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薬剤耐性菌の脅威

NHKラジオ「NHKマイあさラジオ」7月7日放送

社会の見方・私の視点

解説:国立国際医療研究センター  忽那賢志

 

キャスター:薬剤耐性菌とは、薬の効かない細菌のことですね。

これに関連して、厚生労働省は今年の春に抗菌薬の投与を控えるよう呼びかける手引書をまとめました。

これは、お医者さんの間でも呼びかけが行われているそうですが、なぜいまこのような動きがあるんでしょう。

 

忽那:いま、世界的に抗生物質が効かないばい菌が増えてきていて、抗生物質を使っても治療ができない感染症が実際に増えてきているということがあります。

2015年に世界保健総会で、薬剤耐性菌に対するアクションプランというんですけど、こういうものが採択されて、2年以内に各国が国家行動計画を策定しましょうということを決めました。

日本も、昨年の4月にアクションプランを発表して、その取り組みが進められているところです。

 

キャスター:抗菌薬といいますと、現場ではどのように使われていて、どこが問題なんでしょうか。

 

忽那:抗生物質というのは、ばい菌に効く薬なんですね。

感染症というと、ばい菌による感染症もあるんですが、ウイルスであったり、原虫とかいろんな微生物による感染症があります。

本来、抗生物質というのは、細菌ばい菌によるものに対して使うべきなんですが、風邪に対して間違って抗生物質が使われてしまったり、という事例が実際にあります。

 

キャスター:風邪には効かないんですか。

 

忽那:風邪はウイルスによる感染症ですので、ウイルスに対して使うのをやめましょうと。

これまで通り、細菌の感染症に対して、ちゃんと使うべきところに使いましょうと。

そういうことで、不適切な使用は控えましょうということです。

ですので、抗生物質そのものを減らしましょうというよりは、不適切な使用をやめましょうということです。

 

キャスター:このまま薬を使い続けると、薬剤耐性菌の出現によって何が起こるとか、推計はあるんですか。

 

忽那:耐性菌が増えることによって、たとえば私たちが身体に耐性菌を持つようになると、女性の場合は膀胱炎を起こすことがありますが、膀胱炎はお腹の中のばい菌が逆行性におしっこの通り道を遡ることによって感染症を起こすんですが、いきなりお腹の中の耐性菌が膀胱炎を起こしたり、もっと遡って腎臓まで達すると、腎盂腎炎というものになりますが、腎盂腎炎が耐性菌が原因で起こったりすることがあります。

そうすると最初から治療が非常に困難になってしまって、耐性菌というとこれまでは病院の中で院内感染というかたちでもらうようなことが多かったんですが、近年は必ずしもそうではなくて、普段生活していても、抗生物質を飲むことによって、耐性菌による感染症を起こすことがあり得るという状況になっています。

 

キャスター:効く薬がない、自然治癒を待つしかないということですか。

 

忽那:実際に腎盂腎炎という病気自体は、自然治癒することもあるにはあるんですが、抗生物質を使わないとかなり重症化して、場合によっては命に関わることも十分にある病気です。

 

キャスター:深刻な問題になりますね。

 

忽那:イギリスのあるシンクタンクが、推計を出してるんですが、2050年今から30年後ぐらいには、耐性菌が非常に増えてしまって、耐性菌による感染症の死亡者が年間1千万人を越すんじゃないか、そういうような推計を出しています。

ガンの死亡者が年間900万人、耐性菌の感染症の死亡者が1千万人。

2050年には、そういう状態になってしまうんじゃないかと言われています。

 

キャスター:この薬剤耐性菌を殺してしまう薬は開発できないんでしょうか。

 

忽那:実際に耐性菌のための治療する抗生物質もあります。

今は使用にかなり制限がかけられて、本当に耐性菌の感染症だと診断された場合に使う薬があるにはあるんですが、実際に耐性菌に対する抗生物質に対する耐性菌というのも出てきています。

本当にいたちごっこのような状況で、抗生物質を開発しても、その耐性菌が産まれて、そういうことを繰り返しているうちに、段々と抗生物質の開発が遅れてきていて、逆に耐性菌の方がどんどん増えてきて、今のところいたちごっこの中で、ばい菌の方がリードしているというような状況です。

 

キャスター:リードされちゃってる訳ですか。

それでこの春、盛んになってきた啓発活動になる訳ですけど、これは浸透しそうですか。

 

忽那:近年医療従事者の方でも、こうした問題に対する意識は高まってきていると感じていますので、医療従事者の中では、浸透してきていると思います。

あとは、患者さん、一般の方にも、こうした問題を共有していただくことが大事で、我々医療従事者が抗生物質を適切に使うことも大事なんですが、患者さん側から抗生物質を要求されることがあったりとか、あるいは我々が抗生物質を処方した場合に、患者さんが自己判断で本当は10日間飲まなければならない抗生物質を3日ぐらいで途中で症状が良くなったのでやめてしまったりとかですね、そういうこともありますし、そのやめてしまって取っておいた抗生物質を次に何か具合が悪くなった時に飲んでしまったりとか、そうした抗生物質の正しくない使い方を患者さん自身がされていることがありますので、そういったことをやめていただくだけでも耐性菌を減らすことに繋がると思いますので、そうした患者さん一般の方にも抗生物質を大事にしようということを知っていただく必要があると思います。

 

キャスター:抗生物質の適正な使用について、忽那さんはDUという言葉を使っていらっしゃいますけど、DUとはどういう意味でしょうか。

 

忽那:DUとは、「だいたいうんこになる」の頭文字を取ってDUなんです。

これは、第三世代セハロスポリンという種類の抗生物質があるんですが、この抗生物質は、飲んでも身体の中にあまり吸収されずに、身体の外に出て行くと、だいたいうんこになって出て行くというので、DUと名付けております。

 

キャスター:その薬は、抗生物質、抗菌薬な訳ですよね。

どのくらいの割合で使われているんですか。

 

忽那:飲み薬の抗生物質について、使用量の調査が行われているんですが、全体の25%くらいをこの第三世代セハロスポリンというものが占めているということがわかっています。

ですので、かなり大部分を占める抗生物質なんですが、多くの場合、例えば風邪にDUが使われたりとか、必ずしも正しくない状況で使われることもあるので、まずはそういう不適切な状況でのDUの処方をやめていこうということを、伝えていきたいと思います。

 

キャスター:私たちの方も、飲む抗生物質・抗菌薬がひょっとしたら、これはDUじゃないかということを疑うのは失礼な感じもしますけど、そういう視点を持つことは大事なんですね。

 

忽那:是非患者さん側からも、医師にどういう薬ですかというのは聞いていただくのは、非常にいいことだと思いますし、本当に抗生物質が必要な状況なんですかということを聞いていただくのも、医師にとっては必要なことだと思います。