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働き方改革について NHKマイあさラジオ 「今週のオピニオン」

NHKマイあさラジオ「今週のオピニオン」6月2日放送

解説:法政大学教授・社会活動家 湯浅誠

 

アナウンサー:働き方改革につきましては、残業時間の上限を規制するための法律について議論が厚生労働省の分科会で行われていますけど、その報告書案が今週の火曜日に示されたようですね。

 

湯浅:そうですね。政府と労働者団体・使用者団体の合意を受けて策定されています。

残業の上限が年間720時間、月60時間ですね。

繁忙期もありますから、そういう時でも100時間を超えることはできない、100時間未満という方向でまとまりました。

たぶんこの秋の臨時国会に提出されるんではないかと言われています。

 

アナウンサー:この点についてはどう評価されますか。

 

湯浅:年間720時間という時間数には、まだまだ長すぎて不十分だという意見もあります。

他方、これまでも問題提起はあったんですが、何十年間とそれこそ半世紀以上上限の設定をするには至らなかったんです。

そういう意味では、上限規制で合意に至ったこと自体が画期的ともいえると思います。

今後、これを第一歩としてさらなるワークライフバランスの確立に向けて、見直しを期待していきたいですね。

ただそのうえで、今後に向けて気になることが2つあります。

まず、裁量労働制というものの問題です。

裁量労働制というのは、一般の普通に働く人たちは例えば9時から5時みたいに会社に時間拘束されているのに比べて、会社から時間拘束を受けない働き方をする人たちのことを言います。

たとえば、基本的には一定の成果を出せば1日8時間働いたとみなされるというみなし労働時間というものが適用される人たちです。

たとえば新聞記者の方なんかは、ある記事を1本仕上げた場合にそれを8時間分働いたとみなす、というふうに労使で決めます。

そうすると、実際には5時間で書き上げる記者もいれば10時間かけて仕上げる記者もいるでしょうけども、どちらもみなし労働時間は同じだというふうになるんですね。

この裁量労働制というものについては、会社にだらだらと長くいるだけじゃなくて、仕事も効率よく仕上げて早く終わるという人を正当に評価する制度だというふうに評価する声がある一方、会社が1日これぐらいでできるでしょと膨大な業務量を課してくれば結果的には際限のない長時間労働になってしまうという指摘もあります。

実際、研究機関が行った調査を見ても、裁量労働制で働く人たちが訴える最大の課題は、結果的に長時間労働になってしまっているということなんですね。

ですので、裁量労働制で働く人たちはだいたい60万人ぐらいと言われていますが、長時間労働規制に対する抜け道のようにこの働き方がなってしまうと、せっかく上限を規制してもあまり意味がない、どんどん抜け道に流れればそれでいいじゃないかという話になってしまうので、そこは気をつけたいところです。

 

アナウンサー:そうならないためにはどんなことが必要ですか。

 

湯浅:まずは、裁量労働制が認められている業態は限定されているんですね。

なのでこれを無限定に広げないということが必要だと思います。

もう一つは、仮に裁量労働制で働く人であっても、身体を壊すまで働くことがないように実効性のある健康維持策は必要だと思います。

EUでは、インターバル規制というものを導入しています。

これは、仕事が終わってから始まるまでの間一定時間は空けましょうという制度です。

EUの場合は11時間なんですけど、そうすると、例えば仕事はもちろん忙しい時がありますので、今日は夜中の12時まで仕事をしなくてはならなかったという人は、11時間開けないと次の仕事を始められない、会社は働かせてはいけないと、こういう規制です。

そうすると、どんな時でも一定の休息は取れるので、健康維持に役立つとしてEUでは導入されています。

これならば、定時がはっきりしない裁量労働制で働く人たちにも適用できて、日本でも参考になる制度なんじゃないかなと思っています。

もう一つは、今検討されているものに、高度プロフェッショナル人材制度というのもあるんです。

これは、今お話しした裁量労働制のさらに上を行く制度ということになっています。

裁量労働制というのはみなし労働時間で一定時間働いたとみなされると言いましたが、裁量労働制の場合それでもみなし労働時間を超えれば残業手当もあるし深夜手当や休日手当などの概念が残ってるんですけど、高度プロフェッショナル人材制度の場合は、労働時間という考え方を働き方から完全に取っ払ってしまう制度なんです。

したがって、休日手当もない深夜手当もないもちろん1日何時間働いても関係ない、という労働時間を働く人に適用しない制度です。

これはかなり例外的なので、今のところ年収1750万円以上の非常に高い給料を得て働く人たちが想定されているんですが、この1750万円以上というのをさらに引き下げていこうという動きもあって、これもまた拡大する可能性がありそうです。

 

アナウンサー:クリエイティブに働く人に対しては、それにふさわしい労務管理をという声もあるんでしょうけど、どちらも同じ人間ですからね。

 

湯浅:まさにおっしゃる通りで、成果型で働く方が実際増えています。

そして、だらだらと会社に長くいればそれが偉いという時代はもう終わったと言われれば、まさにその通りです。

ただ、他方でこの間の電通の過労死事件等を踏まえると、どんな人たちでもどんな働き方の人でも、実効性のある健康維持管理制度と、家族や友人そして地域で過ごす時間は確保される必要があるんだと思います。

そういう意味では、多様な働き方、これはもう現実にそうなってきてますが、その名前の下に涙を流す家族が出ることのないように望みたいと思います。