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こども保険はなぜ必要か NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」

NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」6月12日放送

解説:昭和女子大学 特命教授・八代尚宏; 竹田忠解説委員

 

竹田:こども保険、これは保育や幼児教育などの予算は今は基本的に税金で賄っています。

しかし、それではお金が足りない。

そこで、みんなから新たに保険料を少しずつ払ってもらって、それで保育や幼児教育に当てようと、子育て支援に使おうということです。

サラリーマンの場合には、子どもがあるなしにかかわらず、みんなから給料から天引きで払ってもらおうと、たとえば給料の0.1%負担してもらうだけで、小学校に入る前のすべての子供に5000円が毎月支給できるということです。

矢代先生はかつてこども保険と同じような育児保険を提唱されたことがおありです。

今回のこども保険はどうご覧になりますか。

 

矢代:こども保険というのは、今の社会保険が著しく高齢者に偏っているんです。

だから、そのバランスを欧米並みに回復するための第1歩として、非常に重要なものだと思います。

私が考えていた育児保険というのは、今の介護保険の中で、被保険者が20から39歳が空いてるんですね、今の介護保険は40歳以上が対象ですから、ちょうどあいているところが子育て世代と同じなので、そこに介護保険料と同じ額の保険料を払ってもらって、それを財源にして育児のために使うという構想なんですが、制度改革が必要なので、今回の自民党の若手議員が考えた年金保険料への上乗せというのは、非常に単純で実現性が高い仕組みだと思います。

 

竹田:なぜ子育て支援にかけるお金を税ではなくて保険料で賄おうとするのか、ここはどう考えたらいいでしょうか。

 

矢代:税金か保険料かというのは、そんなに大きな違いはないんです。

つまり、財務省がとれば税金、旧社会保険庁がとれば保険料ということで、日本と同じ年金制度のアメリカでは、社会保険税といっています。

その程度の違いなんです。

社会保険料のいいところは、使い道が限定されているわけです。

金保険料なら年金、医療保険料なら医療と。

だから今回も同じで、こども保険のために保険料をいただくということで、これが一般財源の税だと、何に使われるかよくわからないわけです。

そういう意味では、目的が明確にしているという意味で、社会保険の方が望ましいし、今財政再建が非常に必要とされているので、一般財源にしていくと、所得税に乗せるというだけでも将来歳出削減の対象になってしまう可能性もあるわけで、財源を明確にしておくということが重要だと思います。

 

竹田:こども保険について、これを批判する人たちの批判点は二つあります。

ひとつは、子どものいない親まで負担するというのは不公平ではないかという点なんですが、これはどう思われますか。

 

矢代:子どもというのが養っている親だけのものだという考えから来ているわけで、今の少子化時代では、子どもというのは社会全体の財産なわけです。

それから、今子供を持っていない親の人も、いずれ高齢化すれば年金とか高齢者医療を受けるわけです。

それを払ってくれるのは、他人の子供なわけです。

だから、子育てというのを親だけではなくて社会全体で支えようというのが、このこども保険の考え方で、介護保険が高齢者介護というのを家族だけではなくて社会全体で負担しようというのと同じ考え方です。

 

竹田:介護保険が始まるときにも、介護の社会化が必要なんだと個人ではもう支えられない、世帯単位では無理なんだということで介護保険が始まりましたけど、あの時も同じような議論があって、人口構成からみても、それでは成り立たないとなって、介護保険が誕生したんですよね。

 

矢代:それと全く同じなんです。

子どもも社会全体で負担しましょうと。

だから、それはちゃんと説明すれば受け入れられることだと思います。

 

竹田:批判点のもう一つは、まさしく社会全体で子供の支援をする、それがこども保険なんだというなら、この原案の保険料の給料天引きというと、結局負担するのは働いている現役の人たちだけになると、それは社会全体で育てていくというなら、高齢者の中にも生活のきつい人もいらっしゃれば、そうじゃなくて日本の個人の貯蓄の大半は高齢者世代なので、高齢者の中でも格差があるわけですけど、そういう資産を持っている高齢者層が負担しないのはおかしいじゃないかという批判があるんですけど。

