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『採用学』から見えてくる就職活動のいま

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」6月22日放送

解説:横浜国立大学大学院 国際社会科会研究院准教授・服部泰宏

 

キャスター:来年春に卒業する大学生らを対象にした大手企業の採用面接が今月1日に解禁されました。

今年の就職活動は、人手不足を背景に企業の採用意欲が高く学生優位の売り手市場が続いています。

そうした採用に関する学問「採用学」を提唱する横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授の服部泰宏さんにお話を伺います。

服部さんは「採用学」という学問を提唱されていますけど、その「採用学」というのはどういうものなんでしょうか。

 

服部:端的に言いますと、採用を科学的に考えていきましょうということです。

具体的に言いますと、採用というのは会社と求人と言いますか個人が出会って、お互いが評価しあって、そして相手・パートナーを見つけていく、大きく三つのフェイズにわかれると思うんですけど、それぞれについてデータを分析してたりしながら、そこに対しておかしいこととかあるいは正しいことを見つけて行く、そういうことを目指して行く学問になります。

 

キャスター:データで分析して行くというのは具体的にはどういうことですか。

 

服部:いろんなデータがあるんですけど、たとえば大手就職会社さんは、定期的に就活生に対してモニタリングして行くような調査をしていて、たとえば大学3年生の3月から4月5月6月と、そこでアンケートをして、その時にどういうことを考えていたかとか、どういう基準で選んでいたかとか、たとえばそういうデータだったりとか、あるいは面接中に面接官と学生さんがやり取りをしてるものを録画したり録音したりして、どういう会話がキャッチボールされているかとか、私たちが意図的に取っておけば就活でいろんなものがデータとして残すことができるわけで、そこをちゃんと分析して行くということを多角的にやっています。

 

キャスター:つまりは、職を探している側からではなく、就職したい人をとる採用する側の見方で学問として成立させようということなんですね。

今の採用のトレンドはどういうところなんでしょう。

 

服部:いくつかのトレンドがあるんですけど、ひとつは各企業が採用について全く違うことをやろうとしていることだと思います。

具体的に言いますと、採用活動と言いますとこれまで真面目で堅苦しくてネクタイを締めてというようなルールがイメージとしてあったと思いますが、それを崩して行くために、たとえば面接ではなくてゲームをやってみて、その中で自由に求職者に振る舞ってもらって、その人となりを見極めて行くとか、私は採用のエンターテイメント化と呼んでいるんですけど、たとえばこういうような動きがひとつ面白いかなと思っています。

どちらかというと、今までの採用のトレンドは、たくさんの人を集めて来て、しかもどちらかというと企業が魅力的な言葉とか、うちの会社がいかにいいかと売り込んで、たくさんの人にエントリーしてもらって、面接ではたくさんの人を落として行くという、いろんな人が涙を流すようなシステムが基本的な日本の採用だったわけなんです。

すべての企業ではもちろんないですけど、そこを大きく変えようとしている企業では、自社に会った人をピンポイントに見つけて来て、その人たちに丁寧に選考していって、相手を見つけて行く、こういう大きな発想へと動いているようなトレンドがあると思います。

 

キャスター:なぜなんですか。

 

服部:おそらく、企業も人事とかにたくさんの労力をかけられなくなって来ているという事。

あとは、今はどちらかというと売り手市場と言われますけど、学生の方が比較的有利に採用活動を進められるというなかで、たくさんの人を集めることがそもそも難しくなってるなかで、一人一人を見極める時間を企業が確保できない、じゃあどうしようかというと、できるだけ少数の人を丁寧に見極めていくというようなことになっていると思います。

 

キャスター:その他に見えるトレンドは何か感じますか。

 

服部:それ以外は、技術的なテクノロジー・ITみたいなものを駆使して、企業が人を採用していったり見極めていくという動きがあると思います。

 

キャスター:ITを使うんですか。

 

服部:はい。

今は人工知能とかビッグデータとか、ITに関わるワードって飛び交ってますけど、要するにそういうものを使っていくということですね。

ある会社では、エントリーシートにいろんなことを書いてますよね。

そのなかで、特定の単語を書いている子達とか、特定のセンテンスを書いている子達は、過去の年度の分析からすると、1次面接2次面接通過しやすいとか、こういう分析をした上で、そういうことを書いている人がいれば、仮に1次面接で面接官が落としてしまったとしても、一応2次面接に進めておこう、というように過去のデータの分析からエントリーシートの合否を判定していくということをやっている会社があります。

 

キャスター:じゃあそのエントリーシートをコンピューターに読み込ませて、そこから言葉を拾っていくわけですか。

 

