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延長された産油国協調減産と今後の原油価格 NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」6月8日放送

解説:日本エネルギー経済研究所 常務理事・小山堅

 

キャスター:OPECと非OPEC産油国が協調減産をしています。

これは原油の供給過剰による価格低下を是正するためなんですが、先月のOPEC総会でその期間が9ヶ月延長されました。

その背景には何があったのか。

また、これを受けて、今後の原油価格はどうなるのか伺いたいのですが。

 

小山:もともと今回OPECと非OPECの協調減産は1月からスタートして6月までの半年間で終わりになる予定でした。

ところが、もし本当にこれで終わりになると、市場で起きている供給過剰を払拭するのは無理だということをOPECが判断して、その結果9ヶ月延ばしたということだと思います。

振り返って見ますと、昨年の11月に産油国が協調減産、全部合わせて1日あたり180万バレルぐらい減産すると決めたんですね。

その結果として、原油価格は反応して上がりまして、それ以降今年の前半はほぼ50から55ドルくらいで推移していました。

ところが、4月の後半から、アメリカ産の原油価格が50ドルを割るようになりました。

減産の状況はどうだったのかというと、OPEC自身は減産を守っているんですね。

守っているにもかかわらず、供給過剰を見るバロメーター、これは原油の在庫なんですけど、原油の在庫はずっと高い水準で減っていない。

これが起こってしまった原因は、アメリカのシェールオイルなんですね。

シェールオイルは、コストが高いとずっと指摘されてきて、実際そうなんですけど、そのために原油価格が下がって、2016年は前年よりも生産量減ったんです。

ところが、昨年の10月から見てみると、今までの間にアメリカの生産量は90万バレルも増えてるんです。

これは、産業界が努力をして、シェールオイルの生産コストを下げてきている。

いろんな分析によると、1バレル40ドルぐらいの平均生産コストだとも言われていまして、そうすると、今の原油の値段でも、生産は維持できるし、場合によっては増やすこともできるようになってきたんです。

その状況を受けて、原油の値段が50ドルを割ってしまった。

いわば市場が、今のままだとダメですよと、減産を半年で打ち切るなんてことになったら大変ですよと圧力を産油国側にかけた、そういう状況でして、結果的にいうと、OPECはその圧力によって、減産を延長しないといけないという判断になったということだと思います。

 

キャスター:市場の圧力でOPECは減産を続けざるを得なかったということですね。

今回の決定を、市場はどう受け止めたんでしょうか。

決定直後は、価格が下がりましたね。

 

小山:これは一言でいうと、今回の決定は織り込み済みということで、サプライズ要因が何もなかったんですね。

今回は9ヶ月間減産を延長するということで、期間の延長の話だけだったんです。

もともと、もっと減産しないといけないという見方もあったため、減産強化が見送られたので、むしろ失望売りが出てきて原油価格が下がると、こういう動きも出てきました。

なぜ織り込み済みだったかと言うと、4月後半から原油価格が下がりはじめて、それを受けて産油国の首脳とか石油大臣とかが、これは減産を延長しないといけないと言う発言をいろんな場でやっていたんですね。

そうすると、総会の決定はある意味でそれらの発言を裏書きしたもので、事前の予想通りだったわけです。

ただ見方を変えますと、万が一今回の総会で、延長さえ決められないとか延長の合意ができないということがあったら、原油価格が急落していたと、私は思います。

この最悪のシナリオを、避けるためにも、まずは減産の延長を決めたということです。

でも、本質的には、まだまだ供給過剰だとすると、本当は減産そのものを強めなければいけないという見方も市場にはあった。

にもかかわらず、OPECは期間だけ延ばして様子見をしたんですね。

様子見をしたことの裏には、私の推測ですが、OPECとしてはこれから段々と石油市場の需要と供給はバランスしていく、供給過剰は解消していくという期待をしていたんだとおもいます。

なぜかというと、世界の石油需要はまだ着実に増え続けています。

アメリカのシェールオイルの生産は増えているんですけど、アメリカ以外では減ってるんですね。

ですから、OPECが減産を続けていれば、徐々に市場は需給の均衡に向かっていく、つまり時は自分たちの味方じゃないかということで、今回期間を延長して時間を買うというか、時間を稼ぐみたいな、こういう考えもあったのかなと思います。

 

キャスター:うがった見方をすれば、景気の減速傾向にブレーキがかかる、あわよくば景気が良くなるという見方があったようですね。

しかし、様々な見方とか要因があったわけですが、今後の原油価格はどう動くことになりそうでしょうか。

 

小山:まずひとつは、先ほども申し上げたんですが、今回のOPEC決定については、市場はこれで大丈夫だと評価したとは言い難いところがあるんですね。

ですから、実際に下げ圧力が顕在化したということだと思います。

今もWTI原油ですと、40ドルを割るような水準が続いてきたんですけど、当面需給が均衡していくかということを期待しながら、原油価格は50ドルを挟むような展開になると思います。

ひとつは、供給過剰のバロメーターを世界の石油在庫で見ることができますから、石油の在庫の統計が発表されるごとに、原油の市況は動く、特にアメリカでは毎週在庫の統計が発表されるんですね。

この状況に合わせて、原油の在庫が減るような動きが出れば、価格は上の方へ行くし、逆に在庫が減らない、増えるようなことがあれば、原油価格は下がるという流れが出ると思います。

本質的には、需給の均衡がどんなペースで進むのか、そのタイミングと強さ次第ですね。

おそらく、OPECや市場が期待するような感じで、今年の後半から来年にかけて需給バランスして行くとすると、徐々に50ドル台前半、そして後半と、そして段々と切り上がって行くというシナリオを考えることができると思います。

ただその中でも、これは相場ものですから、市場の状況によって変化します。

特に価格が下がる方に関しては、アメリカのシェールオイルがもっともっとトランプ効果もあって増産するとか、あるいは逆に日本やアメリカや中国やヨーロッパ、こういったところの景気の減速が今後出てくることがあれば、価格は下がることになりますし、逆にアメリカ以外の産油国で生産が減ったり、地政学リスクで産油国の供給支障が起きたりすれば、価格は上がると思います。

最近ですと、カタールサウジアラビアなどの湾岸の国々が断行するということがあって、これは今の所供給に影響は出ていませんが、こういった問題も考えないといけないと思います。

石油の専門家は、より低い価格がより長く予想より続くといいますが、今年はこの考えが当たりそうかなと思います。

価格が低ければ低いほど将来の投資が滞って、だんだん将来の需給逼迫を用意してしまうということも考えないといけないと思います。