ですよね。

 

そこから、ASEANの目指す方向が変わってきたということですか。

 

竹中:そうですね。当時アメリカではドミノ理論ということがよく言われまして、アジアの一つの地域当時は南ベトナムですけど、そこが共産主義化すると、それがドミノ倒しみたいにアジア全体に広がっていくと。

 

だから、共産主義を食い止めなければいけない、反共の砦としてASEANをアメリカの肝いりで作ったと、これが始まりなんですね。

 

したがって、きわめて政治的な色彩が強いものでした。

 

しかし東西冷戦構造が終わって、みんなが市場経済の中に入ってきたわけですが、そうすると反共の砦としての意味はなくなって、そうではなくて経済共同体として経済協力していこうというかたちに変わっていったわけです。

 

とりわけ、1995年にベトナムASEANに入ったということは、ASEANの性格を大きく変えたと思います。

 

司会:現在なんですけど、ASEANではどんなことが問題点となっているんでしょうか。

 

竹中:まずASEANは非常に強い点をたくさん持っています、と同時に問題点も持っています。

 

ASEANの強みとして彼らが強調するのは、たちえばヨーロッパがEUからのイギリスの離脱のように分裂していっている、NAFTA(北米自由貿易協定)もトランプ氏の考えで分裂する方向にある、というように今までの経済統合がどんどん分裂してしまっている中で、世界の中でASEANだけはさらに統合を強めている、そこが自分たちの強みだというのが第一点だと思います。

 

もう一つ彼らが強調する強みは、平均年齢が非常に若い、日本を含む先進国は平研年齢が高くて高齢化が進んでいるわけですが、ASEANの地域の平均年齢は若くて、平均年齢が若いということは新しい技術への対応力も高いということで、その点に可能性があると、その点が強みとして強調されています。

 

しかし、弱みもあります。

 

それは圧倒的な所得の格差、これが費用に強いということです。

 

今10か国が加盟していますが、シンガポールは一人当たり所得は日本の2倍近くある大変所得の高い国です。

 

一方で、新たに加入したミャンマーカンボジアは、一人当たり所得が日本の30分の1ぐらいですから、圧倒的な所得格差があるのでそれをどのように埋めていくか、そこが彼らの非常に大きな困難な問題になっています。

 

したがって彼らは、内包的な経済成長、みんなを包み込むようなインクルーシブ・グロースという言葉を使いますが、全体としてもっと高いところを目指せるようにというのが、彼らの大変高い問題意識だと思います。

 

司会:具体的に言いますと、どんなところが重要だと考えているんでしょうか。

 

竹中シンガポールを除くASEANの国々で共通で心配されていることがあります。

 

それは、「中所得国の罠」という言葉があるんです。

 

低所得国から中所得国になる、一人当たりGDPが5000ドルから1万ドルくらいの中所得国になるのは比較的簡単にできるんです。

 

しかし、中所得国から日本やアメリカのような高所得国・先進工業国になるには、イノベーションが起こせる社会にならなければいけなくて、それができるかどうかは分からない。

 

中所得国にはなったけど、そこの罠から抜け出せなくて、先進工業国になれなかった国というのは、ラテンアメリカの国では非常に多いわけです。

 

一方で中所得国から一気に高所得国になった日本や韓国のような国もある、ASEANは一体どっちのコースを行くんだろうか、というのが彼らの最大の関心事です。

 

司会:実現への道筋というのは、その会議の中では話し合われたんですか。

 

竹中:これは非常に幅広い問題で、世界中の中所得国が抱えている問題ですから、ASEANも当然、長い間そのことを議論してきています。

 

その中で、必ず出て来るのがイノベーションが起こせるような国になるためには、ASEANの国々から見てると、日本の企業の協力が非常に重要だということになります。

 

日本の企業から見ても、そうすることによってASEANの成長の活力を自分の企業のそして日本経済の成長に取り込めるということになりますから、これはASEANとしても助かるし、日本にしても良いことだというウィンウィンの関係だと思うんです。

 

結局、日本とASEANの経済協力をいかに進めて、結果的にASEANの国々は日本のイノベーション力を活用して、日本はASEANの成長力を活用する。

 

そういうかたちを具体的に作っていくという、非常に重要な段階に来ているということだと思います。

 

司会:中所得国から先進工業国になるためにはイノベーションが必要と、そこには日本の力が必要であるということですね。

 

今まで私たちがASEAN諸国に対しての対峙の仕方と変えていく必要があるんでしょうか。

 

竹中:今までASEANの国々に対しては、ODA(政府開発援助)をたくさんやってきました。

 

特にインドネシア、タイ等でいろんなインフラを作る役割を果たしてきました。

 

それに対して今度は中国がそういう役割を担うということで影響力を強めています。

 

私は、いい意味で日本と中国は競争してインフラ整備をすればいいと思うんですが、今重要なのは企業ベースでの協力関係を増やす・強化する、そこが具体論として重要になっていると思います。

 

繰り返しますが、日本は人口が減少していっていますが、ASEANの国々は人口が増加しています。

 

かつASEANの人口は足すと6億人になるんです。

 

6億人というのは、EUの人口よりも多いんです。

 

それほどのマーケットがありますから、そこを日本の側から積極的に企業協力の面で活用していくと、それが今まで以上に求められることではないでしょうか。