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ここがおかしいこども保険 NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」

NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」6月13日放送

解説:明治大学教授・田中秀明;竹田忠解説委員

 

竹田:サラリーマンは、年金や医療などの社会保険料を合わせて15%分を毎月の給料から天引きで引かれているわけですが、そこに新たに0.1%こども保険として上乗せさせてくださいと。

そうすれば、小学校に入る前の子供全員に毎月5000円を新たに支給できるようになります。

というのが、こども保険のアイデアです。

この急浮上してきたこども保険というアイデア、いよいよ政府で検討が始まります。

今日は、こども保険に異を唱えられている明治大学の田中秀明教授に伺います。

このこども保険、田中さんはどう思われますか。

 

田中:今回のこども保険の話については、子育てや幼児教育の重要性を提起して、議論を喚起させることで、これは高く評価しています。

今後の日本の経済や社会を考えると、子どもに対する人的投資は極めて重要だと思うからです。

 

竹田:こども保険が目指すものというかその基本的な考え方はいいと。

しかし、田中さんはこども保険はおかしいと言われていると。

それはなぜですか。

 

田中:まずですね、保険という言葉を使っていることが問題ですね。

これは明らかに保険ではありません。

保険とは、例えば医療保険は誰でも病気になる可能性があるわけで、我々全員が保険料を払って、もし重篤な病気にかかれば少ない負担で難しい手術も受けられると、こういうリスクに対応するわけです。

しかし今回のこども保険は、仮にですね、子どもを持つことがリスクだと、これも違和感があるんですが、仮に子供を持つことがリスクだとしても、全員がそうしたリスクが発生するわけではありません。

この問題に関連して、医療保険でも誰でも病院に行くわけではないと、誰でも病気になるわけではない、だから負担と給付が一致しないんだと。

だからこのこども保険も同じではないかと、こういう主張もあるわけですが、それは違います。

医療では、誰でも病気になるリスクがあるということです。

リスクが顕在化するかどうかは人によって違います。

しかし、今回のこども保険は、明らかに子供を持たないあるいは持てない人たちがいるわけで、子育てが終わった人もいます。

彼らにとっては、リスクがゼロなんですね。

したがって医療保険とか介護保険とは根本的に違う、あるいは保険という言葉には、残念ながら、該当しない物だと思います。

 

竹田:こども保険が保険と言ってることがそもそもおかしいということが今のお応えなんですが、さらに、田中さんはこども保険がこのために新たに保険料を取るということ、そのことが問題なんだと、そもそも社会保障の財源として大きな比重を占めている保険料のあり方そのものがもともと大きな問題を抱えてるんだと、こういわれているわけですね。

これはどういうことですか。

 

田中:我々国民は、給与から社会保険料を天引きされて、あまり社会保険料ということは意識しないと思うんですが、実は日本の社会保険制度なかんずく保険料の仕組みは非常に不公平であると、一言でいえば逆進的であると言えます。

逆進的というのは、所得税は基本的には所得の高い人ほど多くの所得税を納めます。

年収300万円の人と1億円の人では、明らかに年収1億円の人の方が所得に対する割合、金額ではなく割合です、所得に対する税金の割合が高くなります。

ところが、社会保険料は逆で、年金とか医療とか種類がありますので、正確には少し違いがありますが、基本的には所得が高くなればなるほど保険料の負担割合は小さくなる。

つまり、所得の高い人は、ちょっと負担すればいいと、そういう仕組みなんですね。

具体的に申し上げると、国民年金の保険料は、原則として所得にかかわらず一月約1万6000円、主として自営業の人とかパートタイマーの人が入ります。

定額になっています。

定額ということは、自営業者の人でも、年収が300万円の人もいるし、1億円の野球選手だとか漫画家みたいな人もいらっしゃいます。

そういう人たちも一月1万6000円です。

それから厚生年金は、年収900万円ぐらいまでは定率で、それを超えると所得がいくら増えても保険料は頭打ちで定額になります。

そうすると、所得がどんどん増えると、保険料の割合は小さくなるということで、高所得者にとっては、得する仕組みということなんです。

それから、保険制度は保険料で成り立っていると一般には思うんですが、そうではなくて、大量の一般財源つまり税金が投入されているわけです。

国民全員が対象となる基礎年金では、半分が一般財源・税なんですね。

どういうことが起こっているかと言うと、年収200万円ぐらいの非正規の方はあまり所得税は納めていないかもしれませんが、物を買えば消費税を払います。

その消費税が、上場企業OBの基礎年金に充当されたりするんです。

ところが、年収200万円の非正規の方たちは、年金の保険料を十分納めることができないので、年金は少ししかもらえない。

彼らが保険料を負担していないのであれば、年金をもらえないのは仕方ないと思うのですが、実はそうではなくて、消費税を通じて払ってるんですね。

でも、年金は少ししかもらえない。

これは非常に不公平です。

 

