イギリス総選挙後の欧州 NHKマイあさラジオ「社会見方・私の視点」
NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」6月19日放送
キャスター:イギリスのメイ首相、与党勢力の拡大を狙って、あえて打ち出した解散総選挙でしたが、予想通りの結果とはなりませんでした。
寺島:メイ首相の誤算と言われているんですけど、なぜこのタイミングで総選挙に打って出たのか、ということなんですけど、1年前ブレグジットということで、EUからの離脱をイギリス国民が選択した。
政権基盤を強くして、EUとの交渉に対するベースを強くしてから、交渉に臨もうという意図があったと思います。
特に、野党の労働党が混乱していて、弱っている時に一気に議席を拡大して、EUに対してある種の強行離脱という言い方があるんですけど、強い姿勢で交渉に臨むということを意図したんだと思います。
ところが結果は、皮肉な結果になってしまって、保守党330議席持っていたのが増えるどころか減ってしまって318になってしまった。
野党の労働党が229から261まで躍進してしまった。
イギリスの議会の過半数は326なので、318ということは過半数割れになってしまった。
こういう状況の議会のことを、ハングパーラメントという表現があるんです。
つまり、宙吊り議会です。
どこも過半数を取っていない状態で、なかなか意思決定が難しい状況です。
そこでメイ首相は、北アイルランドの地域政党である「民主統一党」が今回10議席獲得したんですけど、この10議席を閣外協力というかたちで取り込んで、なんとか政権を維持するという、非常に危うい状況での政権維持に動いています。
どうしてこういう結果になってしまったのかをもう一度考えてみると、大方世界の見方もそうだったんですけど、EU離脱に関するある種に追加承認と言いますか外交が論点だろうと多くの人が見ていたんですけど、ところが外交ではなく内政問題に争点がシフトしてきたんですね。
特に若者が、今回注目すべきことに、18歳から24歳までの若者の投票率が7割台に跳ね上がったんですけど、そのうちの6割以上が労働党に投票したんです。
なぜかと言うと、若者に訴えかける政策を労働党が打ち出してきた。
たとえば学費を免除する政策だとか、福祉充実、保険医療サービスを充実させるとかね。
常識的にそういうものをやると、財源がいるだろうということになるんですけど、財源はどうするんだということに対して、脱税から取ればいいじゃないかというメッセージを労働党はぶつけたわけですね。
たとえば去年話題になったタックスヘイブンなどといって、税金逃れをしているような大企業からとか大金持ちから税金を取ればやれるじゃないか、というふうにアピールしたんです。
ある意味非常に単純なんですけど、そのあたりがグローバリズムの光と陰という言い方がありますけど、恩恵を被っていないと思っている若者たちに大きくアピールしちゃったんですね。
それで若者がまず動いた。
それから老人ですね。
EU離脱にあたって、イギリスの老人が離脱の方に大きく舵をとる投票をしたということなんですけど、今般その高齢者たちが、メイ首相が打ち出した公約に反発したんです。
それは何かというと、介護に対する負担を高齢者により多く負担してもらおうという方向の政策を出そうとしたんです。
それを断固拒否すると怒っちゃったんです。
要するに、若者からも批判され、高齢者の支持も失うというかたちで、結果、議席を減らしてしまうなんていうことになってしまったんです。
メイ首相は、サッチャーの再来とされる評価もあるぐらいで「氷の女」なんて言われてるんですね。
「氷の女」と言われる我々から見ても非常に沈着冷静で政策にこだわりを持っている人なんだけど、人間的にあまりすかれないと言いますか、友達がいないと言われますけど、そういう空気感が今回逆目に出たといいますかね。
今問題は、そんな過半数割れの与党で政権は持ちこたえれれるのかというぐらいギリギリのところに来ていると思うんです。
しかもその弱い基盤で、EUと向き合わなきゃいけない。
いよいよ2年間に渡る交渉が始まったところなんですけど、しかも今朝のニュースに入っているように、フランスで選挙があって、マクロン旋風が吹き荒れて、大統領に当選したところまでは多くの人が認識したと思うけど、今回の選挙で議会においても6割以上の議席をマクロンの政党がとったんです。
議会に安定した基盤を持ってしまったということですね。
話題としては非常に注目されていた右派のルペン率いる極右政党がわずか8議席で、泡沫政党になってしまいました。
そういう中で、既存の政党を超えて、いきなりマクロン旋風で挙国一致政権みたいな性格があって、左右を取り込んで政権を作っていく。
EUという仕組みの中でフランスが果たしていく役割が非常に安定したんですね。
マクロンという人は、なぜここまで台頭して来たのかというと、EUなんかから出ちゃおうよという大きなキャンペーンに対して、頑としてEUに参加していることが大事なんだと訴え続けて、ある意味で非常に安定した軸を持った人なんですね。
ここで、EU側がドイツのメルケルという非常に強い首相と、フランスの安定した政権のマクロンが、独仏の連携の中で、EU側は構えていますから、イギリスに対して、イギリスが得になるだけの離脱を許さないと、EUの体制が固まって来たといっていいと思うんですね。
それに対して、弱い政権基盤でEUと立ち向かわざるを得なくなったメイ首相のイギリスは、強行離脱と言って単一市場を諦めて関税同盟からも出るという形で向き合うと思いますけど、この先どうなるのかと考えたら、後ろ盾になってくれる議会が弱い状態で交渉に臨むわけですから、なかなかイギリスサイドとして、まとまっていけない。
果たして2年間で交渉がまとまるんだろうか。
ズルズルと交渉が長引いた場合、状況の変化の中で、大きなイギリスの選択というものが変化が起こってくるんじゃないか。
いずれにしても、今回の英国の総選挙とフランスの選挙という二つの流れの中で、新たな展開が欧州に見えて来たということを注目しておくべきだと思います。