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神戸アニメストリート閉鎖に見る復興支援のむずかしさ #山田五郎「荒川強啓デイ・キャッチ」

TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ」5月25日放送

 

「ボイス」山田五郎 

 

5月14日の神戸新聞に「神戸アニメストリート閉鎖へ」という記事が出ました。

これは、震災復興と町おこしのむずかしさについて考えさせられる事件だと思います。

 

神戸アニメストリートとは、神戸市長田区の復興再開発ビル「アスタくにづか3番館」に神戸市が誘致したアニメ関連のショップが入る商業施設です。

神戸市が6700万円を投じて開業を支援して2015年3月にオープンしたんですが、わずか2年で閉鎖することになりました。

 

なぜ閉鎖することになってしまったのか。

神戸とアニメに何の関係があるのかという疑問があると思います。

 

この問題を考えるとき、神戸長田区の震災復興の歴史から考えなければなりません。

 

22年前、1995年1月17日に起きた阪神淡路大震災で神戸の永田地区は大火災が発生して焼け野原になってしまいました。

もともと、ケミカルシューズ製造を中心とした小さな町工場や商店街が密集する地域で、神戸市は震災前からこの地域の再開発をもくろんでいたこともあって、震災から2か月後、2711億円という当時西日本最大の再開発予算を投じて約20ヘクタールの土地を買収、そこに高層を含む44棟のビルを建てるという計画をいち早く発表しました。

駅周辺の商店街も新しくできるビルに入れるということで、一見素晴らしそうな再開発計画なんですが、今にして思えばこれが全ての元凶となる大失敗だったんです。

まず、土地の買収やビルの建設に時間がかかって、最初のビル「アスタくにづか1号館」が建ったのが4年後の1999年11月でした。

 

その間、仕事をなくした住民は他の地域へ出て行ってしまい、商店街のお客さんは先にできたスーパー等の大型店に取られてしまいます。

 

やっと新しいビルに入ったものの客はいない。

さらに、入居にはお金がかからなかったものの、公益費・固定資産税等の入居後の費用がかさみ、たちまち苦境に陥ってしまいます。

 

住居棟に入った住民も、震災前より家賃が上がったりしたことで済み続けることができなくなり、再開発が終わるころにはビルは建っているけど人がいない、ゴーストタウンのような状況に陥ってしまいました。

「これは復興どころではなく、街の破壊だ」とか「震災以上の人災」とまで非難されるようになってしまいました。

 

何とかしなければということで、商店街を中心に様々なことをやりました。

「大正筋商店街」という商店街の名前にちなんで大正時代風コスプレで行進する「大正ウィーク」というものを企画したり、2007年から地元出身の漫画家横山光輝三国志にちなんで三国志コスプレのパレードを企画、2009年には近くの公園に鉄人28号の実物大フィギュア(高さ15.6メートル)を建築し、全国的に話題になりました。

鉄人28号のフィギュアは全国でも報道されて話題になり、観光客も増加しました。

こうしたことから、神戸長田区とアニメのかかわりが深くなっていきます。

2012年からは、「神戸ポップカルチャーフェスティバル」という催しも開かれて、それなりににぎわいを見せるようになってきました。

 

ところが、ここに神戸市が再び色気を出してきてしまいます。

前回の再開発の折に「住民不在」と非難されたことへの反省から、今回は地域住民や大学と共同で街の活性化を話し合おうとして、「くにづかリボーンプロジェクト」を2013年に立ち上げます。

その結果、ポップカルチャー関連ショップを集めようという案が出て、その際整備案に基づいて事業案と事業者を公募して始めたのが「神戸アニメストリート」だったんです。

 

このように計画自体は、それほど出鱈目なものだったというわけではないんです。

 

ところが、いくらアニメ文化が人気で成功してきたと言っても、1年中人を集めるとなると話は違ってきます。

オープニングの時こそ盛況でしたがすぐに閑古鳥が鳴く状況になってしまいます。

しかも、滋賀業務を委託した業者がかつて詐欺事件にも絡んだことのあるいわくつきの業者で地元での評判はあまり良くなかったようです。

オープン直後から、商品を製作するメーカーに代金を支払わないというトラブルが相次ぎ、ついに被害者の会が結成されて訴訟沙汰にまでなってしまいました。

そんな業者を選んで、補助費6700万円も投じた神戸市の責任問題に発展しています。

そして、今年の6月で閉鎖することが決定しました。

20年以上にわたって度重なる災難、本当に神戸長田区の人々がかわいそうです。

 

ここに行政主導の震災復興・再開発のむずかしさと問題点が集約されていると思います。

 

行政主導になることでお役所仕事になり、時間がかかってしまいます。

被災者の方々は、バラックを建ててでもいいから、すぐにそこに住みたいと言っているのに、行政は安全管理等を理由にこれを許さず、大規模な再開発をやってしまい、時間ばかりかけたため、住民は耐えられなくなり、他の地域へ流出してしまいました。

 

さらに、再開発を大規模にしてしまったため、そこに多額の費用が投入されました。

多額の費用が投入されると、その費用は地域住民にかかってきます。

再開発により建設されたビルは、家賃・共益費・固定資産税いずれも震災前より高額になり、住み続けることができなくなる人が多かったそうです。

 

そしてもう一つ、行政主導になると、自由がなくなってしまいます。

行政主導だと、コンプライアンスが重視されて、「あれはやっちゃだめだ、これはやっちゃだめだ」と決まりごとが増えてしまい、出来ないことが増えてしまいます。

また、復興予算があるもんですから、これを目当てに外部の資本とか悪質な業者が集まってきてしまったということもあるようです。

仮に悪質な業者が来なくても、外部の資本に仕事を奪われて、地元住民に利益が回らないということもあるようです。

 

日本にはかつて『闇市』と呼ばれるものがありました。

日本が戦後の焼け跡から立ち上がるとき、ある種の「無法状態」の中で、なりふり構わず商売をやって、立ち上がってきました。

当然、同様のことが現在の日本で許されるはずはありませんが、真の復興は地元の人が自分の足で当てるようにならないとだめだと思います。

そのためには、行政が余計な口出し・手出しやお金を出すことよりも、いろいろな規制を緩和することの方が大事なのではないかと思います。

 

現在、神戸市長田区駅前には立派な高層ビルが建っています。

しかし、この再開発ビルは建物は立派でも、人がいない「ゴーストタウン」のようになってしまっています。

ぜひ、この長田区の失敗から学んで、東日本大震災熊本地震等の復興に生かしてもらいたいと思います。