読むラジオニュース

ラジオニュース書き起こし

イギリス総選挙に見る右派勢力の陰り

NHKマイあさラジオ「ワールドリポート」6月22日放送

 

キャスター:今月イギリスで行われた総選挙では、与党保守党が過半数を割り込んだことが大きく伝えられました。

国際部の山口記者に聞きます。

このイギリス総選挙、選挙結果から何が読み取れますか。

 

山口:議席の大幅な上積みを見込んだメイ首相が窮地に立たされたことや、最大野党の労働党が勢いを取り戻したことなど様々な点が指摘できると思います。

ただ、今日は右派勢力イギリス独立党に注目したいと思います。

イギリス独立党は、EUからの離脱を掲げてここ数年支持を拡大し、一昨年の総選挙では得票率でおよそ13%を獲得しました。

しかし、今回はわずか2%にとどまり、議席もゼロになりました。

 

キャスター:なぜ伸びなかったんでしょうか。

 

山口:イギリスに限らず、ヨーロッパ全体で大衆迎合的とも言われる右派の政党の勢いが弱まっていると言えると思います。

去年は、イギリスがEUからの離脱を決め、アメリカではトランプ政権が誕生したこともあって、自国第一主義の流れが広がり、ヨーロッパで極右などを母体にした政権が誕生するのではないかとされていました。

しかし今年に入って、オランダ、フランス、それにイギリスで相次いで選挙が行われましたが、結果を見ると右派政党は健闘はしたものの、当初予想されていたほど得票することはありませんでした。

 

キャスター:支持が広がらなかった背景には何が考えられるでしょうか。

 

山口:極端な主張に対して、市民がNOを突きつけたとはよく言われますが、アメリカの統計学者で世論調査や選挙の分析で知られるネイト・シルバー氏はさらに踏み込んで、トランプ氏の人気が著しく低いヨーロッパでは、トランプ氏との関係が良好な候補者ほど選挙結果が悪くなるという興味深い指摘をしているんです。

 

キャスター:それには具体的な根拠というのはあるんでしょうか。

 

山口:たとえば極右政党では、オランダの自由党ウィルダース党首や、フランスの国民戦線のルペン党首が、トランプ氏を褒め称える発言などをしていましたが、アメリカ大統領選挙の後から支持率を下げました。

一方、トランプ氏から距離を置くことで支持が伸びたのが、ドイツのメルケル首相だと言います。

貿易政策や地球温暖化対策などで意見の違いを前面に出したことで、一時落ちていた支持率が回復しています。

もちろんトランプ氏だけに世論が左右されたと見ることはできませんが、シルバー氏はトランプ氏の大統領選挙の勝利は、ポピュリズムの始まりではなく、ピークだったのではないか、としてヨーロッパの右派勢力にかつての勢いはないと結論づけています。

 

キャスター:ではその後行われた選挙では、右派を支えていた票というのはどこへ投じられたんでしょう。

 

山口:オランダでは、左派の環境政党「グリーンレフト」が最大の躍進を見せました。

フランスでは、中道左派社会党で閣僚を務めていたマクロン氏が大統領に選ばれたほか、急進左派のメランション氏も選挙戦終盤で猛烈に追い上げました。

イギリスでも、中道左派労働党が30議席増やすなど全体として格差是正を掲げる左派に票が流れていると感じます。

9月にはドイツで連邦議会選挙があります。

ドイツでも反移民を掲げる右派政党の勢いには陰りが見られ、今のところメルケル首相率いる中道右派キリスト教民主同盟が盤石と見られています。

ただ、各国と同様左派の巻き返しがあるのか、中道左派社会民主党が今後どれだけ支持を広げるのか注目されます。