服部:はい、そういうことを実際にやっている会社があります。

 

キャスター:採用も様変わりしたんですね。

企業としてはなぜそこまで、今おっしゃったIT化とかエンターテイメント化ですとか、するんでしょうか。

 

服部:ひとつは危機感だと思います。

ここ数年で、いわゆる経済団体同友会の指針というものが出まして、企業は何月から何月までに採用活動をしなさい、と指定された期間が少し短くなってしまったんですね。

私が大学生だった頃は、大学3年生の12月くらいに説明会が始まって、4年生の4月くらいから選考が始まる、こういうルールだったんですけど、今の大学生は、大学3年生の最後の3月に説明会が始まって、選考が6月に始まるという、ちょっと短くなってしまった。

こういうなかで、どうやって良い学生を見極めていったりとか、あるいはたくさん企業があるなかで、どうやって自社が目立って学生にアピールするか、こういうことをしなきゃいけないなかで、企業は危機感を持ってアピールするようなこととして、今申し上げたようなアクションが起こっているのかなと思います。

 

キャスター:服部さんは、企業は採用力を持ちなさいということを提唱されていますけど。

 

服部:企業の採用力と私が申し上げているのは、二つの要素があると思っておりまして、ひとつは、昔ながらの企業がやって来たことなんですけど、どちらかというとお金をかけるとか知名度を使うとかいうような企業が今まで持っている資源と言いますか、リソースと言いますか、こういう強みみたいなものを使ってやっていく、お金をかけて説明会をゴージャスにやったり、社長が有名人ならその有名人を使うとか、すでに持っているものを使っていい人を集めて行くような発想だったんですけど、そういうような採用力から、もうひとつの採用力と呼んでいるのは、これは採用をどうやってデザインしたりとか、アレンジして行くか、ということですね。

今までの採用は、面接をして、3回やって、最終面接をして合格と、あまり考えずに、当たり前のこととしてやって来たんですけど、本当にそれってどういう意味があったんだろうかとか、自社にとって優秀な人を集めるために面接を3回というのはどういう意味があったんだろうか、もしかしたらここはゲームとかワークをさしちゃった方がむしろ自社のいい人を見極められるんじゃないか、というふうに採用担当者や企業の人事の人が頭を使って自社なりに採用というものを考えて、そして今までとは違うものを作り出して行くという動きがあって、そういうものがいい人を集め出しているという流れやサイクルが生み出されているような気がするんです。

 

キャスター:優秀な人材、優秀な人をという話がありましたけど、実際会社で働いて優秀な人と、採用の時に優秀な人って違いますよね。

 

服部:いくつかの会社で分析をしたことがあるんですけど、入社の段階の適性検査や面接の判定があるとして、入ってからの上司とか周辺からの評価の間に、統計的な関係があるかどうかで見ると、日本の会社10社で分析して、9社で全部関係がないと。

繋がってないんです。

ということは、今の日本の会社が面接とかで、この人いいね、とした人が、必ずしも入ってからもいいねという人だとは限らない。

むしろその順番が容易に入れ替わっちゃってるというのが現実だとわかって来てるんです。

 

キャスター:今の話で行きますと、それが少しずつ繋がって来てるということですか。

 

服部:そうですね。

そこを少しずつ変えようとして来ている企業がいらっしゃって、なぜ面接とか適性検査みたいなものが入ってからの優秀者につながらないのか、というと、そもそも自社の捉えるべき優秀者というのはそういう面接とかのいわゆるコミュニケーション能力とは違うところだったんじゃないかと。

しかも、それはもちろん企業によって違うと思うんですね。

ある所ではその製品に対する愛情のようなものが優秀者に決定していたりとか、ある所ではいわゆるIQみたいな本当の自頭の良さみたいなものが関係していたりとか。

具体的に自社にとって優秀な人ってなんなんだろうかということを突き詰めていく、こういう会社が出てきているということなんです。

うちの会社で活躍する人、うちの会社が欲しい人はどんな人なのかということを、ちゃんとした言葉に表現しないといけないんだと思います。

多くの会社が、それはホームページを見れば書いてあるんですね。

ただそれは残念ながら、コミュニケーション能力とか人間力という、それってなんなんだろうなっていうものが結構多かったりして、求職者もそれを見た時にコミュニケーション能力が求められるということは、たくさん喋ればいいのか、適切なタイミングで適切に喋ればいいのかという、同じコミュニケーション能力でもかなり多義的ですので、そこら辺はちゃんとクリアに突き詰めていくことが、いい採用をすることであり、いい就職をすることだと思います。