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新聞記事に付いている記者の署名とは?

TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ」6月26日放送

「ボイス」青木理

 

新聞記事を読まれる方だったらわかると思うんですけど、記事の末尾とかに書いた記者の名前が書いてありますよね。

これは昔は付いてなくて、海外の特派員の記事は例外でした。

なぜかというと、特派員がいるということが新聞社にとってある種のステータスだったんですね。

毎日新聞が比較的早く積極的に始めたんですが、記者の記事には署名をつけようということで書き始めました。

それがだんだん進んで、多くの新聞で署名がつくようになってきました。

実は、欧米のメディアではこうして署名を入れることが当たり前のことなんです。

つまり、記事を書いた記者がどんな人間かということもひとつの情報であるという考えなんです。

その記者が保守的なのかリベラルなのか、権力よりなのか在野よりなのか、あるいはこれまでどんな記事を書いてきたかを知るということも、読者にとってはひとつの情報だという考えなんです。

日本の場合、毎日新聞から始まってきたんですけど、読売新聞は比較的署名をつけていない記事が多いんです。

問題になった、前川氏の出合い系バー通いの記事も無署名なんです。

あれが署名記事だったらどうだったでしょうか。

例えば、僕があの記事を書けと言われたら「イヤだ」って言いますよ。

誤解されるの間違いないですから。

しかし、署名でなかったら、上からの命令なら仕方ないと割り切って書いちゃうかなという気もするんです。

やっぱり、署名をつけることで、読者の側も記者の顔が見えるけど、社内でも自分が書いた記事というものに責任を持つというか、プライドを持つということが進むんじゃないかと思うんです。

前川氏の問題は、メディアの問題を浮かび上がらせたと思います。

内部告発とはなんなのか。

情報源とはなんなのか。

守秘義務ってなんなのか。

告発者と政権とが向き合った時、メディアはどういう対応を取るべきなのか。

こういうことが、非常に問題になったという気がしています。

前川さんは、先週金曜日に記者会見をされましたよね。

その際に、メディアに関して、言ってる部分があるんですよ。

メディアは自分たちのことだからあまり報じてないんですが、その部分を聞いてもらいたいと思います。

 

前川:私に最初にインタビューを行なったのはNHKでした。

ですがその映像は何故か放送されないままになっております。

またこの真相を表す内部文書の中でも非常に決定的なものであります9月26日の日付付きの文書がございますけど、これは朝日新聞が報じる前の夜に、NHKが報じていました。

しかし核心の部分は黒塗りされていましたですね。

これは何故なんだろうと。

それから、報道番組を見ておりますと、コメンテーターの中には、官邸の擁護しかしないという方がいらっしゃいます。

森友学園の問題で官邸を擁護するコメントを出し続けた方の中には、ご本人の性犯罪が検察警察によってもみ消されたのではないかという疑惑を受けている方もいらっしゃるわけであります。

 

 

いろんなご意見あると思うんですけど、僕の知ってる限り、前川さんのような方があの時期にインタビューを撮ったとして、これはメディアの立ち位置の問題ではないですよ。

政権よりかどうかは関係なく、あの段階で前川さんのインタビューを撮って流さないというのはあり得ないですよ。

前川さんがおっしゃっているようにNHKが流さなかったとしたら一体何故なのか。

インタビューですから。

事務次官を務めていた方が言っているんですから、もちろん裏を取ることは必要だけど、おっしゃってるだけでニュースなんです。

それを流さないというのはどういう判断だったのか。

NHKの名誉のために言っておくと、先日の萩生田さんが「お尻を切っていると総理が言っている」と言った文書はNHKのスクープとして報じているわけです。

つまりNHKの中でもいろんなことが起きてるはずなんですよね。

政権との距離感、内部告発者とどう向き合うのか、政権に忖度するのか、いろんなことが渦巻いている。

あるいは、このTBSもそうですよね。

さっき政権の応援団ばかりやってるとか、あるいは女性との関係で告発を握りつぶしたんじゃないかと言われているのは、ここの人ですよね。

さっきの読売新聞に記事もそうです。

なんでこんな記事が出ちゃったのか。

もちろん読売新聞の言う通り、公益に資することだ、と言うのであれば、そう言う考え方もあるでしょう。

しかし、あの時期に、あんなかたちで出るというのは、一体どうしてだったんだろう。

さっき申し上げたように、あれが署名記事だったら本当に書く記者というのはいたんだろうか。

いたとしたら、その記者は、モノを書くということは責任を伴うし、それによって生じる批判を受け止めないといけないですよね。

だとすればその記者は、こういうつもりでこの記事を書いたんだ、と堂々と出て来て言えばいいし、それに対する批判も受け止めなくちゃいけない。

加計学園の問題、前川氏というので元文部科学事務次官の登場とその証言をどう報じるか。

どういうふうに対応するか、ということでメディアあるいは記者・ジャーナリストというものが組織にいようがフリーランスだろうが、いろんなことが見えてきて、いろんなことを考えさせる出来事ふだったと思います。

前川さんの異例の発言を材料にして、多くの記者あるいはメディアに関わるものたちは考えないといけない。

前川さんの記者会見で、メディア(読売新聞)の記者が「あなたのやっていることは守秘義務違反じゃないんですか」なんて質問をした記者もいたんです。

そんなこと言ったら、僕らの仕事は毎日守秘義務違反を唆してるわけですよ。

官僚に限りません。

政治家だってそうだし、弁護士の先生だってそうだし、お医者さんもそうですし、組織の中にいる人たちはみんなそれなりに守秘義務を負ってるんだけど、世の中に知らせなくちゃいけない事だから教えてくださいと言って、取材しているわけですよ。

その記者が、前川さんに向かって、「あなたのやっていることは守秘義務違反じゃないのか」と言うっていうこの倒錯。

本当にいろんな事を考えさせられます。

NHKのインタビューは何故流れなかったのか。

政権のやってることなら全部擁護するようなジャーナリストがいるって一体どういうことなの。

そのジャーナリストは、元ここTBSですよ。

メディアの問題、メディア論というものを前川喜平という男があぶりだしたのかもしれません。

これにきちんと向き合わないとメディアは信用を失ってしまうかもしれません。