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東電改革のジレンマと福島復興の今後について 社会の見方・私の視点

NHKマイあさラジオ  6月5日放送

解説:立命館大学准教授・開沼博

 

開沼:東電改革がよくニュースなどで報じられているんですけど、これが何かというと、東京電力が福島第1原発事故をおこしてしまった。

で、21.5兆円ぐらいの予算が福島第1原発の処理にかかるんです。

そういう中で、一方では電力自由化をしている。

経済的な競争環境は厳しい状況に東京電力は置かれている。

そこで、どうやって福島への責任を果たすのかということと、企業として成り立っていくのかということで、経済産業省が主導するかたちで東京電力を改革しようとするのが東電改革です。

そして、ここにジレンマがあるというのが、東電改革のジレンマと呼んでいるものです。

ひとつは、今の東京電力は、福島の復興再生するために全力を尽くしますということを言っています。

全力を尽くすべきだと多くの方が思うでしょう。

という話と、もう一方に東京電力の使命としてあるのは、全力を尽くすべきだとそのために経営改革をしていかなければならない。

わかりやすく言うと、収益を出したり、組織として効率的なことをできるようにしなくてはならないと言う話がある。

つまり、福島の復興再生というのが一方にあり、経営改革がもう一方にあるんですけど、そこに矛盾・葛藤が生じかねない状況にあるということが東電改革のジレンマです。

もう少しわかりやすく説明すると、東電が福島の復興再生をするそのために全力を尽くすというのは当然そうすべきだろうとみんな思ってると思います。

そのためには、多額の賠償金とか溶け落ちた燃料を取り出す作業の費用が結構かかるらしい、そのためには全力を尽くして経営改革をするんですけど、実は細かく見ていくと、なかなかそう簡単に福島への責任を果たすということと経営の効率化をするということはうまくいかなそうなんです。

東京電力は福島への責任を果たしましょうということで社員を10万人派遣プロジェクトといって、年間述べ10万人の社員を、普段関東圏で働く東京電力の社員を復興推進活動として福島の被災現場とか避難した人が暮らす地域に派遣しています。

派遣して何をやるかというと、壊れた家のかたずけをしたりとか草むしりをしたり、時期によっては雪かきをしたりとか、地元の催事イベントの手伝いを、住民の方の要望に応じてやるということをしています。

東京電力はそもそも数万人規模の会社ですから、年間1、2回もっと行っている社員もいるというのがこの10万人派遣プロジェクトなんです。

これは東電が福島に対して責任を果たしているという話としては確かにその通りのことをやってるなというふうにも見えるわけなんですけど、しかし、一方で東京電力は経営を効率化して利益を出してその利益を福島に復興のためには回さなくてはならないという使命も持っています。

その観点から見ると、年間10万人も貴重な社員を福島に送って働くとは言ってもそれは収益を出す労働ではないわけなんです。

もちろん長期的に見たら、福島に対して責任を果たしていくことは企業にとっていい影響を与えるんだけど、短期的に見たら、そんなことやってるんだったら東京の営業所でもっと営業がんばれよとか設備を更新するのにそに人員を使ったらどうなんだという話が出てしまうんです。

というところがジレンマなんですね。

 

アナウンサー:直接的に収益に結びつかない、福島の人々との結びつきの活動・10万人プロジェクトが無駄なのか、必要経費なのか。

コストカットできるのかそれともかけた方がいいのか。

そこが矛盾しているということですね。

 

開沼:経営陣は現段階ではこういう10万人プロジェクトなどで福島への責任を私たちは果たしますといい続けているんですけど、ただ経営者の意思だけで企業活動は回るわけではありません。

ご存知の通り、株式会社というのは株主がいて、株主総会で株主が承認しながら動いていきます。

株主というのは、福島のために何かをやれと思う人もいるけど、まずは利益を出してくれよと、あるいは不合理な部分は切り離してくれよというふうに言う人がいます。

市場原理の中では、後者の方が多いわけです。

というところになってくると、繰り返しになりますけど、東電は福島に責任を持つべきだという話と、東電は経営の効率化をしていくべきだという話に、実は両立させなければならないように見えて両立しがたい部分が出てきてしまうのではないかということなんです。

 

アナウンサー:今現在、株主あるいは東電はどういうスタンスでいるんですか。

当然その10万人プロジェクトを進める方向なんですよね。

 

開沼:現段階ではこれが無駄だという声は東電の内部の方からあるいは外で見ている方々からも聞いたことはないです。

しかし、やはり廃炉の問題はかなり長期に及ぶものです。

6年前の私たちの気持ちと今の気持ちを比べればだいぶ変わっています。

これがさらに5年10年経った時に福島への責任を果たすのもいいけど、「もういいんじゃないの」とか「そういうのって収益より優先すべきなの」という声が出てきてもおかしくないという構造はあると思います。

 

アナウンサー:ただ震災前と元通りになったわけではありませんし、時間がかかるのであればなおさら、長い目で手をかけていく必要がありますよね。

 

開沼:おっしゃる通りです。

だから、そこは短期的な視点と長期的な視点が重要だと思います。

ある面では東電は利益を追求するのは正しいわけですよね。

そこは短期的な利益に従わざるを得ない部分があるというふうに見るべきです。

一方で長期的に考えていく視点も必要だということで、そこは政府行政がいろんなことを支援するということが必要になる場合もあるでしょう。

もちろんそこには国民の同意というものも必要です。

あるいは、中長期的に何かをやっていくという点で得意なのは研究機関や大学だったりするんですね。

企業のように利益につながるかを判断基準にするのではなく、今すぐに利益になるわけではないけど長期的に役に立つということに取り組むことが許される機関・組織であったり、あるいはそういうことを企業の中にも研究開発部門というのはありますので、助成金などをつけてバックアップしていくという中で長期的に東京電力だけでは担えない部分をサポートしていくような体制を作っていくということが重要だと思っています。