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選挙を前に有権者が考えたいこと NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」6月12日放送

解説:上智大学法学部教授・三浦まり

 

キャスター:東京都議会議員選挙の告示も迫ってきましたが、今日は投票するにあたって、有権者が考えておきたいことについてお話しいただきます。

誰に投票するのか決めるにあたって、まずどんなことを考えた方が良いと考えますか。

 

三浦:現職議員の場合には前回の選挙の時にどんなことをに約束したのか、それを在職中に実行してきたのか、これをチェックする必要があると思います。

もし有権者が、チェックしないとなると、議員の方は自分の言葉に責任を取らなくなってしまいます。

政治家というのは、有権者の付託を受けて政治活動を行うので、言葉が決定的に重要です。

公約を私たちがチェックしないゆえに、言葉に責任を取らない政治家が出て来ると、議会制民主主義は運営できなくなります。

 

キャスター:まずは選挙の時の公約のうちどのくらい実現することができたか、今議員の人が再選を目指している場合にはチェックしてみるということですね。

 

三浦:そうですね。

ただ、在任中に政治家は次の選挙での審判を恐れていますから、その業績づくりには熱心なはずです。

なので有権者としては、業績を評価して、その評価の結果を投票行動に反映させていくことも重要です。

 

キャスター:業績自身もチェックすることは大事であるということですね。

 

三浦:はい、在任中に色々な政治状況は変わってきますから、公約には入っていなかった新しい行動もあると思います。

それを含めて、どのような業績を残したのかしっかり見ていく必要があると思います。

 

キャスター:議員の業績のチェック、具体的にはどうやったらいいでしょうか。

 

三浦:候補者の通信簿をつけてみるというのがいいと思います。

オーストラリアでやられていると言われているんですが、候補者が実際の議員の場合でしたら、議員であった期間に何をしていたかということは、いろんな情報が公開されていますから、その公開情報をチェックすることが重要です。

 

キャスター:たとえばどんな公開情報ですか。

 

三浦:特に重要なのは、議会の議事録です。

議会でどんな発言をしているのか、どんな質問をしているのか、そこで投票行動が見れる場合もあります。

それを見れば一目瞭然でこの議員がどういう価値思考をして、判断をしているのかがわかりますから、それはとても重要なのは手がかりなんです。

あと質問を見ていくと、限られた時間の中で質問をしていますから、その議員のプライオリティがわかります。

公約だとみんな、高齢者のこと、子供達のこと、安全のことなんかどの方も同じようなことを言っていて、あまり差がわからなかったりすると思うんですが、議会の中での質問となりますと、メリハリが効いてきて、その人が一番関心を持っているものが出てきますから、それも非常に重要なのは手がかりになります。

 

キャスター:議会の議事録はどこで見られるんですか。

 

三浦:議会のホームページに掲げられています。

すべての議会がホームページでわかるわけではないので、もしない場合には、そういったものを公開して欲しいと請求していくことが重要だと思います。

 

キャスター:議員であれば党の議員であることもありますよね。

 

三浦:その場合は、政党のホームページで前回の公約などネット上に残っている場合がありますから、そういうことも手がかりになると思います。

 

キャスター:前回の党の公約がどのくらいこの人によって実現されているのかチェックしていくということですね。

そのほか、通信簿をつける上で重要なことは何かありますか。

 

三浦:みなさんも何か特定の関心がある場合、年金とか、労働政策とか、子育てとか、何か関心があるテーマがあれば、そのテーマに沿って議事録をチェックしていくことができると思います。

キーワードを打ち込んだりすることで簡単に検索することもできます。

重要な点は、通信簿をつけていくときに、自分はどういう視点から評価しているのかというのを、考えながらやっていくことなんです。

 

キャスター:たとえば子育てであった場合、指標はどんなイメージですか。

 

三浦:保育園がもっと作られて欲しいと感じた場合、そのときに自分は量が拡大することだけを求めたいのか、それとも質を重要に考えたいのか、その辺りを考えて、質を重視したいとなると、その議員さんが発言で安全性に配慮した質問をしているのか否か、などがチェック項目になって来ると思います。

