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マイナス金利と銀行経営のひずみについて

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」 5月24日放送

解説:慶應義塾大学経済学部教授 金子勝

 

司会:デフレ脱却に向けて異例のマイナス金利政策が去年の2月16日に導入されました。

 

その後の銀行の収支はよくないんですか。

 

金子勝マイナス金利によって金利が非常に低くなったので、貸出金の利息収入が非常に落ちているので、2016年の前半で1754億円の減少、率にすると6.7%減っている。

 

ということで、国際業務部門は逆に資金調達コストが上がってるんですけど、大手7グループの2017年3月期の決算を見ると、純利益の合計は前年比4%減の約2兆6千億円と、3年連続の減益になっているんです。

 

マイナス金利による金利低下の貸出金収入の効果というのは、マイナス金利で約1900億円ぐらい影響を受けていると見られています。

 

地方銀行の場合はもっと苦しくて、合併や提携が相次いでるんですが、16年の中間決算で見ると、経常利益が1338億円16.7%も減少している。

 

中間の純利益で見ても750億円の落ち込み、13.8%のマイナスになっている。

 

司会:日本のマイナス金利政策は、金融機関が日銀に預ける任意の預金にマイナス金利をかけるということで、預けると手数料がかかるということですよね。

 

だから、預けにくくなるというものですよね。

 

金子勝:そうです。本当は貸し出しが増えるはずだったんです。

 

ところが実際には貸し出しはほとんど実行されていない、貸出金は増加していないんです。

 

そんななか、伸びているのは不動産融資・住宅ローン、消費者ローン、こういうところなんです。

 

そこには危うさが潜んでるんですよ。

 

東京都心3区で始まった都心バブルというものがあったんです。

 

高層ビルとかタワーマンションがどんどん立つような、いまそれが大阪・名古屋から地方中核都市に波及していってるんですが、都心ではすでに在庫が出始めてタワーマンション・高層マンションの価格も15年末ぐらいから下がり始めているんです。

 

昨年度、2016年度に伸びたのは、住宅着工は確かに伸びたんです。

 

その中身を見ていくと、持ち家は前年比で1%増、分譲住宅(一戸建て・マンション)も前年比3.9%増だったんですけど、分譲マンションだけを見ると0.9%減少しているんです。

 

賃貸を目的としたアパート・マンションを建設する「貸家」というのが、41万戸増えてるんです。

 

マンションが減る中で個人の貸家建設が増えていて、一部は相続税対策といわれているんですが、そこへの貸し出しも日銀の統計だと15兆円も伸びてるんです。

 

これが景気を支えているということなんですけど、金融緩和がもたらした貸家バブルみたいなところがあるんです。

 

2015年の貸家の空き室率は15.3%に達しています。

 

これがここのところ上がって来ているので、いずれ空き家がかなりの率で増えて行ってしまうのではないかと思うんです。

 

それから、個人の持ち家住宅も増えてるんですけど、住宅ローンの金利が非常に低いんですね。

 

借り手側からすると住宅ローン減税が手厚いのでコストが余りかからないということで増えてるんですけど、これは需要の先食いになってしまうんです。

 

人口減少社会ですから不動産関係の融資は持続可能性がないと思うんです。

 

司会:銀行では貸出利息の収入が減っているというお話でしたけど、不動産以外の個人向け融資も減ってるんですか。

 

金子勝:いや、増えてるんですよ。

 

カードローンの融資残高は1兆数千億円大手だけで増えてるんです。

 

年率で8%あまり伸びてるんです。

 

しかし、超低金利のため利ザヤが取れないんです。

 

そのため金利の高い消費者ローンへ銀行が向かってるんです。

 

これは銀行と提携する消費者金融会社とかカードローン会社が貸し倒れリスクを負うので、その分高い金利になっています。

 

確かに貸金業法の改正で異常な高利はなくなりましたが、じわじわと多重債務者を増やしていくという危険性を含んでいると思うんです。

 

司会:日銀の異次元緩和について、出口を探さなくてはいけないという議論が行われています。

 

これは金融緩和の限界を意識しているということなんでしょうか。

 

国として歪んでいるとしたら、財政はもつんでしょうか。

 

金子勝:デフレ脱却効果もないわけだし、出口はなくなってきてるんです。

 

当面財政で見ると、財政赤字は1060兆円あるわけです。

 

ここのところの利払費を見ると、9兆円から10兆円なんです。

 

単純計算でみると、金利は0.1%以下という。

 

だから、猛烈に日銀が高い価格で国債を買ってくれるために、財政が緩んでめちゃくちゃお金を出しても利払費が増えないので、何とかもっちゃうという状態になっていると思います。

 

ところが、日銀はもう425兆円も国債を持っていて、しかもお金を刷ってばら撒くというのは、税金を取ってばら撒くのが本来の筋ですから、安易で簡単な方法で、これで政権が支持を得ているというやり方なんですけど、いつまでももたないです。

 

金利が上がった瞬間、例えばアベノミクスが成功してインフレになったら金利も上がっていかざるを得ない、そうすると財政が破たんしてしまうんです。

 

日銀が買いオペをできなくなっても同じことが起きます。

 

買い手である日銀が買わなければ、国債価格が下がって金利が上がるということで、財政はもたなくなる。

 

実際80兆円年に買うと言ってるんですが、金融機関もローリスクの手段として国債を持たないといけないので、60兆円ぐらいしかなく、弾切れになってきてるんです。

 

そこで、ゆうちょが70兆円ぐらい国債を持っていますのでこれを対象にして買いオペをやるんじゃないかといわれています。

 

司会:日銀の信用度というんでしょうか、これは考えざるを得ないですよね。

 

金子勝:そうですね。1%金利が上がると67兆円国債の価値が下がるんですね。

 

日銀だけで見ても26兆円損失が出ると。

 

たしかに、日銀の中に別会計にして国債を閉じ込めて満期まで持てば金利低下の影響は出ないんですけど、ところがマイナス金利ですから満期の時の額面価格より高い価格で買い取っているわけで、この分だけで損失が10兆円ぐらい出るんです。

 

だから、なかなかこれを脱していくというのは、債務超過を避けるのは難しい状況になってきているのではないかと思います。

 

株も買っていますけど、これもリスクが大きいですし、株価が下がれば損失が出てしまいますから。

 

最も怖いシナリオはハイパーインフレーションなんですけど、これってめったに起きないんですね。

 

ハイパーインフレーションというのは、政府が債務不履行になったり戦争になったりした時にしか起きないので、すぐに起きるわけではない。

 

だけど、未来を見ていない無責任というものが社会に蔓延してるんじゃないか。

 

そういう意味では、こういうリスクを回避するために、デフレ脱却に失敗した緩和政策を、出口をどうしたらいいか、難しいですけど、その方向性を示さなけてはいけない時期にきていると思います。