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国家戦略特区の課題 NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」6月16日放送

解説:日本総合研究所 主任研究員・高坂晶子

 

キャスター:加計学園の問題をめぐって国家戦略特区のあり方に注目が集まっています。

この国家戦略特区というのはそもそもどういうものだと考えればいいですか。

 

高坂:国家戦略特区というのは、アベノミクスの第3の矢「成長戦略」というのを体現するものとして、大胆な規制緩和を特区に限って実現しましょうという位置づけです。

このため、規制緩和の項目については、トップダウン方式が採用されています。

国が今後成長していくために需要だと思う部分、その規制緩和の初期メニューというのをベースに、地方からの提案であるとか、要望というのを、追加したり、それによって調整をしたり、というような仕組みです。

 

キャスター:大きく言うと、この国家戦略特区というのは、国の経済成長を目的としているということがひとつ。

それから、国がトップダウン規制緩和の分野などを決めていくというのが、特徴なわけですね。

これまでにはどんな成果があったんでしょうか。

 

高坂:たとえば福岡市などでは、創業・起業の支援事業というのが盛んに行われています。

具体的にどんなことをするかと言うと、抑えた家賃で借りられるオフィスを紹介したり、会計や法律そういった専門的な知識、それからビジネス経験の豊富な専門のアドバイザーが、助言をしてくれる。

それから協力をしてくれる人材や組織を紹介したり、ネットワークを作ったりするような、そういったことがひとつの場所で、創業に必要な色々な支援・サービスというのを受けられるようにしたところが、画期的だということです。

こうした施設を設けている都市は他にもあるんですけど、福岡市の場合は、集客の経験豊富な民間企業に委託し、気軽に立ち寄れる街の中に設けて、相談に応じているところが特徴的です。

その結果、福岡市は、最も企業の盛んな都市になっていますし、それから高度外国人材の誘致にも成功しています。

それから分野で申しますと、保育関係では、都市公園保育所を作る制度なども成果と言えると思います。

今度の法改正で、規制緩和の全国適用とされて、従来は特区限定で認められていたものが全国で実行可能となります。

やはりニーズの大きいものというのは、取り組みも進んで普及もしていくということなのかと思います。

 

キャスター:こういったものは、ある地域のものがうまくいったので全国に展開していった、いい例だということなんですね。

こうした成果も見られる一方、課題も多いとおっしゃっていますけど、具体的にはどんな点ですか。

 

高坂:国家戦略特区の目的が多少変質しているんじゃないかなというふうに見れることも問題のひとつです。

具体的には、日本経済を牽引する成長分野の開拓という目標から、地方創生の意味合いが強くなってきているということです。

特区制度の創設された当初は、経済の中心である都市部の活動に注目が集まったため、特区は経済格差を助長するのではないかという懸念が、特に地方の方から聞かれたんですね。

地方創生というのは、極めて重要なテーマではあるんですけれども、特区の経済成長を牽引するというような、本来的な目的とは、異なるのは明らかです。

また、特区という制度に馴染むのかという点についても疑問があるのではないかなと思っています。

と申しますのも、岩盤規制に突破口をあけたような特例措置だけではなかなか事態は進まないんです。

日本の方制度というのは、法令が規制の対象ですとか仕組みについて、非常に詳細かつ厳密に規定をしている。

で、法令同士がお互いに支え合っていて、ひとつの法律を改正すればそれで終わりではなくて、法律の規制を包括的に見直さないと、物事が進まないというような特徴があります。

このため、法令を見直すには、相当のマンパワーですとか、知識というものが必要となります。

地方の都市に、そうした人材が豊富にいらっしゃるのか、おられたとしても本来的なお仕事が色々とお忙しい中で、こういった特区に関する業務を行おうとすると、かなりスピード感という点では、問題が出てくるんじゃないかなと思います。

