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性暴力の被害者を本当に守るために 社会の見方・私の視点

NHKラジオ「NHKマイあさラジオ」7月13日放送

社会の見方・私の視点

性被害者当事者団体Sping代表  山本潤

 

キャスター:性犯罪の厳罰化を盛り込んだ改正刑法が施行されました。

山本さんは、本当に性暴力の被害を防いだりですとか、被害者を救済していったりするためには、法律の改正だけでは不十分だと訴えていらっしゃいますね。

 

山本:今回の法律については、一定の全身をした点もあると評価していますけど、たとえば13歳以上の子供の被害者に対しては、これまでは殴られたり脅されたりしない限り、加害者を罪に問うということが難しかったということがあります。

前進した点としては、親などの保護する立場にある人は、18歳未満の子供に性加害をした場合、そうした条件がなくても処罰ができるようになったと思います。

 

キャスター:ただ、その法律を整備しただけでは不十分だということなんですね。

 

山本:性犯罪を防いで、被害者を救うためには、やはり教育も非常に重要だと考えます。

被害に合うかもしれない立場の本人への教育、あるいは周りの身近な人たちへの教育、そして支援にあたる専門家への教育を進める必要があると考えます。

 

キャスター:ひとつひとつ伺っていきたいと思うんですけど、まず本人への教育ですね。

これはどういうことなんでしょうか。

 

山本:たとえば子供の場合、身体を触られても、これが性暴力であり、自分は被害を受けているんだというふうに認識できないということが多いと思います。

そうすると、被害が表に出てきずらいということがあります。

私自身、13歳の時から父に7年間の性被害を受けていましたが、やはり何をされているのかが初めはとても理解できませんでした。

すごく嫌なことで、不快でやめて欲しいけれども、それが性加害であるとはわからなかったということがあります。

子供に対する性犯罪のうち発見されたのは、75%が偶然に発見されたものだと言われています。

だからこそ、自分自身が被害に気づくためには、性暴力とか性行動のルールについて、早い段階から教育する必要があるのではないかと思っています。

たとえば、水着で隠れる部分はプライベートパーツなので、それを許可なく誰かに触られたりとか、見られたりとか、写真に撮られたら、それは「NO」と言って、そこから立ち去って逃げて、身近な信頼できる大人に伝えるようにしましょうということを保育園とか小学校で教えるということもすごく大事だと思います。

あと、予防という点では、今はすごくネットが発達していますので、性的な写真を撮ったりとか見せるように求められても、それを送ったりしてはいけないというような、性行動に対するルールというのも当たり前のこととして共有する必要があるのではないかと思います。

 

キャスター:次に、身近な周囲にいる人々への教育ということは、どういうことですか。

 

山本:性犯罪・性暴力って、すごく偏見や誤解が多いと思うんですね。

たとえば、このラジオを聴いている方の中にも、性暴力は見知らぬ相手に夜道でいきなり襲われるものというイメージを持っている方もいるかもしれません。

これは実は違っていて、実際には74.4%の人が、面識のある顔見知りの人から被害を受けているということがあります。

そいう場合、自分の地位とか関係性を利用して加害者をするということが多いので、呼び出しやすい時間帯とか場所とかを狙って計画的にしますので、本人がいくら気をつけていても、とても防ぐのが難しい場合があります。

あろよくある偏見で、挑発的な服装をしているから被害に合うということが言われたりしますけど、加害者への調査では、実際には大人しくて訴えない、そういう地味な服装の人を狙うとか、そういう理由で相手を選んでいることが明らかになっています。

被害を受けた人に落ち度があるとか、あなたも悪かったんじゃないのとか、そういう社会に残っている理解されていない言動というのを、変えていく必要があると思っていて、やはりそういうふうに周りが変わらないと被害を受けた人が訴えられないので、訴えることができないと加害をした人がまた同じ事を続けてしまうということがあると思います。

 

キャスター:三つ目です、専門家への教育。

これは、被害者を支援する立場の人たちへの教育ですね。

 

山本:私自身、性暴力被害者支援看護師、SANEと言いますけど、そのSANEの研修を受けて、行政のチームに入っています。

SANEの役割は、被害を受けた人達が病院に来たらどうすればいいのかということも、専門的な知識に基づいて、被害者のケアと証拠採集を行うことができるというのが役割になります。

診察自体がとても苦痛なものなので、全ての検査項目とかこれから何をするのかとか、ひとつひとつ説明をして、被害を受けた人にOKかそうでないのか同意を得るというところから始まります。

どうして同意を得る必要があるのかというと、被害を受けた人は、自分が望んでいない性的な行為を強制されたわけですね。

そのことによって、自分自身の選択する権利というのを奪われているわけです。

なので、そのようにひとつひとつ選択肢を示して、それに同意をして貰う過程を通じて、自分自身でものを決める権利があるということを思い出して貰う、そういうことも支援につながるという配慮をしながら診察をするということをしています。

 

キャスター:本当にお話を伺っていますと、性暴力を防いで、被害者を守るためには、様々なレベルでの教育が必要なんだと思うんですけど、教育の強化を進めていくためには費用もかかりますよね。

財政の問題もある中で、社会全体としてはどう考えていくべきだとお考えですか。

 

山本:性暴力の根絶というのは、緊急な優先される必要がある課題だと思います。

暴力被害が放置されてしまうということは、長期的には社会的な損失につながっているという視点を持つ必要があると思います。

コストのことがあって一人の被害を受けることによって、その人がまずは医療費が必要ですよね。

4割から6割の人がPTSDになると言われるように、精神科疾患にかかりやすいので精神科的な医療費もそこに伴って発生していく。

また、そのような精神的な症状やダメージによって、学校に行けなくなる、そして働けなくなるということになれば、税金を支払わなくなるとか、自立して働くことが困難になって、生活保護を受ける必要が出てくるとか、そういうことになると、当然社会的なコストがかかってくるわけですね。

海外は性暴力被害に積極的に取り組んでいますけど、次の被害者を出さないようにしていくために、被害を受けた人をきちんとケアして、支援していくことが非常に重要だと考えられているので、多額の予算を性犯罪の防止と被害者のケアに割く方向に向かっていると思います。

日本でも、今の体制とか財政規模の中で、あれができるとかこれはできないと考えるのではなくて、被害を受けた弱い立場の人の人権を守ることが、長期的には社会的な利益につながるということを考えて、より多くのお金とか人員を当てるための議論が必要ではないかなと思います。