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がんになっても働き続けるために

NHKマイあさラジオ「社会の見方 私の視点」 6月1日放送

解説 がん患者就労支援会社 代表取締役 桜井なお

 

アナウンサー:先月、自民党衆議院議員が党内での受動喫煙対策について議論した際に、がん患者について『働かなくてもいいのではないか』と発言して謝罪しました。

 

この発言につきましては、様々なところから批判が出たんですけど、改めて、がんになった人が働くということはどういうことなのか考えさせられるきっかけにもなりました。

 

桜井さんは、ご自身も乳がんと診断されて治療しながら働き続けるという経験がおありですけど、働いている人ががんの診断を受けるというのは珍しいことではなくなってきているそうですね。

 

桜井:がん治療というと、なんとなく昔は病院に入院してというイメージがあったかと思うんですけど、今は通院しながら働くことができるようになってきていますので、30代から40代で見ると、4人に1人の方。

 

アナウンサー:がん患者の全体のうちの4人に1人が30代40代と考えていいんですか。

 

桜井:そうですね、治療の進歩も会って生存率は上がって生きています。

 

今は、半分以上の方がご存命になっています。

 

アナウンサー:働き盛りであれば、当然、子育てもありますし、生活していくうえでのお金も必要になってきますよね。

 

桜井:一般国民の平均値で言うと50%ぐらいの方が働くことの目的はお金を得ることと言ってるんですけど、がんの患者さんだと66%なんです。

 

つまり、7割近くの方は、治療のために働かなくてはいけない。

 

生きがいとかよりもお金のために働くということが多いです。

 

アナウンサー:だいたい4人に3人は働きたいと思っている。がんになっても。

 

桜井:はい。

 

アナウンサー:現実はどうなんですか。

 

桜井:現実は厳しくてですね、診断を受けた後に、3人に1人の方が仕事を辞められているというのが現状です。

 

アナウンサー:これは身体が厳しくて辞めるというだけではないということですけど、なぜこういったことが起こるんでしょう。

 

桜井:やはり、一般的には会社の直属の上司・同僚の方が、がんという病気・今のがんの治療というものがどういうものか、よく分かっていないというのが一番大きいところかなと思います。

 

たとえば手術が終わったら治りましたではなく、その後もお薬の治療等が続きます。

 

それが1年とか場合によっては5年・10年と続いてしまうわけで、そこの部分があまり理解されていないかなと思います。

 

アナウンサー:職場の人たちはどういう反応をしがちなんでしょうか。

 

桜井:一番多かったのは、私も言われたんですけど「治ってよかったね」という言葉でした。

 

全然治ってなくて、これからまさに抗がん剤等の治療を行っていかなければいけないのに、「治ってよかったね」と。

 

また逆にいうと、再発されると今度はなかなか直せなくなる。

 

直せない人に対して、「直してから出てこい」と。

 

じゃあ、「来るな」ということなんですか、という(認識の)違いが出てきています。

 

アナウンサー:見た目、どうしてもがんの方というのはそうでない方と比べて、変わりがない、見えにくいというところがありますよね。

 

桜井:当然、脱毛ですとかいろいろな見た目で分かるものも起きるんですけど、かつらなどがありますので比較的外見上の違いは少なくなってきたかなと思います。

 

ただ、薬の副作用で内面的な状況は低下していきますので、それはすごく問題になっています。

 

アナウンサー:周りの人がなかなか理解できない、見た目も健常の人とあまり変わらない。

 

そうすると、仕事は任せてしまうということになるんでしょうか。

 

桜井:患者さんの相談で多いのは、仕事がどんどん増えてくる。

 

体力が落ちたので働き方を変えたいんだけど、なかなか仕事量が変わらないということがあったり、逆に働き方を変えたくて役職を下げるようなことをしたんだけど、仕事が全然変わらない、でも給料は下がってしまったという、こういう相談が多いです。

 

アナウンサー:よく会社では、時短勤務という制度がありますね。

 

これをうまく活用することはできないんですか。

 

桜井:そういう制度があるところは、その制度をぜひお使いくださいと勧めています。

 

逆にない方は、配慮つまり規則にはないけれどお願いをすることで場合によっては使えるかもしれませんよと言うことをお勧めはしています。

 

