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M&Aは何が難しいのか

NHKマイあさラジオ「社会の見方 私の視点」 5月31日放送

解説:経済アナリスト 森永卓郎

 

アナウンサー:最近日本の企業のM&A(合併・買収)がうまくいっていないというニュースがたくさん流れています。

 

森永卓郎:大きなものとしては、東芝が5月15日に昨年度の連結最終損益が9500億院の赤字という見通しを発表しました。

 

そして債務超過の額が5400億円になるという、大変な赤字になったんですけど、この赤字の原因はアメリカの原子力企業ウエスティング・ハウス・エレクトリックという会社を買収していて、これを破たん処理したことが原因です。

 

もう一つ日本郵政が、民営化以降初めての連結赤字に転落して、当初は3200億円の黒字を予想していたんですけど、400億円余りの赤字になってしまいました。

 

これも、原因は上場前に買収したオーストラリアの大手物流会社のトール・ホールディングスが経営悪化して、これを減損処理したことが原因です。

 

アナウンサー:いわば東芝日本郵政も失敗したということだと思うんですけど、この原因はどこにあると思いますか。

 

森永卓郎:実はM&Aというのは、極端に分けると二つのタイプがあります。

 

ひとつは買収資金は出すけれど引き続き経営は任せますというタイプと、もうひとつは徹底的に経営を調べて自社の完全な管理下に置くタイプ、吸収合併とか乗っ取りのようなことをするパターンです。

 

今回の東芝日本郵政も、前者つまり経営を任せるタイプで失敗したんだと思うんですけど、何故かと言うと、買収する会社の経営状態というのを細かく把握するというのは、なかなか難しいんです。

 

特に海外企業の場合はますますわからないので、大きなリスクが潜んでいるという可能性が非常に大きくなります。

 

東芝の場合は、ウエスチング・ハウスの破たんの原因は、東日本大震災の後福島原発の事故が起こって、アメリカでも原子力の安全基準が厳しくなって進行中の工事を新しい安全基準でやり直さなくてはならなくなったり、世界的に原発の見直しの動きが広がって新しい原発の受注が取れなくなってしまった知追うことであると言われているんですが、一方でそもそもウエスチング・ハウスの中に大きなリスクが潜んでいて、それを東芝が見抜けなかったという説もあります。

 

アナウンサー:外から見るのは難しいという一つの証左だと思うんですが、日本郵政の方なんですけど、トールという会社を買収したんですけど、このトールという会社自身もこれまでに100件ものM&Aを展開してきたということですね。

 

森永卓郎M&Aで会社がくっつきますよね、そうすると、中に必ず派閥が含まれて、経営統合を完全にするということは、本当に長い時間かからないとできないんです。

 

中にいろいろな派閥ができると、情報も経営陣の所に完全に集まるというわけではなくなるので、外から見た時にその会社の経営実態が本当はどうなっているのかというのが、ますます見えにくくなります。

 

なので、M&Aを繰り返した会社は、もっと中身が分からない、実際に買収して中に入ってみて驚くようなことがあるんだと思います。

 

アナウンサー日本郵政は今度は野村不動産の買収に乗り出すとされています。

 

この買収についてはどう見ていらっしゃいますか。

 

森永卓郎:これに関しては、日本の企業ですし、日本郵政は不動産業もやっていますからある意味同業なので、海外企業の買収の比べれば表面的にはうまくいく可能性は高いと思います。

 

ただ大きな問題は、野村不動産日本郵政というのは全く社風が両極端といっていいぐらい違うんです。

 

日本郵政というのは、もともと三工社五現業のひとつで公務員みたいなものだったんです。

 

それと比べて、野村不動産は体育会家でガンガン営業をするというタイプの会社なので、日本郵政が買収するということは日本郵政の側が支配するという構造になってしまうので、内部が統合されるまでに相当時間がかかってしまうのではないかと思います。

 

そういうことを考えると、M&Aそのものが果たしていい方法なのかなという疑問を感じてしまいます。

 

アナウンサー:よく言われるのは、統合して互いの顧客にそれぞれの製品・サービスを新たに販売しあう、売り上げのシナジー効果などといいますけど、そういうものは生まれないんでしょうか。

 

森永卓郎:企業は、それぞれの企業文化をもって、それぞれの仕事のやり方でやってきているわけですね。

 

それが資本の論理で、新規事業に進出するとか売り上げを拡大するんだという動機で合併しても、なかなかすぐにはうまくいかないと思います。

 

アナウンサー:同じ業態でもやり方や目的、向いている方向が違うという場合もあるということでしょうか。

 

森永卓郎:私はかつてUFJ総合研究所というUFJ銀行の子会社のシンクタンクで働いていたんですが、この会社が合併したわけではなくて親会社のUFJ銀行が事実上東京三菱銀行に吸収されるようなことになりました。

 

そうすると、役員が三菱側から入って来るわけです。

 

企業文化だけでなく伝票の書き方とか報告の仕方とか何から何まで全部違うわけです。

 

正直言うと、私はそれがきっかけで会社を辞めることになったので、残ったメンバーも入り入り苦労を重ねているのを見ると、やはり本当の統合が実現するのは新体制で採った新入社員が経営幹部になるまで難しいんじゃないかと思います。

 

アナウンサー:一方で新規事業の拡大とか経営基盤の強化のためにはM&Aは必要だという意見も根強くありますよね。

 

森永卓郎:私は、M&Aをするよりももっと早いのは、自ら事業を手掛けることだと思います。

 

典型がJR九州で、上場できないのではないかといわれていたのが、自ら新規事業をどんどん仕掛けていって、いまや非鉄道収入が6割以上になって立派な会社になったわけです。

 

ですから、自力で頑張ればJR九州のようなこともできると思います。