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人手不足なのに、低賃金。世界的傾向のこの謎の現象。

TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ」6月30日放送

ボイス・宮台真司

 

失業率が改善され、人手不足が叫ばれているにもかかわらず、なぜか賃金が上がらないという話を、日本でも最近聞かれるようになりました。

しかし、これは世界的な傾向のようなんです。

ダイヤモンドオンラインの記事によりますと、失業率が17年ぶりの低水準となっているアメリカで、消費者物価指数もまた低空飛行となっています。

またヨーロッパでも、景気回復の動きに比べて物価と賃金が上昇していく動きが弱いことがわかっています。

記事ではこの理由として、IT化をあげています。

現在は人手不足に悩みつつも、先行きはIT化で人員カットが必要になるのではないかと、企業が考えているのではないかと、この記事は分析しています。

 

宮台真司

昔ながらの発想ですと、インフレあるいは賃金上昇、これは企業活動の活性化を示していて、当然活性化すれば需要が増えて、ますます企業も活性化する。

企業が活性化すると賃金が上がる。

賃金が上がると可処分所得が増える。

そうすると消費が増えるので需要が増す。

そうすると物価も上昇し企業の収益も上がって賃金も上がる。

というふうにグルグルいい循環が回ります。

こういう前提があったんですね。

逆にインフレじゃなくてデフレになると、全く逆という話だったんですね。

ところが、たとえば人手不足というのは景気上昇の最もわかりやすい指数なんですね。

経済政策の目標のひとつの外部基準は失業率の改善なんです。

人手不足ということは失業率が改善しているということだからね。

政策的な成功とはどういう成功かというと、さっきの景気の好循環が回っているという話になるはずだったのが、なぜか好循環の連鎖がどこかで切れていて、失業率は下がった、これ以上失業率を下げられないところまで。

金融の緩和といって、市場に中央銀行が債権を買いまくってお金を流して。

それで、これ以上失業率は下げられないというまで金融政策をやる。

にもかかわらず、給料が上がらないんですよ。

おかしいですよね。

企業活動がうまく回るようになれば、賃金が上がるはずじゃないですか。

確かに、株価など経済指標はアップしてるわけ。

じゃあなんで賃金が上がらないんだ。

内部留保してるんじゃないか。

日本はそうなんだけど、生産性が非常に低いので。

アメリカなんかは生産性は高いので、当然設備投資もします。

しかし、にもかかわらず賃金は上がらない。

二つの要因があると考えてください。

アメリカの大統領選挙の時に、トランプがこういうことを言っていました。

「好景気にもかかわらず労働者の賃金が上がらないのは、ひとえに移民のせいだ」と。

「移民労働者が安く仕事を請け負ったりとか、あるいは労働力の安い外国に工場を移転しているからだ」と。

しかしこれは大統領選挙のいいところだったんだけど、経済学者たちは、いろんな統計資料で詳しく計算してみたところ、移民による賃金水準低下というのはほとんどカウントするの値するものではなくて、基本何かと言うと、IT化だということです。

要するに、デジタルテクノロジーを導入することによって、人が関わらなくてよくなってしまったんですよ。

具体的にいうと、デジタルイノベーションの典型的な例は、アマゾンだよ。

アマゾンで皆さんEコマースをするようになったよね。

本屋で買うだけじゃなくて、アマゾンで買う。

本だけじゃないよね。

ありとあらゆる日用雑貨をアマゾンで買う。

音楽も映画もアマゾンでオンライン視聴するみたいになってますよね。

そうすると、小売をしている人たちは、アマゾンと競争しなくちゃいけなくなる。

当然、コストの下方圧力がものすごく、コスト減が迫られる。

人を雇っている余裕はなくなっていくんですね。

少しでもお金に余裕があるところは、ITテクノロジーを使って、デジタルイノベーションの恩恵に預ろうとしていく。

こういう動きになっているんです。

つまり、デジタルイノベーションによる雇用減の方がはるかに大きな役割を果たしているということが、アメリカの経済の現状のようなんです。

ここで、社会のための経済か、経済のための社会かっていう2項図式を持ち出しておきます。

昔、国境がもっとちゃんとしていた頃は、移動や交通の自由がなかったし通信も難しかったから、社会のための経済なんです国民経済というのは。

アダム=スミスはそういう観点で、国民経済を活性化するためには、道徳感情を豊かにして、同感能力を共有する人間たちにおいて働く神の見えざる手、これに頼りましょうと、こういう図式だったんです。

