脳梗塞や心臓疾患への影響(食後の血糖値にご用心)
NHKラジオ「NHKマイあさラジオ」6月13日放送
健康ライフ
九州大学大学院 医学研究院 教授 二宮利治
キャスター:糖尿病の人は脳梗塞や心臓疾患になるリスクが高まるそうですね。
二宮:糖尿病は脳梗塞や心筋梗塞などの危険因子になっています。
福岡県久山町での調査では、糖尿病でない方に比べて糖尿病の方は、脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクは2倍から3倍になると言われています。
さらにこういう方々が、いわゆるメタボリックシンドロームといった肥満や血圧が高いといった状況が合併しますと、さらにそのリスクは相乗的に跳ね上がることがわかっています。
キャスター:空腹時の血糖値が正常でも、食事の後2時間の血糖値が急上昇する場合もあって、これもある値を超えると糖尿病であるというお話でした。
こうした食後の血糖値が高いだけの人も脳梗塞や心筋梗塞になるリスクは高まるんでしょうか。
二宮 : そういうふうに考えられています。
空腹時の血糖値の高い方と食後の血糖値の高い方、どちらが脳梗塞や心筋梗塞になりやすいかという明確なデータはあまりないんです。
海外ではおそらく空腹時血糖や食後血糖を同時に測る検査があまり行われてないというのもひとつの原因だと思います。
私たちが行っている久山町の調査のデータでは、食後の血糖値が高い方の方が脳梗塞や心筋梗塞になる方の割合が高いという結果も出ています。
食後の血糖値が高い方というのは、より脳卒中や心筋梗塞になることをお気を付けになった方がいいと思います。
キャスター:なぜ食後の血糖値が高い人の方が空腹時の血糖値が高い人より脳梗塞や心筋梗塞になる人の割合が増えるのか、どんなことが考えられますか。
二宮:ひとつの可能性としては、血糖値の急激な上昇と低下が繰り返されることによって、細胞から大量の活性酸素が産生されるということが考えられています。
この活性酸素というのが細胞を傷つけている有害物質になるんですが、細胞の壁が傷つきますと、それを修復しようとして集まった免疫細胞が傷ついた血管の内側に入り込んで壁を厚くしたり血管の内部を狭めたりすることで、いわゆる動脈硬化というのが起こってきます。
食後の血糖値の急上昇を繰り返しますと、血管のあちこちでこうした現象が起こってきて、動脈硬化が進行するということで、脳梗塞や心筋梗塞になるリスクが高まると考えられています。
キャスター:改めて空腹の時の血糖値だけではなくて、食後の血糖値の急上昇に気を付けなければいけないということですね。
二宮:食後の血糖値の急上昇は、空腹時の血糖値よりもより早い時期に発症してくることがわかっています。
そういうことから、早めに発見し早めに治療することで、その後のリスクを抑えられることが考えられています。
また、脳梗塞や心筋梗塞の発症を高める危険因子として、高血圧やメタボリックシンドローム、喫煙など様々な要因があります。
一方で糖尿病は、こうした危険因子と互いに相乗的に作用して、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高めるということが知られています。
そのため糖尿病に対処するためには、生活習慣などを改善していき、糖尿病のみならず他の危険因子も同様に改善していくことが必要で、その結果脳梗塞や心筋梗塞を防ぐことにつながっていくんじゃないかと思います。
ですから、食後の血糖値の管理をきっかけに、他の生活習慣を改善していくことが、様々な病気を防ぐ第一歩になる可能性があると考えられます。
キャスター:先生はいろんな患者さんを見ておられますけど、糖尿病の管理を徹底することをきっかけにして、他の病気もよくなるという実感があるんですね。
二宮:それはあきらかにあるとおもいます。
たとえば、糖尿病がわかったという段階で、ダイエットして痩せるようにするとか、運動することで血圧が下がっている方もよく拝見します。
また、脂質代謝異常もよくなるということも言われています。
またそれをきっかけに、タバコをやめる方もいらっしゃいますので、タバコをやめることで、心筋梗塞や脳卒中、ガンの予防にも大変重要だと言われています。
糖尿病がガンの危険因子だとも言われていますので、そういった意味で糖尿病の管理を徹底することによって、心筋梗塞のみならず他の疾患も予防できる可能性があると考えています。
キャスター:ご本人の健康への意識が変わってくるという部分もあるかもしれませんね。
二宮:それは非常に高いと思います。
結局健康になるかならないかというのは、ある程度ご自身の意識が非常に大事だと思っていますので、そういった意味でも、血糖値を測るということをきっかけにして、そういった意識が高まっていくことは大変有意義だと思います。