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健康診断では見つかりにくい血糖値の異常(食後の血糖値にご用心)

NHKラジオ「NHKマイあさラジオ」6月12日放送

健康ライフ

九州大学大学院  医学研究院  教授  二宮利治

 

キャスター:健康診断で血糖値に問題ないと言われていても安心してはいけない場合もあるそうですね。

 

二宮:健康診断では空腹時の血糖値を測定しますけど、そこで問題なかったとしても、糖尿病の可能性が全く否定できるわけではないです。

普通は血糖値は正常ですけど、食事を取った後とかジュースを飲んだ後とかそういう時に急速に血糖値が上昇する方がいらっしゃいます。

こういう方も糖尿病ないしは糖尿病予備軍になりますので、またこういった方は逆に腎臓病になったり、脳梗塞心筋梗塞になったりするリスクも高いということで、気づかずに放っておくのはあまり良くないと思います。

 

キャスター:なぜ食後の数時間だけ血糖値が上がるということが起こるんでしょうか。

 

二宮:通常食事から摂取した糖分は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きで、筋肉の細胞や肝臓に取り込まれます。

すると、血液に残る糖分の量が適正に調整されて血糖値は一定に保たれるんですけど、生まれ持った体質とか生活習慣の乱れによって、細胞が糖を吸収する能力が低下する場合があります。

すると、どんなにインスリンが頑張っても、血液中の糖をうまく細胞に取り込むことができず、血糖値が急上昇するということが起きます。

またそこで、膵臓はさらに大量のインスリンを分泌して、なんとか糖を細胞に取り込ませて血糖値を正常に保とうとするということが起きます。

このようにして、食後数時間のうちに、急激に血糖値が上昇するということが生まれます。

 

キャスター:健康診断でも見つからない可能性もある糖尿病があるということですので、どのくらいの人が実際に糖尿病になっているのかなかなか把握できませんね。

 

二宮:そこで私たちは、正確な糖尿病の頻度を調べるために、いろんな研究をしています。

私たち九州大学大学院医学研究院では、1961年から、福岡市に隣接した久山町という場所で、住民の皆さんを対象に脳卒中や心疾患などの調査を行ってきています。

久山町の人口は約8400人なんですが、この人口分布や職業分布は、全国とほとんど同じで、隔たりがほとんどない平均的な土地ということで、調査をさせていただいています。

この研究で血糖値についていろいろ調べていますが、2002年の調査では、こんな結果が出ました。

糖尿病の方の割合は、男性で24%、女性で14%でした。

全国で行われている糖尿病の実態調査では、男性で12.8%、女性で6.5%でした。

 

キャスター:全国の調査と比べて男女共に久山町の方が糖尿病の人の率が高い、2倍近く高いですね。

これは何が原因だと考えられるんでしょうか。

 

二宮:おそらく、これは調査の違いだと思います。

全国調査の方では、ヘモグロビンA1Cというマーカーと糖尿病の病歴で調査をしています。

 

キャスター:ヘモグロビンA1Cとは、どういうものなんでしょうか。

 

二宮:ヘモグロビンA1Cというのは、いわゆる血糖値の状態を反映するマーカーと言われています。

つまり、血糖のコントロールが悪い方では、ヘモグロビンというタンパクに糖がいっぱい付着するんですが、そういった付着している割合を見て、どれくらい血糖値が悪かったか良かったかを判断するマーカーです。

あくまでもマーカーですので、正確な診断とはなりずらいと考えられています。

 

キャスター:一方の久山町ではどんな検査をなさったんでしょうか。

 

二宮:久山町では、いわゆる糖尿病の正確な診断と言われている75グラム糖負荷試験というのを行っています。

これは、まず空腹時の血糖値を測定します。

その後に75グラムの糖のソーダ水を飲んでいただいて、2時間後にもう一度血糖値を測って、その変化の割合まで考慮して糖尿病を診断するというものです。

こちらの方が、正確に糖尿病の診断ができるんですけど、2回採血をしないといけないということで経費がかかりますので、一般の健康診断や全国調査では取り入れるのは難しいと考えられています。

久山町の場合も、全国と同じような調査をすれば、糖尿病の頻度は、男性で約12%、女性で7%と、全国とほぼ同じ数字が出ています。

これが何を意味するかというと、もし全国で同じように糖負荷試験をやれば、久山町と同じくらいの方々が糖尿病と診断されるということになります。

言い換えれば、実際の糖尿病の方の半分くらいの方は、診断されていない状況があるかと思います。

自分の生活習慣を見て糖尿病が心配だと思われる方は、定期的に検診を受診して、早めに糖尿病が発症していないかを見ていく必要があるかと思います。

一方、もし機会があったら、病院を受診して、糖の負荷試験を行ってみることで、より早く見つけることができるかもしれないですね。

肥満の方、運動不足の方、高血圧や高脂血症といったものと糖尿病は合併しやすいですから、そういったものを持っている方、あるいは家族歴、ご両親が糖尿病のある方は糖尿病を発症するリスクが高いですので、そういう方も、お気をつけになられた方がいいと思います。