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内部告発者は守られるのか

NHKラジオ「マイあさラジオ」6月30日放送

社会の見方・私の視点  

弁護士 光前幸一

 

キャスター:加計学園の問題をめぐって、文部科学省の職員が内部の情報を外部に伝えたことが、法律違反にあたるのかどうか、これについて国会でも取り上げられました。

日本には、情報を漏らしてはいけないという法律と、内部通報をした人を守る法律、これが互いにぶつかり合うようにも見える法律が2つありますね。

 

光前:情報を漏らしてはいけないという法律としては、国家公務員法特定秘密保護法というものがあります。

国家公務員法というのは、公務員が職務上知った情報を漏らしてはいけないというものです。

また、特定秘密保護法は、国の安全や外交機密に絡む秘密情報の漏洩を防ぐためのものです。

これは、国民の知る権利を制限し、行政機関の情報を秘密にすることによって、国民の利益を維持・増進させようとするものです。

これに対して、公益通報者保護法という法律があります。

この法律は、秘密の情報を暴露した人を守る法律です。

隠されている情報を個人が通報することにより、不正を正し社会をよりよくしていくためのものです。

この法律は一般市民の表現の自由、政治参加を実現するためのものであり、権力を持たない市民の最後の武器とも言われています。

情報化社会では、秘密を守る法律と、秘密を明らかにする法律、この2つの法律のバランスが、国の民主度を決定すると言われます。

 

キャスター:そのバランスなんですけど、日本ではどうなっていると光前さんはお考えですか。

 

光前:私は現状は国家による秘密の独占に傾いた、いわゆる秘密の保護を優先しすぎた不均衡なものになっていると考えています。

特定秘密保護法では、秘密の定義を規定しているんですが、非常に漠然としています。

このため、各行政機関に、どの情報を秘密にするのか広い最良権限を与える結果になってしまっています。

また、その決定に対する国会や第三者機関の監視機能は、極めて不十分なものになっています。

しかも、本来秘密にしたはいけない情報が秘密にされている場合に、公務員がこれはおかしいと考えて、どこかに通報することが、法律で保護されるかどうかが明記されておらず、運用基準が設けられているだけなのです。

運用基準というのは、ルール・法律の規定ではないので、おかしいと指摘された側が通報者に報復を加えても、法律違反になりませんし、基準はいつでも変更可能です。

 

キャスター:報復される可能性があるということですか。

 

光前:そういうことですね。

 

キャスター:秘密の範囲が不適切でも、なかなかチェックされにくい法律に、特定秘密保護法はなっているというご指摘ですね。

一方の通報者を守る法律、公益通報者保護法はどうなっているんですか。

 

光前:これも結論から言いますと、極めて不完全なものだと言えます。

公益通報者保護法では、公務員を含む労働者に、勤務先の不正について、勤務先への内部通報、それから監督行政機関への通報、それからマスコミ等への外部告発という三つの形態の通報を認めています。

 

キャスター:こちらは、外部も認めている。

 

光前:そうですね。

ただ、公益通報というのは、多種多様な内部告発のうち、一定の要件を備えたものだけを公益通報としてその通報者を保護する形式をとっており、特定の法律の違反事実の通報であることが要件のひとつになっています。

そして、現在対象となる法律は、460ほどなのですが、その選定にはやや首をかしげるものもあります。

たとえば、所得税法や政治資金等規正法といった公共性の強い法律がこの460の対象にはなっておりません。

 

キャスター:この法律に関していうと、460の法律に違反しているような内容の通報をする場合には、公益通報として認めますよ、ということですね。

とすると、その460の法律に違反していないけれども、やっぱり問題があるんではないかということについて、内部通報してしまったら、これは法律違反になるということですか。

 

光前:それは違うんです。

ここが非常に大切なことなんですが、この要件に該当しない、もっと多くの一般的な内部告発は、個別に正当性があるかどうか、保護される通報であるかどうかを判断することになっています。

そのことは、公益通報者保護法が成立した時の附帯決議として残されていますし、法律の6条にも記載されています。

公益通報ではない一般の内部告発の正当性がどのように判断されるかと言いますと、主に、告発した事実が真実かどうか、それから告発した事実は公共の利益に関係したものかどうか、3番目として告発した目的はなんだったのか、単に個人的な恨みを晴らすといった私益を図るものではないのか、4番目として、告発の方法に問題はなかったのか、といったものになります。

 

キャスター:そういったものに当てはまれば、先ほどおっしゃった460の法律に違反していない別の問題を外に漏らしても、それは法律違反にはならないということですね。

 

光前:正当な内部告発として保護されることになります。

ところが、460の法律に該当しない事実について内部告発した場合、すなわち公益通報には該当しない一般の内部告発は、すべて違法だといった誤った取り扱いや発言が見られるのです。

そして、正当な内部告発をした人が、勤務先などから不当な処遇を受ける事態が起きています。

 

キャスター:今回の加計学園の問題をめぐっては、文部科学省の職員が行なった行為についてですね、義家副大臣はこんな発言をしています。

一般論ではあるがと言ってはいるんですけど、法令違反に該当していないこと、これは先程ご紹介のあったような法律に違反していないような秘密ですね、そういった法令に違反していないような秘密を勝手に外部に漏らしたら国家公務員法違反になるんではないか、という趣旨の発言をしているんですけど。

 

光前:この義家副大臣の発言は、私が先程説明した誤った取り扱いや発言の典型です。

今回、問題とされた文書の存在をマスコミに告発したとされる文科省の職員の行為は、先程あげた460の法律違反に関する告発ではない可能性は高いです。

でも、この告発は、一般の正当な内部告発の要件、すなわち告発事実の真実性、公共性、公益目的性、告発手段の相当性の要件をいずれも十分に備えていると思います。

ですから、仮にこの職員の告発が、国家公務員法に違反する秘密漏洩に該当するとしても、これまでの裁判例に照らせば、公益通報には当たらなくても正当な告発として保護されるべきものです。

 

キャスター:いわゆる460の法律に違反するような内容には当たらないけども、4つの条件を見比べてみた場合に、今回の行為は通報しても法律違反には当たらないような行為だと考えられるのが妥当だということですね。

 

光前:場合によっては、公益通報に該当するかもしれませんが、仮に該当しなくても、正当な要件を満たしていると考えています。

義家副大臣の発言は、公益通報に当たらない内部告発はすべて違法と言っているわけで、これでは通報者を保護しようとした公益通報者保護法は、その他の一般の正当な通報を阻害する公益通報阻害法になってしまいます。

 

キャスター:伺っていると、秘密を晒すのか隠すのか、そのバランスが非常に重要なんだけれども、どうも隠す方に偏り過ぎているんじゃないかというご指摘だと思うんですね。

今後どんな改善策が必要だとお考えですか。

 

光前:いろいろあるんですけど、最低限正当な告発をした人がきちんと守られる制度にしないといけないと思っています。

コンプライアンス意識に欠ける人、法を正しく運用していない人が、不正事実を通報されれば、通報を裏切りと捉え、通報者の報復するのが自然の流れです。

ですから、通報には報復が伴うことを前提にして、もし報復をする人や団体が現れたら、その人や団体に厳格な処分をするとか、高額な損害賠償を課すといった制度を設けて、通報者を確実に保護する必要があると思います。

通報した人が、理不尽な報復を受けても、通報との関係を厳密に証明するのは非常に難しいことなのです。

ですから、証明方法を工夫して、通報者の救済を容易にする必要もあると考えます。

公益通報を前向きに捉えるのであれば、少なくとも早急に通報者を保護する具体的な措置を法律に明記する必要があると思います。