無計画な観光立国は亡国への第一歩だ 山田五郎「ボイス」 TBSラジオ荒川強啓「デイ・キャッチ」
「ボイス」山田五郎
思い起こせば小泉政権下の2003年、当時年間500万人だった訪日外国人を倍増させようという「ビジット・ジャパン・キャンペーン」というのが行われて、それを皮切りに歴代政府は外国人観光客の誘致、いわゆる「インバウンド・ツーリズム」を推進してきて、2008年には観光庁も設置されたわけですよね。
この政策は、珍しく功を奏したようで、日本を訪れる外国人観光客の数は特に2010年代に入ってからうなぎのぼりですよね。
安倍政権は、当初は2020年までに2000万人と目標を掲げていたんですけど、去年の3月に、2020年までに4000万人、30年までに6000万人、と大幅に上昇修正したわけですよ。
実際、2015年度の訪日外国人観光客は前年比45.6%増の2135万9000人、2013年に1千万人突破してからわずか2年で倍増したわけですよ。
この驚異的な伸び率を見れば、5年後の2020年までにさらに倍増という目標も決して無理な数字ではないように思えてきちゃうんです。
観光は、日本の数少ない急成長産業のひとつなんです。
特に地方都市では高齢化による人口減少と経済の停滞に悩んでいるわけだから、全国の自治体もこぞってインバウンド・ツーリズム推進に血眼になっているわけですよ。
だけど、その一方で、この増え方は急すぎますよ。
だから社会がこれに追いつけないで、ひずみが出てるわけです。
大きな社会問題ともなりつつあるわけですよね。
そのひずみが端的に表れ始めているのが、外国人観光客が最も多く訪れる街の京都なんですよ。
6月14日の朝日新聞デジタルで「超満員のバス、消えゆく情緒、急増する訪日客に京都苦悩」という記事があったんです。
京都を訪れる観光客の数がもう完全にキャパシティを超えてて、町全体が機能不全に陥りつつある問題というのを報じてたんですけどね。
私も、ここ1・2年京都を訪れるたびに本当に肌で感じたんですよ。
最近行かれました?驚きますよ。
ものすごいことになってますよ。
観光地はどこも芋を洗うような混雑ですし、ホテルとか食べ物屋さんが全然予約が取れない。
道は渋滞。
ちょっとしたイベントでもあれば、どうにもなんないですよ。
仕事の出張で行く人はもちろん、地元住民の方の仕事や暮らしにも支障が出てる始末なんです。
他の仕事やってる人なんか、ただでさえ京都の経済苦しいのに、観光のせいでさらに足を引っ張られるみたいな。
そうすると、ますます、観光だけに頼らざるを得ないって悪循環が始まりかけてるんですよ。
これね、いまでさえそうなんだから、さらに倍増って無理ですよ。
もし京都で、今の倍外国人観光客が来たらどうなるかを考えたら、全くどうにもなんないですよ。
京都でさえそんな状況なんだから、他の町ではもっと無理だと思います。
だから、ホテルとか道路とかといった観光インフラの整備を急ぐべきだと、ホテル建てろ、道作れ、って言うんですけど、私は、そこは慎重に対処すべきだと思うんですよ。
言うまでもないことですけど、2010年代に入って増えている訪日外国人観光客数というのは、主に中国人かんこうきゃくの急増によるところが大きいわけです。
2016年度、2403万9000人訪日外国人観光客いましたけど、そのうち637万3000人が中国本土ですから、香港・台湾含めると1237万9600人ですから、半分以上が中国・台湾からのお客さんなんですよ。
少なくなって欧米が増えてるとか言ってるけど、圧倒的に多いのはそこなんです。
そうすると、やはりそこにある種のチャイナリスクがつきまといますよね。
去年の4月でしたか、中国の政府が日本で買って来る贅沢品の関税率を大幅にあげて、銀座の一流ブランドの爆買いがピタッと止まっちゃって、大打撃を受けたということがあるわけですよ。
いわゆるチャイナリスクなしに考えても、目先の状況だけ見て、インフラ拡大するっていうことには、大きなリスクがつきまといますよね。