地方創生に向けての取り組みについては、別途各地が個々の強みを生かして、地域経済を活性化する、ということが必要ですし、そのための仕組みは特区とは別に、きちんと考える必要があるのではないかという気がしています。

そもそも事業の効果はどの程度か、波及効果は期待できる案件なのかについて、事業の選定作業において、その点の確認がやや甘くなっているのではないかと、仕組みがきちんと働いているのか、ということを感じることがあります。

例えば、話題になっている加計学園の問題について言えば、獣医師の需給見通しというのはどうなのか、新規需要とされるペットの需要予測も出ていますけれども、これは人口減少が続く中で本当に妥当なのかどうか、ということが問題です。

それから、食肉検査やや医薬開発に従事する獣医師の需要予測というのも、具体的にどういうふうになされているのかと、特に医薬開発などの場合は、動物実験ということになるわけですけど、動物実験については、世界的に減らしていきましょうという風潮が非常に強くて、日本はまだまだ動物実験に頼っているところがあって、世界的に注目を浴びているところもある中で、医薬開発のニーズに本当にその動物実験が必要で、獣医師が必要なのか、ということについても長い目で見てどうなのかなという気がします。

それから、トップダウンとかリーダーシップということについては、私は特区制度の推進力を保つ上では非常に重要であるし、必要であると思います。

行政庁は本来、規制緩和には消極的です。

そのために、規制緩和を行う上で指導力というのはかなり重要です。

ただ、それがどういうふうに発揮されたのかに対して、きちんと説明が可能であり、さらに外部からの検証に耐える内容である必要があると思います。

例えば、特区諮問会議の下にワーキンググループが設置されておりまして、これは記録ですけれど、具体的な事業の検討にあたって、提案者と規制の所管省庁双方からヒアリングが行われるんですけど、その内容について詳しい内容は不明です。

説明資料はウェブサイトにアップされているんですけど、それを使ってどんな説明がされて、どんな討議がされたのか、省庁側はどんな説明をしたのか、というようなことについて、記録は全て掲載されているわけではないんですね。

こうしたものについてやはり、検証するために情報が公開される必要があるんですけど、十分とは言えない状況です。

 

キャスター:事業の効果なんですけど、この検証はどうなってるんでしょう。

 

高坂:事業の効果の検証についても、十分とは言えないと思います。

例えば法令で規定された、目標との付き合わせた評価が行われていない。

特区法では、本来、評価についてかなり詳細に定めています。

例えば成果目標、農業参入法人数を何個にするとか、ビジネス環境の世界ランキングで先進国中日本は3位を目指すとか、そういう具体的な成果目標が掲げてありまして、それが達成できたのか、達成できてなければなぜなのか、ということについて計画を立て、実行し、その成果を確認し、うまくいっていないことは改善策につなげる、というPDCAと言われるサイクルがあるんですけど、それに当てはめて評価をするということが必要だと書かれています。

これらを諮問会議における評価と比べますと、あまり内容が遵守されているとは言い難いような状態です。

その一方で、実際にはどうかと思われるような高い評価も見られます。

例えば、民泊の例ですけれど、東京都の大田区でかなり早い段階から取り組んでおりまして、今年3月までの15ヶ月に宿泊者数が765人に上ったということで、諮問会議としては、順調に推移というような評価をされています。

ただ、15ヶ月で765人ということは、1ヶ月あたり50人ということですから、1日あたり2人弱ということで、大田区全体の実績なので、一つの施設だけではありませんから、果たしてビジネスとして成り立つのか、経済成長にプラスになるのか、ということについては、疑わしいようなところがあるにもかかわらず、非常に順調に推移と言われると、どこを持って順調に推移しているのかわからないところがあります。

こういったような問題がある評価の仕組みについてもきちんと見直して、それぞれの事業について個別かつ詳細にきちんと評価をして、成果の上がっていない点については、国の側の対応も合わせて見直すことが必要なのでゃないか、と思います。