 

矢代:その批判は全く正しいんです。

だから、私は高齢者も当然負担していただくと、その時に先ほども言われた年金保険というのがあるんですが、これは勤労時には個人の賃金に比例して保険料がかかって、払った保険料に見合って老後の年金がもらえるわけです。

いわば、勤労世代の時にたくさん給料をもらっていた人ほど、たくさん年金がもらえるんです。

ということは、これは後払いの賃金と同じことなんです。

だから勤労世代の賃金に保険料をかけるなら、後払いの賃金である年金に保険料をかけても決しておかしくはないわけで、年金というのは賃金と同じものなんだと後払い賃金だと考えれば、決して高齢者の年金から0.1%引いてもらうというのは、無理なことではないですし、現に介護保険料は年金から天引きされているんです。

もう前例があります。

 

竹田:つまり、年金の保険料というのは、基本的に現役の時に払い込んで、OBになったら年金を受給する側になるんですけど、矢代さんのおっしゃっているのは、現役は保険料から上乗せして天引きされるんだけど、高齢者は受給する年金の額からその分少し出してもらうということですね。

 

矢代:だから介護保険料は現にそうしているわけですから、なぜ同じことがこども保険でできないのか、ということです。

 

竹田:あとこれも大きな議論としてあるのが、お金の使い道です。

基本的にこども保険、今想定しているのは、児童手当が出ていてその児童手当に上乗せすると、そうやって少しずつ上乗せしていけば、0.1%の保険料0.5%に上乗せするとかといって増やしていくと、事実上保育とか幼児教育の無償化というのが、児童手当を増やしていくことによって可能になるというのが基本的な発想としてあるわけですね。

これに対して、待機児童対策とか保育所を増やすとか、もっと行政のサービスを充実させるいうことに使うべきで、一人一人にお金を出すというのは、極端に言うと裕福な人もいるわけですし、それはバラマキじゃないかと、こういう批判もあるわけですが、これはどう考えればいいでしょうか。

 

矢代:子育てというのは、国民全部でやるわけですから、特に保育所に入れない、たとえば専業主婦の人だって子育てをしているわけです。

そういう在宅保育の財源としても使ってもいいわけで、働いていない人だって1日24時間週7日子供を育てるというのは大変なことなので、週に1日ぐらいはデイケア並みに子供を預かってもらうということも必要なわけです。

決して、待機児童対策だけじゃなくて在宅保育にもお金を使うと、これは韓国ではすでにやられていることなので、そうなれば保育所だけの対策に使うというのは中途半端だと思います。

逆に言えば、子育て切符みたいな形で現金じゃなく在宅保育にも使えるような形で支出すればいいんじゃないでしょうか。

 

竹田:バウチャーと言われることがありますけど、要するに利用権を配るということですね。

そうすれば他のことには使えないということですね。

これから年末にかけて話し合っていくことになると思いますけど、今後検討を進めるにあたって、何が重要な視点になりますか。

 

矢代:それは、少子化対策のためにどれだけ負担するかということについてコンセンサスがないといけないわけです。

それが必ずしも明確ではない。

だけど今年の初めに発表された新しい人口推計で見ますと、20歳以下の人口はオリンピックが終わった2020年から10年ごとに15%ずつ減っていくわけです。

すさまじい率で、これは何とかしないといけないんじゃないか。

完全にそれを防ぐことはできませんが、子育て支援とか幼児教育で子供の質を高めると。

そういうことのために社会全体で負担するというのは、必要なことではないか。

それは高齢者にとっても必要なことであって、社会保障を支えてくれるのは子供たちですから、これは全世代的にコンセンサスがとれるんじゃないかと思います。