何かの拍子で減った時、一気にバタンと行ってしまうという。
だからこそ、国や自治体による、冷静な状況分析とかコントロールが必要だと思うんですよ。
それが本来の観光政策ということじゃないの、と思うんですよ。
ところが、我が国の観光政策を見ていると、単に倍増倍増という数を増やすことしか考えてないように見えるんですよ。
クルーズ船のターミナル増やそうとか、そんなに増やしちゃってどうするんだよっていう感じでしょ。
いろんなリスクを考えて、長期的に安定した、地に足のついた観光立国を成し遂げようという確固たるポリシーとか計画性が見えてこないんですよね。
本当に、ただでさえ増やせ増やせって言ってるんですよ。
それで、現在先ほど言ったような問題が生じて来るでしょ。
それに対しては、その場しのぎの対応しかできないんですよ。
結果としてさらに問題をこじらせてるっていうのがあって、その最たるものが、違法民泊問題なんですよ。
ホテルとか大型のインフラを造っちゃうと、今度客が減った時大変だから、そういうことに頼らず宿泊施設の不足を解消するには、民泊に頼らざるを得ないですよね。
だけれども、旅館組合の反対とかがあって、民泊を認めてないわけですよ、基本的には。
特区とかはありますけど。
認めてないから、それを管理する法律も整わないわけです。
法律がないから、違法の民泊も取り締まり切れてないわけですよ。
現行の旅館業法で取り締まるしかないわけだから、事実上ほぼ違法民泊野放しですよ。
特区作って、ここはOKにしますよって言っても、決まり守ってる人の方が損しちゃう。
正直者がバカを見る、違法野放しですから。
しかも、地方都市の場合、人口が減って経済が衰退しているから、観光に頼らざるを得ないっていうのがあるでしょ。
そういう町っていうのは、空き家や空き部屋が多いわけです。
それが、どんどん違法民泊となって行く。
しかもそれを違法民泊用に買ったりしてるのが、中国の資本で、そこに泊まるのも中国人観光客だったりするから、実態が把握できない状態なんですよ。
これ朝日の記事にも載ってましたけど、京都の清水寺・三十三間堂等の観光地がある東山区があるでしょ。
実は東山区はすごく人口減少が進んでいて、人口4万人切ってるんですよ。
だから空き家がすごく多いんですけど、それが軒並み買われてるんですよ。
だから民泊街みたいなのが、どんどんできてるんですよ。
ちょっとびっくりするぐらいの量なんですよ。
だから京都市も外国人観光客が317万人とか言ってますけど、実数が全然掴めていない、とてもそれじゃあ収まらない数の外国人観光客が来てるんだけど、どこに泊まって、どういうふうにしてるんだか分からないという、そういう状況なんです。
分からなければ、コントロールの仕様もないというね、完全にマズい状況になっちゃってるんですよ。
この問題ね、外国人労働者の問題とよく似ていて、国としてこの問題に対して、長い目でどう対処していくのかという基本的な方針とか計画性がないんですよ。
その場しのぎの対応を続けていくわけですよ。
その結果、グレーとブラックな存在ばかりが増えちゃって、最終的に手がつけられなくなっちゃうという。
これが観光の分野でも現実に起きつつあるんですよ。
だから、観光立国は大いに結構だと思いますけど、やはり長期的な計画と明確な方針を持ってやらないと、ただ数を増やすだけで、どんどん入れるだけで、 何かあったらその場しのぎの対応でどうにかしていくということを繰り返していたら、観光立国どころか亡国につながりかねないんじゃないかと思います。
フランスのパリは年間8000万人来るとかって言いますけど、じゃあそのフランスのパリが、果たして住民にとっていい状況になってるかどうかというのも、よく見た方がいいと思います。
必ずしもいいことばかりじゃないですよ。
スイスはかなりコントロールしてますから、そういういいところは参考にしていくべきだと思います。