 

キャスター:自分で得た情報を、これだけのネット社会ですから、発信していくというのも、有権者同士で情報を共有するという意味では意義のあることかもしれないですね。

 

三浦:そうですね。

一人ですべての項目をチェックするのは不可能ですので、まずは自分が関心があることをチェックして公開していく、それが重要だと思います。

その公開したものが他の人にも意味のあるものになるためにも、私の評価基準はこれですと、わかるようにしないといけないですね。

そうじゃないと、単に好き嫌いだったり、印象で決めてしまっているかもしれないということになりますから、この観点からすると、この議員は評価できる、この議員は評価できないとしていくことはいいんではないかと思います。

 

キャスター:次の選挙に向けて、そういった記録を残しておくということも、改めてチェックする時には意味のあることかもしれませんね。

 

三浦:前回はあまり評価が高くなかった人も、その任期中には違った動きを見せて、今回は評価できるということもあると思いますから、そういった取り組みを継続していくことは、重要だと思います。

 

キャスター:初めて立候補する人にはどういうことを参考にすればいいですか。

 

三浦:重要な点は、なぜその人が出馬したのかという動機だと思います。

政治家になって何をやりたいかということはよく語られることが多いですが、重要なのはなぜ自分は政治家になろうとしているのか、その出馬の動機なんです。

私も政治家のインタビューをたくさんしているんですけど、その時に必ず「どういう経緯で政治家になられたんですか」と出馬の経緯を伺っています。

その話がインタビューでは一番面白くて、どの方も何かドラマがあるんですね。

心を動かされるような強い動機があって政治家になられた方というのは、それに沿った活動をしていますし、動機がもうひとつ心に残らなかった方は、それなりの活動ということになりますので、出馬の経緯というのはとても重要なポイントだと思います。

 

キャスター:三浦さんは議員の事務所に足を運んでみるのもひとつの方法だとおっしゃっていますね。

 

三浦:そうですね。

本来、私たちの代弁者でありますから、理想的には対面でコミュニケーションすることが必要なはずなのに、意外と政治家と有権者が対面で話し合うことは少ないと思います。

選挙期間中ですと選挙事務所がありますから、そこに足を運んでみるのもひとつだと思います。

候補者本人には会えなかったとしても、支援者がいますから、支援者がどういう人なのかをみることも、間接的には候補者はどういう人なのかを知る手がかりになると思います。

 

キャスター:有権者の中には時間がなくて、という人も多いと思いますし、もしくはそこまで難しいことはできないという人もいると思うんですが。

 

三浦:いろんな団体が候補者アンケートをやっています。

ネットで公開されていますから、それを探してみて、参考にするのがいいのではないかと思います。

候補者に聞いてみると、選挙前になると、たくさんのアンケートが届いて、答えきれないくらいだとおっしゃっていましたので、それぞれ団体は何か価値思考とか主張がありますから、その主張に沿ったアンケートをしていますので、そこを考慮しながら、その団体が行なったアンケートを見ていくのが重要だと思います。

候補者からすると、自分とは価値思考が違うなと感じると、アンケートそのものに答えていないですから、それもひとつの候補者を知る方法だと思います。

また、投票に関してですけど、小選挙区になってから、すごくみなさんが当落を非常に気にして、勝ち馬に乗ってしまうという現象が出ているのではないかと思います。

当落がある程度はっきりしている場合には、自分の投票が全く意味がないのかというと、そんなことはありません。

自分が応援したい候補がたとえ負けてしまったとしても、どのぐらいの票をその人があつめたのかということは、その人が次にどういう政治活動を行うかということの大切な指標になっていきます。

僅差で負けたのであれば次に繋がるし、大差であれば次の選挙には出ないことも考えられますから、票差というのはとても重要だと思います。

ですから、誰が勝つか分かっているから行かないというのではなく、候補者の中から自分が応援できる人に投票していく、ベストの人はいなかったとしても、一番悪くない人ということも政治の考え方としては重要ですから、有権者として意思表示をしていくことは推奨したいと思います。