ただ、企業側としてほしいのは、それが1週間なのかそれとも1年なのかで、配慮の仕方が大きく違いますし、同僚の方の不公平感とも関係してきますので、どれぐらいの期間それが必要なのかということを知りたいというところです。

 

アナウンサー:患者の立場からすると、期限はなかなか決められないですよね。

 

桜井:そうなんです、やはり体調が揺らぐんですね。

 

なので、昨日はよかったけど今日はとか、来月はちょっとわからないですとなってしまいますので、私たちは例えば6カ月・1年間と数字で決めない方がいいのではないかと言っています。

 

やはり自分の人生なので自分で選び取るということがすごく重要かなと思います。

 

なので、合意をして働き方を変える、ということが重要です。

 

一方的に言われてしまうと、「辞めろ」と言っているんだとネガティブに受ける可能性もあるので、非常に危険です。

 

アナウンサー:企業では有給休暇がありますよね。

 

これを使って治療に充てる、そのことで賄えるのではないかと思いがちなんですが、がんで実際に闘病されている方にとっては、有給休暇を使うこと自体は、どういうお気持ちなんですか。

 

桜井:まず最初は有給休暇から消化していくような形になります。

 

私たちが調査をしたことがあるんですが、大体診断から1年間でどのくらい体が動かなかったですか、と聞くと、平均して49日と出ています。

 

そうすると、有給休暇では足りない部分が出てきます。

 

アナウンサー:しかも、有給休暇の時は病気と闘っているんですよね。

 

桜井:そうなんです。決して遊びで休んでいるわけではないんです。

 

身体が動かないんです。

 

アナウンサー:それはある意味仕事と一緒というか、気持ちは休まらない。

 

桜井:そうですね。休まらないです。

 

逆に言うと、病気をして迷惑をかけたというような気持になられていますので、申し訳ないという気持ちで休暇を取られているというのが現状です。

 

アナウンサー:すると本来健常な人であれば、休みというのはリフレッシュのために使いますけど、そうにはなっていない。

 

桜井:そうです。健常な人でしたら休暇を取ることでリフレッシュして「さあ、働くぞ」とモチベーションが上がるようなことになると思うんですけど、がんの場合はそうではないですね。

 

アナウンサー:配慮すれば働ける人が辞めてしまうというのは会社とか社会にとっても大きな損失であるはずですよね。

 

桜井:大きいですね。

 

いま2人に1人はがんになるというふうに言われています。

 

仕事を辞めてしまうと収入が下がるので、外食をやめる、新しい服を買うのをやめるなど消費行動も鈍ってしまいます。

 

厚生労働省の研究では、がんになったことで仕事を辞めるということから、1.8兆円の損失があるという発表もされています。

 

アナウンサー:経済的に見て損失であるということですね。

 

桜井:これから日本は働き手がどんどん少なくなりますから、そういう中でも労働損失ということは考えていかないといけない、国の成長課題にまでなっています。

 

アナウンサー:とすると、がんになった方が働けるようにするためには、どういったことが必要になってきますか。

 

桜井:今の対策は、企業がもっと頑張りなさいということで、罰則を作って締め付けていこうというのが今までの社会制度だったと思うんですけど、がんの問題に関しては、もっと積極的に取り組む企業を応援するような形がいいのではと思います。

 

たとえばインセンティブというんですけど、助成金を出したりとか。

 

アナウンサー:いわゆるご褒美ですね。

 

桜井:そうです、ほめて伸ばすというのがいいと思います。

 

アナウンサー:どんな方法がありますか。

 

桜井:東京都の事例ですけど、東京都はそういう取り組みをしたところ、つまり元の職場に戻って就労が継続した人あるいは新しく採用した人に対して助成金が出るようになりました。

 

地方の公共団体では、そういう企業に対して入札の時にポイントをあげるところもあります。

 

これは無料でできることですよね。

 

こうして、いい企業がいい仕事をするといういい循環を生み出すというところもあります。

 

それから表彰制度と言って、企業表彰をするんですね。

 

そういうものも大切かなと思います。

 

アナウンサー:表彰されればいい人材が集まるということになるんですね。

 

桜井:そうです。今の若い人たちは給料がいくらかよりも、どういう企業なのか・どういういい企業なのかと、いい企業の価値観が変わってきていますので、そこを考えていただきたいと思います。

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