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移民政策に提言「これ以上外国人労働力にたよるべきではない」

TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ」 6月1日放送

評論家 山田五郎

東海道新幹線グリーン車とかにおいてある雑誌にあったんですけど、今月号の特集が『気が付けば移民国家』なんですよ。

日本で働く労働者の数が増え続けていて、去年の10月の時点で100万人を突破しているんです。

労働者以外も含めた在留外国人の数も昨年度で約290万人と過去最高最高を記録しています。

どんどん増え続けているんですけど、その受け入れ態勢はいまだ場当たり的で整っているとは言い難いのが現状です。

この雑誌でもその状況をいろんな角度から紹介しながら、「中途半端な外国人受け入れを正せ」という副題を掲げています。

これに私もまったく同感です。

この問題は真剣に考えなければいけないところまで来ているのではないかと思います。

まず、外国人受け入れ問題の大前提として、今の日本における深刻な人口減少と労働力不足があります。

この人口減少と労働力不足を外国人受け入れで解決しようという発想そのものが一番の間違いであって、諸悪の根源ではないかと思います。

さらに我が国の場合は、そこに加えて「労働力は欲しいけど移民として定住されるのは困る」という、実に身勝手かつ傲慢で虫のいい考え方をしています。

この虫のいい発想で、単純労働を目的とした外国人の来日を禁じています。

その一方で、たとえば外国人技能実習制度というような抜け穴を作っています。

これは、技能実習を名目に農業とか漁業の分野に限って3年間滞在を認めるという制度です。

この制度が人気なんです。

93年には17職種だったのが、2016年には74職種までに拡大されています。

さらに国家戦略特区では、滞在期間を3年から5年に延長しようという感じで、なし崩しに適用範囲が拡大されていっています。

建前上は外国人実習生は日本の先進技術が学べて、日本は移民として定住させることなく安い労働力が得られる「ウィンウィン」の政策のような感じになってるんですけど、そんなうまい話があるわけありません。

実習生だからということで低賃金・重労働のブラック雇用がはびこったりして、途中で逃げ出す実習生もいるし、あるいは最初から入国目的に悪用する実習生もいます。

日本は、大学入試と同じく入るのは厳しいけど、入ってしまえばあとはどうにでもなるというところがあります。

いずれの場合も、逃げた実習生の多くはそのまま日本国内に潜伏しています。

そして、違法労働とか犯罪に従事してしまうんですが、その実態があまりつかめていないという状況です。

逆に実習生がすごく優秀ないい人材でもっと働いてほしいと思っても、この制度だと3年あるいは5年で返さなければいけないという問題があります。

さらに単純労働の人材が不足しているのは農業とか漁業とか実習制度で認められた74職種だけではありません。

飲食店とか接客業とかも不足しています。

そちらの方では、留学生というのが抜け穴として利用されています。

留学生のバイトですね。

我々が居酒屋やコンビニで日々会っている外国人は留学生の方という場合が多くなっています。

だけど、これはこれで学費を借金させて留学を斡旋するような悪徳業者がアジア各国ではびこっています。

先に借金させて、借金漬けにして、日本で働かせて高額の利子を稼がせるという手口です。

こんなことなら普通に単純労働目的の入国を認めて、移民受け入れに舵を切った方がいいのではないでしょうかという方もいらっしゃいます。

確かにそれも一理あります。

個人的にはそれはやめた方がいいのではないかと思っています。

別に「日本の民族の伝統文化を守れ」とか「外国人を入れるな」とか、そういうことが言いたいわけではありません。

うかつにこれをやってしまうと、今よりひどい結果をもたらして、日本人にとっても移民にとっても両方不幸な結果になりかねないからなんです。

まず第一に、移民受け入れというのは、単に「グローバル」だとか「多様性の社会」とか、そういう美辞麗句だけでは乗り越えられない解決困難な社会的な問題を引き起こすんです。

ヨーロッパの事例を見ればわかります。

まして歴史的に移民を受け入れた経験のない日本が、この問題にそう簡単に対応できるとは到底思えません。

それから二番目の理由として、今の日本の労働力不足の原因は経済が成長していることではなくて人口が減っているからです。

ということは、経済自体には移民を受け入れるだけの余力はないんじゃないかと思います。

単純労働は景気の影響を受けやすいですから、今東京オリンピックに向けて建設業の労働人口が足りないからといって外国人を入れたはいいけど、仕事が無くなった時どうするんですか。

仕事がなくなれば、仕事の取り合いが始まりますよね。

移民で定住して人たちの仕事がなくなれば、これをほっておくわけにはいきません。

社会保障で支えなければならなくなります。

これが今まさにヨーロッパで起きている問題です。

それから、もうひとつの理由は、気が付いていない人が多いかもしれませんが、アジア諸国の労働者にとって日本はすでに日本人が思っているほど魅力的な移民先ではなくなっているんです。

高度な技能を持つ優秀な人材だけではなく、単純労働においてもすでに中国とかシンガポール・タイなどで取り合いが始まっています。

次に成長してきたところの方が給料がいいんです。

だから今更移民受け入れ政策に舵を切っても、思っているほど優秀な人材が来てくれるとは思えません。

だから、労働力不足を外国人で補おうという発想自体が間違っていると思います。

外国人を労働力として考えるという発想自体が、根本的に間違っていると思います。

それはモラルとしても間違っているし、奴隷制度と同じ発想ではないかと思います。

それから経済的にも間違っていると思います。

労働力不足に対応するほかの方法を考えるべきだと思います。

人口が減っても大丈夫な社会にしていくということが先決だと思います。

たとえば機械化とか、IT化とか、経営の近代化とか、農業を工業化してみたりとか、ノルウェーのように漁業を近代化して人気の職業にするとか、まだまだできることはたくさんあります。

単純労働の賃金が安いから日本人労働者が来ないというなら単純労働の賃金を上げることの方だ大切なんじゃないでしょうか。

さらに、新卒一括採用をやめて職業選択の多様性を高めるとかしてもいいんじゃないでしょうか。

つまり高度成長期の幻想をいつまでも追いかけないで、量よりも質の低成長型経済に向けて社会全体の仕組みを変えていくことの方が先なのではないかという気がします。

人口が減るから補わなくてはいけないばかり言っているけど、人口が減っても大丈夫な社会を作っていくことの方が先決で、一時的に外国人労働者で補おうという考えをしても、先々大変な社会問題を引き起こすと思います。

もちろん、絶対受け入れないということを言いたいわけではありません。

ただいまの考え方ではろくなことにならないと思うのです。

だから、そうして人口が減っても大丈夫な社会の仕組みに変えていく一方で、外国人とのより良い共生のために必要な社会的なインフラ、たとえば日本語教育の施設もまだまだ足りませんし外国人の犯罪に対して警察が対応できる範囲もまだまだ限られているわけですから、そういうことをじっくり議論していく。

それから、「こういう方針で入れていきますよ」ということでやっていくべきだと思います。

繰り返しになりますが、まずは人口が減っても大丈夫な社会を築いていくことが大切だと思います。