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都議選自民大敗 安倍首相改憲戦略の行方は  ニュース解説

NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」7月13日放送

ニュース解説  安達解説委員

 

キャスター:安倍総理大臣は、秋の臨時国会に、自民党憲法改正案を示したいというふうにしていますが、先週行われた東京都議会議員選挙での大敗が、今後の憲法論議に影響を与えるという見方が出始めています。

安倍総理なんですけど、今週の9日、訪問先のスウェーデン憲法改正をめぐって、2020年という目標を掲げたのは新しい日本の姿をしっかりと示す年にしたいと考えたからだと述べました。

これは、2020年に憲法改正・施行という方針を変えないということですか。

 

安達:都議選で大敗してもその方針は堅持するということなんですね。

安倍総理大臣はこれまでも、自民党総裁としての発言ということでしたけど、2020年の新憲法・改正憲法の施行を目指して、秋の臨時国会自民党案を示すという方針を示しているんですね。

この方針を基本的に堅持して、来月3日にも行います内閣改造人事・自民党党役員人事、ここで体制を整え直してこの課題に臨もうという考えのようですね。

 

キャスター:憲法改正論議、現状はどうなっているんですか。

 

安達:国会の議論と自民党の議論と分けて考えてみなすと、国会では衆参両院の憲法審査会ここで各党の議論が行われているんですね。

一時、安全保障法制のところで中断していましたけど、これが再開されまして、今の国と地方の関係ですとか、二院制、こうしたことをテーマに各党自由討議・参考人質疑などが行われています。

その一方で、今注目されているのは自民党内の議論なんです。

自民党憲法改正推進本部で、年内の改憲案取りまとめに向けて議論が続いていて、これは安倍総理大臣の意向に沿ったものだということです。

 

キャスター:発議が行われますと、国民投票ということになります。

 

安達:発議までの日程は、安倍総理大臣の発言から推察していくと、はっきりいっているのは秋の臨時国会自民党案を示すと。

そうしますと、来年2019年の通常国会あるいは臨時国会、そこで本格的な議論を行なった上で発議するということになると思います。

そうしますと、国民投票の運動期間は60日から180日ですので、早ければ来年の末、遅くても再来年の半ばぐらいまでに国民投票が行われる可能性があるということになります。

2020年の東京オリンピックパラリンピックが開催されるまでに改正憲法を施行したいということなんですけど、ただ来年夏から秋にかけて自民党の総裁選挙ですとか、それから年末には衆議院の任期満了になりますので、これに勝つことが前提になるわけです。

 

キャスター:何を見直すかということなんですけど、安倍総理憲法改正の項目として、かつて自衛隊の明記それから高等教育の無償化などを挙げていますが、これが議論のポイントとなるわけですか。

 

安達:そういうことだと思います。

緊急事態にどうするかとか国と地方の関係などもありますけど、この二つが大きなポイントになることは間違いないと思います。

まず自衛隊の明記ですけど、安倍総理憲法9条戦争放棄を定めました第1項、それから戦力の不保持ですとか交戦権の否認を盛り込んだ第2項、これを残したままで3項をつけるのか新しい条項をつけるのかわかりませんけど、自衛隊を明記するという考え方なんですが、しかしこれが実現するまでには大きなハードルがいくつもあると思います。

大きく三つあると思うんですけど、ひとつは自民党内の議論の取りまとめです。

自民党は野党時代の2012年に憲法改正草案をまとめていまして、ここでは9条を改正して国防軍を設置するとしているんですけど、今回の総理の自衛隊明記の方針とこの草案との整合性はどうなんだという異論があります。

たとえば、石破前地方創生担当大臣は、交戦権を有すること、これは明らかにしなければ憲法改正議論に何の意味もないのではないかということを言っていまして、草案を元に9条の改正案を議論すべきだとしています。

また、先週の東京都議会議員選挙で自民党は過去最低の23議席に惨敗しましたよね。

ですから、党内から自民党案を取りまとめるのは拙速にはやらないで、まず公明党などとの話し合いを優先すべきじゃないかという意見も出ています。

 

キャスター:二つ目のハードルが公明党ですか。

 

安達:そうですね。

ここが一番のハードルじゃないかと思っているんですが、憲法問題をめぐって公明党は加憲の立場です。

加憲とはわかりにくいかもしれませんが、現行憲法は現行憲法として評価しまして、それに足りない部分を付け足していくという方針なんです。

ですから、安倍総理が9条を残したままで自衛隊を明記するという考え方は、その公明党に配慮したものではないかという意見はあるにはあるんですが、公明党の山口代表は、こんなことを述べています。

「政権がやることはアベノミクスの推進だとか、経済の再生だ」

憲法問題は政権の枠外の問題ではないか」

こう述べて、安倍総理を牽制しています。

やはり公明党内には憲法9条を守ることが立党の精神だという意見が強いので、ここをまとめていくのはなかなか難しいですし、都議選でも公明党都民ファーストの会選挙協力をして自民党とは袂を別つようなかたちになりました。

ですから、憲法問題でも必ずしも自民党に引きずられるのは得策ではないのではないかという声も強くなっています。

 

キャスター:三つ目は何ですか。

 

安達:野党第1党の民進党の動きです。

民進党共産党など野党4党で次の衆議院選挙に向けて選挙協力を行うことにしているんですけど、憲法問題についても安倍政権の下での憲法改正には反対していくということで合意しています。

公明党内には、民進党の賛成を得た上で改憲の発議をすべきだという意見が強くありまして、そうしますと民進党の理解を得られないままでは公明党が乗ってこないという見方もあるんですね。

 

キャスター:そうしますと民進党の理解を得なくても発議を行うという選択肢もあるんですか。

 

安達:そういうことを言う自民党の議員もいます。

というのは、今国会は衆参ともに与党と改憲勢力で発議に必要な3分の2の勢力を持っていますので、形の上では民進党の協力は必要ないんです。

ただ、国民投票過半数の賛成が必要ですので、そうすると、最終的に国民投票にかける前に国会での大多数での発議でかけないと否決される可能性もあるのではないかという懸念もありまして、やはり幅広く意見集約をすべきではないかという意見もあります。

 

キャスター:もうひとつの議論のポイントは高等教育の無償化ですよね。

 これはどういう理由でぎろんしてるんですか。

 

安達:自民党内にはまずこちらを優先すべきではないかという意見があります。

というのは、野党のうち維新の会が、改憲案の一つとしてこれを提起していまして、これは野党の理解も得やすい。

民進党内にもこれに賛同する意見もあります。

ただ有識者に話を聞いてみますと、何も憲法改正の必要はないのではないかと、高等教育の無償化をするのに、法整備とか財源を確保すれば十分できるのではないかという意見もあります。

 

キャスター:なかなかこの先も曲折がありそうですね。

 

安達:NHKが都議選の後に行いました世論調査を見てみますと、安倍総理大臣が秋の臨時国会自民党の改正案を提出する考えを示したことを評価すると答えた人が36%なのに対して、評価しないと答えた人が52%なんです。

過半数に達しているんです。

ですから、国民の中には期限を区切った形での憲法論議、これに戸惑いとか反発の声があることは確かだと思います。

憲法改正の発議権は国会にありますので、国会議員はこれからいろんな議論が行われることになると思うんですけど、こういう国民の声に耳を傾けることが今は必要なのかなと感じます。