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孤立するアメリカ「パリ協定」離脱を考える

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」6月20日放送

解説:経済評論家 内橋克人

 

キャスター:トランプ大統領が地球温暖化に歯止めをかけるための国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を正式に表明しました。

アメリカ経済界も協定残留を求めていましたし、アメリカ国内でも離脱に反対の声が今も続いていますよね。

 

内橋:トランプ大統領が今年3月末に、温暖化対策関連の様々な規制を180日以内に見直すよう指示する大統領令に証明したことによって、米国は近くパリ協定からも離脱を表明するのではないかと懸念していました。

そして、懸念しました通り、6月1日、トランプ大統領は選挙公約通りパリ協定から離脱すると正式に表明したわけです。

米国は世界2位の温暖化ガス排出国ですので、世界の温暖化対策にとってマイナスの影響は計り知れないものがあると思います。

米国内の世論調査でも、6割近い市民がパリ協定からの離脱に反対している。

また、抗議のデモや運動が続いています。

その間に2つの国際会議が開かれました。

一つは、イタリア・シチリア島で開かれた、先進7カ国首脳会議いわゆるG7サミットです。

もう一つは、同じくG7環境相会合、これは同じイタリアのボロニアで開催されました。

この二つの会合がどちらも異例づくめでした。

アメリカファーストを掲げる米国とその他6カ国との食い違い、両者の溝の深さが浮き彫りになるような結果となりました。

 

キャスター:このG7先進7カ国首脳会議というのは、国際協調を主導する会議でもありますよね。

そこでは、1対6の議論になったと聞いてるんですけど、その溝というのはなんだったんでしょうか。

 

内橋:パリ協定離脱の理由として、トランプ大統領は、米国だけが損を強いられている、というふうに次のようにコメントしています。

まず、「協定は他の国に利益になるけれども、米国の労働者には苦役を強いるだけだ」

2番目に「この協定では中国は今後13年間も温室効果ガスの排出量を増やし続けることができる」

「インドは、2020年までに石炭の生産を2倍に増やすことができる」

「これが米国はできない。これは不公平ではないか」

こういうわけですね。

こうしてパリ協定によってアメリカは、2025年までに270万人もの雇用が失われてしまう、というものでした。

異例の事態といえば、環境相会合では、米国代表の環境保護局長官は1日目の会合の途中で、公務を理由に帰国してしまいました。

つまり、途中退席というわけです。

また、米国とドイツとが対立していまして、メルケルさんは、28日の演説で、「我々が他国をあてにできる時代はもう終わりつつある」とトランプ大統領の姿勢に強い失望感を示しました。

いずれにしても、このままでは国連が警鐘を鳴らした悲惨な温暖化シナリオが現実のものになってしまいそうです。

つまり、海面が上昇すると生態系が破壊される、食糧不足がやってくる、南太平洋の島嶼国が海水の上昇によって危機に立つと。

人類にとって致命的な災難から逃れる事は出来なくなる、とそういう危機感が世界を覆っているという事なんです。

 

キャスター:トランプ大統領は6月1日にパリ協定から離脱すると宣言しましたけど、パリ協定は出されてから3年間は離脱ができないとなってますよね。

 

内橋:パリ協定からの離脱は、それほど簡単ではありません。

協定の規定によりますと、脱退するには、最低4年はかかるということになっています。

これは協定の規定でして、正式な離脱は、この協定の発効3年後の2019年11月4日から可能になると。

手続きにさらに1年かかるんです。

このため、米国の離脱は、次期大統領選挙、2020年の11月以降となります。

米国の主要メディアは一斉に批判しています。

ホワイトハウスは、これに対抗して、このトランプ大統領の決断を賞賛する社説を掲げたメディアの一覧を出してますけど、わずかそれは5つなんです。

有力メディアでは、離脱を批判する論調が高まっていまして、ニューヨーク・タイムズとかワシントンポストなどは一斉に非難しています。

同盟国を動揺させて、ビジネス街の競争力とか雇用を脅かす、これは米国のリーダーシップを無駄にする、と主張をしております。

本当にそういう意味では、世界で孤立しつつあるアメリカ、と言えるのではないかと思います。

 

キャスター:アメリカの中でも孤立し、また国際的にも孤立し始めているのではないかということですが、この国際秩序の回復を求められるのではないでしょうか。

 

内橋:議長国を務めたイタリアのガレッティ環境大臣は、「パリ協定は元に戻せず、再交渉はできない」と改めて強く主張しています。

そういう中で、日本としていかにこういう事態に対応していくか、ということなんですが、私が考えるのは、いかに国際秩序を回復するか、これを追求すべきだということです。

まず、新興国への技術あるいは資金、そうした支援に積極的に取り組む。

あるいは、日本みずから再生可能エネルギーの開発を進めて、パリ協定で掲げた目標達成に向けて、着々と実績を積み重ねていくと、こういう努力をすることが、これから私たちが進むべき、選ぶべき道ではないかと考えます。