企業に広がるワーケーション
TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ」6月28日放送
トークファイル 渋谷和宏
森本:ワーケーションてなんですか。
渋谷:これはですね、人手不足に直面する日本企業がついに導入を始めたこれまでにない働き方改革なんです。
ワーケーションとは、「ワーク」つまり「働く」と「バケーション」すなわち「休暇」を合わせた造語です。
これはどういうことかというと、国内とか海外のリゾート地とか観光地に滞在して、レジャーとか観光を楽しみながら、1日のうちの一定時間たとえばコンピュータネットワークを使って社内会議に参加したりとか、報告書を提出したりと仕事をすることで出勤扱いになる、つまり休みにはならない、いわば働く休暇制度なんです。
実は数年前からアメリカのIT企業を中心に導入する企業が増えていまして、アメリカではこのワーケーションという言葉自体もすっかり定着しているんです。
さらに、高速インターネット回線とかグループで仕事ができる共同スペースを用意してワーケーションの誘致に力を入れるホテルとかコンドミニアムとかがですね、アメリカではどんどんでてきているんです。
こういったワーケーションという取り組みを、ついに日本でも導入しようという、そういう大企業が出てきたという話ですね。
森本:どんな企業がやってるんでしょう。
渋谷:JAL日本航空です。
日本航空が、7月1日からパイロットや客室乗務員などを除く全社員を対象にワーケーションを導入します。
国内とか海外のリゾート地などで最大5日間の社外勤務を認めて、その間は有給休暇にはカウントされず、もちろん給料も支払う。
こういう仕組みなんです。
たとえば、夏休みに妻と子供達がハワイに一週間の旅に出かけることになりました。
これまでは、その間仕事があったら、国内にとどまって泣く泣く仕事をせざるを得なかったわけですね。
海外旅行を諦めるしかなかったんですが、7月以降はこのワーケーションという制度を使って、同行できるようになるわけです。
一緒にハワイに行きます。
滞在中、所定の労働時間たとえば現地時間の朝から夕刻までは会社から貸してもらったパソコンを使ってデスクワークをしたりとか、電話会議システムを使って会社での会議に出席したりします。
仕事の始まりと終わりに上司に連絡を入れまして、どれだけ仕事が進んでいるか、そういう進捗状況を上司や部署と共有します。
ただし、所定外時間ですね早朝とか夕方以降は、自由にレジャーや観光を楽しむ。
その間、先ほども言ったように、給料は出るということなんです。
ただハワイ行きの滞在費とか旅費は自分で出すということです。
このワーケーションの取得自体は最大5日間なんですけど、有給休暇と組み合わせて長期滞在も夢ではない、こういう仕組みです。
JALは、まずこの7月8月、社員を対象に積極的な参加を呼びかけて推奨期間として、9月以降の利用も認める方針です。
JALによると、空港での接客とか機体の整備を担当する社員などは、なかなか職場を離れられないので、職場によって活用が難しい点もあるけれど、働き方に関する新たな発見もあるのではないかと言っています。
実は、ワーケーションがこれまで国内では日本マイクロソフトなどの外資系企業が導入した例はあったんです。
たとえばマイクロソフトでは、2200人を対象に、2016年5月からこのワーケーションを導入していますので、金曜日の朝から旅行に出かけて、金曜日1日を旅先でワーケーションとして仕事をして、土日はレジャーを楽しむ、こういう利用法が浸透しているんですね。
ですので、JALの導入によって今後、他の日本の大企業にも広がる可能性が出てきたということですね。
実際そうした可能性を見据えて、南紀白浜などのリゾート地を抱える和歌山県では、宿泊施設へのIT投資を加速させまして、今年4月から企業に対してワーケーションの誘致活動を開始しているんです。
すでに中小のベンチャー企業など17社が、この夏から秋にかけて南紀白浜でワーケーションを検討する。
つまり、南紀白浜に滞在しながら仕事をするという、こういう企業が出てくるということです。
森本:リゾート地に行って、朝から晩までは一応会社に拘束されるわけですよね。
渋谷:そうなりますね。
それがいいのか悪いのか。
働き方の選択肢が広がるのは悪いことではないと思うんですよね。
家族と離れて暑い東京に残って仕事をするよりは、ハワイや南紀白浜に行った方がいいと思うんです。
ただ、人手不足ってますますつのってまして、今後ますます忙しくなって来ますよね。
生産年齢人口は年々50万人ずつ減少してまして、そうした環境下ではワーケーションというのが広がっていくと、むしろ働く休暇が当たり前になってしまうという懸念もありますね。
「君明日から休暇だって。だったらその間にリポート仕上げてくれ」みたいなことを、言われちゃうなんてことになると、今度は逆に休暇もおちおち取れなくなってしまう。
ですから、どう歯止めをかけるのか、あくまで働き方を多様化させることであって、旅先でも働けよということではないわけですよね。
ここをどう切り分けていくかというのは、今後の企業と国の大きなポイントになってくるかなと思います。
森本:これはアメリカではどういうふうに受け止められているんですか。
渋谷:ワーケーションというのは、まさにリゾート地で楽しみながら働くということなんですが、実はもうひとつ、せっかく休みを取ったのに仕事をしなければならなくなってしまったという不幸な休暇という意味でもワーケーションという言葉は使われているんです。
「バケーションどうだった」と言われて「いやあワーケーションだったよ」と答えるみたいな。
ですので日本がそうならないように。
つまり、「働き方の多様性」「休み方の多様性」というのは、「どこでも働け」ということに繋がりかねないというリスクもあるということです。
特に日本は、未曾有の人手不足という問題がありますので、どういうかたちで定着していくかというのは、これからまだ見ていかなくてはならないでしょうね。
森本:こういうのを導入してる企業だよというと、それに魅力を感じて来る若者もいるかもしれませんね。
渋谷:給料よりは働き方、という方に若者たちは選択肢を移していますので、そういう点でもJALの試みというのはどう受け止められるか、ちょっと注目です。
森本:日本では今の所JALだけですか。
渋谷:大企業ではJALだけです。
ベンチャー企業ではありますけど。
誰もが知ってる大企業では初の試みです。
森本:これが大企業に広がっていくかどうか試金石ですね。