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中国劉暁波氏死去の波紋 

NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」7月14日放送

ニュース解説 加藤解説委員

 

キャスター:中国の民主活動家でノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏ががんのため服役中の当局の監視下で亡くなり、中国内外に波紋が広がっています。

まず、劉暁波氏とは、どんな人物ですか。

 

加藤:私はこの劉暁波氏と初めて会ったのは、30年近く前なんですけど、天安門広場で彼が座り込みをしてハンガーストライキの先頭になっていた時に会いました。

その時から彼は、中国の民主化運動の精神的な支柱になって来たと思うんですけど、特に2008年に零八憲章というものを起草しまして、これは中国が今の共産党の独裁体制ではなくて、より民主的な国家に生まれ変わるようにというかたちで、憲法のようなものを作って、それをネットで公開したんですけど、これが1万人以上の賛同を集めたということで、当局が大変警戒して、そして劉さんに国家政権転覆扇動罪という罪を着せて、刑務所に押し込んだと、その間にノーベル平和賞を受賞したと、そういう人です。

 

キャスター:天安門事件では、大変たくさんの人が民主化運動にかかわったんですけど、劉氏一人がなぜノーベル平和賞を受賞したんでしょうか。

 

加藤:それは、彼が徹底した非暴力を貫いたということです。

中国の民主化を強く要求するのだけど、絶対に暴力でやってはいけないということを貫いたということだと思います。

それは、天安門事件の時にも、広場に集まっている学生たちが武器を持っていたんですね。

こういうものを彼が見つけて、全部取り上げて壊したんです。

「私たちは民主化を要求するけれど、絶対に暴力によってやってはいけない」

その結果、天安門事件というのは、多くの犠牲者が出たんですけど、広場ではほとんど犠牲者がいない、むしろ、無血開城に近いかたちで広場を明け渡すかたちになったんですが、そういう意味からも、彼の非暴力主義というのは、広場における銃撃戦というものを避けたという大きな功績もあって、そこがノーベル平和賞でも評価されたと思います。

 

キャスター:その劉暁波氏なんですが、零八憲章を起草したということで大変有名なんですが、この零八憲章というのは、どういうものだったんですか。

 

加藤:零八というのは2008年に作られたからそういううんですけど、これは中国が今は中国共産党の独裁体制ですね。

これをやめて、日本やアメリカのようにいろんな政党を作って、与党・野党でやっていく、政党政治にしましょう。

あるいは、三権分立ですね。

どこか一つが強いのではなく、お互いに監視をするような、そういう権力のシステムを作ろうとか。

あとは、言論の自由とか、結社の自由、信仰の自由などですね。

私たちにとっては当たり前のような人権を、もっと尊重しようということを強く呼びかけたものなんですけど、これがものすごく中国の人たちに賛同されてしまったがために、危険文書にされてしまったというものなんです。

 

キャスター:その劉氏なんですが、服役中の劉暁波氏の体調が刑務所で悪化したのが今年5月のことでしたね。

 

加藤:それをしばらく、当局は隠してたんですけど、結局インターネットなどを通じて支持者の声などが伝わって、公開せざるを得なくなった。

最期には、中国もその情報を公開して、アメリカとドイツの医師を呼んで診察を受けさせるということまでしたわけです。

でも、亡くなったことで、大きな衝撃が世界に走っていると思います。

 

キャスター:死を悼む声が世界各地から寄せられていますね。

 

加藤:自由主義陣営では、劉暁波氏はすごく有名ですから、彼が亡くなったことに対しては、アメリカとかドイツ・フランス・イギリスなどそれぞれみんな、彼の死を悼むというような政府の責任者の談話が出ています。

 

キャスター:中国政府の対応なんですが、病状が悪化する中で、その影響が少しでも自らに及ばないように、巧みな情報操作をしてきたように見えますね。

 

加藤:それだけ中国当局は動揺したんだと思うんですけど、最初は完全に封鎖するということで、情報は出さないということで、テレビ・新聞などのマスコミも一切報じさせないようにしたんですが、結局情報は洩れますね。

そうすると今度は、タカ派の新聞に劉暁波さんのことを攻撃させるような記事を載せたり、一方で情報を隠ぺいしてるんじゃないかという声が国民の中で高まると、病院とか司法当局のホームページにだけは情報を載せたりですね。

それから海外で、中国は非人道的な扱いをしたんじゃないかという声が高まると、劉暁波氏を丁寧に看護しているような映像を作って、これを国内には見せないで、国外でしか見れないサイトに貼りつけて、中国はこんなに手厚く扱っていますよというアピールをするような、そういう印象操作みたいなことを当局がやると。

それだけ中国当局も対応を迫られたということだと思います。

 

キャスター:そういうふうに中国政府が、どうしてここまで劉氏の病状に敏感になっていたんですか。

 

加藤:劉氏の考え方というのは全うであって、いま中国共産党がやっているやり方は強引なわけで、当然中国の人たちは物は言いませんが、劉さんを支持している人が多いんだと思います。

それに加えまして、いま中国というのは、政治の季節なんですね。

この後、中国の重要な政策とか人事について、引退した長老と現役の指導者が話し合って、それを受けて秋には5年に1回の党大会を開きまして、習近平さんが2期目を迎えるんですけど、そこに向けて人事が決まる。

そうすると、習近平さんにとって、自分に有利な人が入るのか、それとも反対するような人たちが入るのか、この辺が大きな駆け引きの材料になってるんです。

まさにその時に、劉暁波さんの死ということがあったために、かなり神経質になっているということではないかと思います。