竹田:我々は年金保険料をちゃんと納めてなかったらもらえる年金も少なくてしょうがないと思ってますが、実はそれは保険料だけを見ているのであって、多額の税金がこの年金の財源になっていて、その税金はちゃんと納めているという話ですね。

 

田中:だから、世界の社会保障制度を大きく分けると、社会保険料に基づく国と一般財源に基づく国の二つに分かれるんですね。

日本は両者が混ざってしまっていて、ある意味不公平がもたらされています。

OECDの国と比べると、貧困率が高いとか、所得格差が大きいと言われていますが、そのひとつがこの社会保障制度にあるんですが、政府はそれを説明しないんですよね。

それから、今回のこども保険は、提案としては年金保険料に上乗せするということになっています。

ということは、高齢者は基本的には負担をしないと。

制度のうたい文句としては、全世代で将来の子供を支えるという。

その理念は素晴らしいと思います。

ところが、ふたを開けてみると、高齢者には負担を求めない、これは残念ながら、選挙を意識して高齢者にはこれ以上の負担を求めないと、こういう意図があるんではないかと疑わざるを得ないですね。

要するに、こども保険で、保険料がさらに増えて行く可能性もあるわけで、逆進的な保険料への依存が今以上に高まるということは、公平性の観点から言って、非常に大きな問題ではないかと思います。

 

竹田:とすると、田中さんはこども保険の考え方そのものはいいというのならば、こども保険の仕組みをどうすべきだとおっしゃいますか。

 

田中:まずは財源をどうするかということだと思います。

借金でやったらいいじゃないかという意見もありますが、これはそれを返す子供たちに請求書だけ送るということで論外だと思います。

次に、消費増税というかたちで、5%を10%にして育児に使おうということが考えられていたわけですが、これは安倍政権になって2度延長されてしまったということで、なかなか消費増税もうまくいかない。

ただ事実上2度の延期で社会保障と税の一体改革は反故になっているので、8%から10%にあげる時に、もう一度議論し直して、幼児教育・育児の拡充に財源をより多く充てると、そういう検討をやってもいいのではないかと思います。

 

竹田:こども保険で新たな保険料を取るという理由の一つが、消費増税がなかかな出来ない、今予定しているのは2019年10月ですが、もし10%に上がっても使い道はすでに決まってるじゃないか、だからより子育て支援をやるためには11%よりももっと上の消費税が必要になる。

それは、なかなか目途が立ちにくい、だから新たな保険料という理屈が言われているわけですが、田中さんがおっしゃったのは、8%から10%に上げる時に使い道そのものをもっと考えればいいじゃないかと、本当に子育て支援が喫緊の課題なら、もっと子育て支援に財源を振り向けるということも考えるべきではないかという発想ですね。

 

田中:まず第一にですね。

決まってるわけですから、議論をし直すと。

それから、確かに10%に上げて、その次をどうするんだと、それは一体いつになるんだということは一理あると思います。

その時に、我々と各消費税に関心が集まってしまいますが、では所得税ではなぜだめなんでしょうか。

所得税と年金保険料を比べると、所得税は基本的に所得の高い人がたくさん税金を納めます。

最高税率は、4000万円を超える場合45%になります。

ところが年金保険料は、先程申し上げたように、所得の高い人ほど負担割合が小さくなると、逆進的なわけです。

しかも、高齢者は納めない。

それから課税最低限と言いまして、税金や保険料を納める最低の所得水準です。

これは所得性についていえば、単身の給与所得者の場合は約121万円ぐらい、それより所得の低い方は所得税を納めない。

ところが年金保険料の場合は、国民年金の場合は単身の場合年収が57万円以下の場合は払わなくていい。

厚生年金の場合月収8万円と、非常に低いんですね。

それから、所得税の方は住民税も含めると、税収総額30兆円。

社会保険料は医療も含めると62兆円超えます。

所得税の方が少ないんですよね。

こうしたことを考えると、私は明らかに所得税の方が年金保険料より公平だと思うわけで、消費税がダメならなぜ所得税を考えないのかということを申し上げたいと思います。

 

竹田:確かに、東日本大震災の時に、復興税として所得税に薄く載せるということがありましたね。

ああいう発想になってくるわけですか。

 

田中:そうです。

東日本大震災で我々国民は所得税のごく一部を拠出することに合意したわけですから、子どもはなぜできないんでしょうか、まさに政治家が子供の重要性をおっしゃるんであれば、所得税について、逆進的で不公平な保険料より、より所得のある人に負担していただく所得税で賄うということを提案しないのかということを申し上げたいと思います。