待ったなし 人手不足対策
NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」 5月30日放送
解説:今井解説委員
アナウンサー:今日発表された4月の有効求人倍率はバブル期で最も高かった水準を超えました。
有効求人倍率は、仕事を求めている人一人に対して企業から何人の求人があったかを示すものなんですけど、これがバブル期で最も高かった水準を超えたということで、今井解説委員に聞きますが、これは深刻な人手不足ということですね。
今井解説委員:今お話がありましたように、今日公表された4月の有効求人倍率が1.48倍なんです。
これはバブル期の最高だった1990年7月の1.46倍を抜いて、1974年2月以来43年2か月ぶりの高い水準だったんです。
要するに、仕事を探している二人の人を三つの企業が取り合うかたちで、企業にとっては深刻な状態です。
アナウンサー:景気を見ますと、バブル期と比べるとそれほどでもないと思うんですけど。
なぜ、ここまで人手不足が深刻なんですか。
今井解説委員:大きな背景にあるのは、働く世代が減少しているということです。
主な働き手となる15歳から64歳の人口は、バブル期の後1995年の8700万人をピークに2015年までの20年間でおよそ1千万人減っています。
今後20年でさらに1200万人余り減る、つまり毎週1万人以上のペースで働き手が減る見通しなんです。
そう考えると、人手不足は今後多少景気が悪くなってもそう簡単には解消しない構造的な問題になっていると言っていいいと思います。
企業にとってみると、いま本格的な対策に乗り出さないと、これから先どんどん人が取れなくなる。
そういう待ったなしのタイミングにきているということだと思います。
アナウンサー:人手不足というと、外国人労働者をもっと入れればいいんではないかといった声は上がらないんですか。
今井解説員:当然一部では上がってますけど、外国人労働者を全面的に受け入れることに対しては、まだ国内でも反対意見が強いです。
実際には今でも研修というかたちで多くの外国人の労働力に頼っている職場もありますが、今後は中国などで人口減少が進むので、早々日本に来てくれないんじゃないかという指摘もあります。
そうであれば、企業が自ら対策に乗り出さないと、生き残れなくなるということだと思います。
アナウンサー:具体的にはどんな対策が考えられるんですか。
今井解説員:いま進んでいるのは、少ない人材で稼ぐ省力化、例えばロボット化です。
国内の産業用ロボットの受注額は、去年の秋以降二桁の急速な伸びを示しています。
最近では工場だけでなく、レストランの受付とか店のレジ、土地の測量、こうしたところでも人の代わりにロボットを導入する動きが進んでいます。
もう一つは、長時間労働を見直すという動きです。
働く人にとって魅力的な職場にしていかないと人材が集まらないということで、大企業を中心に急速に広がっています。
問題は余裕のない中小企業です。
74%の中小企業が人手不足を感じているよいう調査結果もあるんですけど、その対策として35%の企業が「残業を増やした」と答えているんです。
これではますます人が集まらない悪循環になる心配があります。
アナウンサー:そうなると、どうやったら中小企業はこの危機を乗り越えられるでしょうか。
今井解説員:知恵と工夫で取り組みを進めている先進的な企業もあります。
二つ紹介します。
一つは、ITの活用で生産性をあげるという、コツコツ投資をしている企業です。
京都宇治市にある精密機械メーカーなんですが、ここでは社員が自らITの勉強をして、職人の熟練の技をデータベース化して、繰り返しの作業を24時間無人で加工できるシステムを開発しました。
そして、限られた社員は、試作品の開発やマーケティングなど人でしかできない知的な業務の方に回しました。
その結果、大幅に生産性が上がったうえ、やりがいがあるということで、毎年優秀な学生が応募してくるようになりました。
二つ目は、女性や高齢者など、これまで働きたくても働けなかった人材に来てもらおうという動きです。
東京新宿区にある商社なんですが、一人一人の希望に応じて短時間勤務とか在宅勤務などの制度を柔軟に整えて、そのうえで社員がいつ休んでも他の人がカバーできるように一つの業務を二人で担当したり、一人がいくつもの業務をこなせるようにしたりしました。
この結果、この10年離職率は事実上ゼロで、また通年で多様な人材を中途採用できるようになりました。
資金が厳しくても、このように経営者の判断で出来ることはあると思います。
日本企業は、これまで中小企業が支えてきました。
それだけに、待ったなしで職場の改革に取り組んで、人手不足を乗り越えていってほしいと思います。