ところが、グローバル化が進みます。

国境のハードルが低くなります。

そうすると、残念ながら自動的に、社会のための経済から経済のための社会になります。

たとえば法人税が高いとか、雇用規制が厳しいということになったら、より法人税が低い、雇用規制が緩いところへ工場を移転する。

あるいは、さっきの移民もそうですけど、国籍問わず、できるだけ安い賃金で働いてくれる人たちを使うと。

こうなると、僕は焼畑農法と言ってますけど、経済に規制を加えようとすると、資本が流出して逃げていくことになりますよね。

簡単にいうと、経済が主で、社会が従にならざるを得ない。

ヨーロッパの法人税の歴史を見てもわかりますように、国境のハードルが低くなればなるほど、どの国も法人税を下げる競争をせざるを得ない。

そうしないと企業が逃げちゃうからね。

だから、企業から取れる税金がピーク時に比べるともう半分あるいはそれ以下になってしまっているんですね。

つまり、これが社会の経済ならぬ、経済のための社会。

つまり、社会は経済の手段に過ぎないというふうになってしまったわけです。

そうなると、社会が空洞化してもそんなこと知らねえよと。

昔は、空洞化したら、革命が起こったかもしれないし、打ちこわし運動が起こったかもしれない。

そんなの起こりそうになったら、逃げればいいですから。

で、どんどん逃げるわけですよ。

同じように、ITテクノロジーを使えば、人を使わなくなるから、自分たちの社会をどんどん貧弱に空洞化してしまうわけです。

両方ともそうなんです。

移民を使う場合も、デジタルイノベーションを使う場合も、基本的に同じ機能があるんです。

じゃあ、打ちこわし、革命、起こらないのか。

起こらないですね。

なぜ起こらないのかというのを、徹底的に理解した方がいいですね。

いくつかの要因があるけれど、重要なことは、僕たちは何かを楽しんで生きているわけです。

人間関係を楽しんだり、仲間を楽しんだり。

しかし、何かを楽しむ場合、情報を楽しむという生き方もあって、現実を楽しむというのも、実は、現実が与えてくれる情報を楽しんでいるわけだから。

実は現実についての情報を楽しむ場合と、情報としての情報を楽しむ場合というのは、競合的で、取り替えられるんです。

だから、どんなに現実が苦しい人がいても、まるで丸薬のような最低限の餌を与えて、ポケモンGOのようなね、楽しいバーチャル体験を安価に提供すれば、不満は生じないということが起こるわけです。

どうすればいいかというと、抽象的には、社会のための経済に戻す必要があるんだけど、そのためには、社会あるいは簡単にいうと仲間ですよね、みんなが社会思い、仲間思いっていうふうになる必要があります。

そのためには、仲間のために貢献することが正しいと。

仲間とは、家族だったり、隣近所だったり、学校の同窓かもしれない、ビジネスの仲間である場合もある。

仲間とそうでないものの特徴は、仲間は自分の一部だと、自分が犠牲になっても仲間のために貢献できれば、それは自分にとってのありがたみになる。

ネットで仲間を作ってもダメですよ。

ネットっていうのは、災害の時の動きを見てもわかるように、仲間意識とは関係ないんです。

承認ボタンとか、いいね!ボタンとかに関係するんだけど。

サンスティーンという有名な学者も言っていることだけど、見たいものだけを見て、見たくないものを見ない、そういう連中のインチキ共同性を超えた、いいものも悪いものも全部含めた包括的な人間関係の中で、それでも仲間でいたいという感情を養うことができないと、正しさにコミットできる人はいなくなって、損得野郎のクズだらけになります。