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イラク、モスルの現状は? ワールドリポート

7月24日放送「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:3年に渡る過激派組織ISの支配から今月上旬解放されたイラクの都市モスルの現状について、カイロ支局の土屋記者に聞きます。

このモスル、元々は200万人の住民が暮らしていたイラク第二の都市ですが、今の状況はどうなっていますか。

 

土屋:モスルの街は中心部をメソポタミア文明で知られるチグリス川が貫いているんですが、この川を挟んで東側と西側で状況が大きく異なります。

半年前にイラク軍が奪還した東部には、だいぶ住民が戻り、復興が進みつつあります。

一方、ISが最後まで抵当を続けた旧市街を含む西部の復興はまだこれからで、住民の多くが今もキャンプなどでの避難生活を強いられています。

住民が戻るための条件となるのが、水道や電気など戦闘で破壊されたインフラの復旧なんですが、ISが至る所に爆弾を仕掛けたため、まずはこれを取り除かないと先には進めないんです。

このため住民の中には、自宅の様子をチェックしたり、必要なものを回収するために一旦戻る人はいても、そこで生活を再開できる人はまだ多くありません。

 

キャスター:インフラの他にはどんな課題がありますか。

 

土屋:大きな課題としては、治安上の不安言い換えればISの残党に対する恐怖があります。

と言いますのも、モスルでは3年前、ISに制圧された時、ISに加わったり、協力した人が多くいるんです。

住民の多くは、イラクでは少数派のイスラムスンニー派で、多数派のシーア派が主導する政権のもと、非常に抑圧されていたため、同じスンニー派のISがそうした不満につけ込み、協力者を増やしていきました。

そしてその協力者を使い、ISに少しでも従わない者を密告させ、公開処刑にするなどして、恐怖による支配を確立していったんです。

このため、この恐怖を植え付けられている住民にとっては、軍事的にISが駆逐された今でも、どこに協力者が潜んでいるかわからず、隣の人も信じることができない、いわば疑心暗鬼の状態なんです。

イラクの人たちは誰もが家族や友人を失っており、仮に街が復興したとしても、心の復興は容易ではありません。

 

キャスター:つくづくISが残した傷跡は深いなと感じますね。

イラク政府には、今後どんな取り組みが求められますか。

 

土屋:街の復興や市民の帰還と並行して力を入れる必要があるのが、暴力の連鎖を止めることです。

ISに虐げられてきた人たちは、ISへの恐怖だけでなく恨みも募らせています。

このため、今度はISとの関わりが疑われる人に対する報復が懸念されるんです。

実際、モスルの奪還作戦に伴い、兵士や警察が拘束したISの関係者に暴力を振るったり、処刑したりする様子を撮影したとされる映像がインターネット上に投稿され、人権団体が懸念を示しています。

一口にISの戦闘員や協力者と言っても、犯罪への関与の程度は様々で、脅されて止むを得ず加わった人もいるのが実際です。

ISの罪そのものはもちろん、しっかり裁かれなければならず、そのためにも裁判などの法的な手続きを経る必要があります。

もうひとつ心配されるのが、ISの戦闘員の妻や子供の扱いです。

現地ではこうした家族にも怒りの矛先が向き、脅迫文書まで出回ったりしていますが、自分の責任ではない罪まで負わされることがあってはなりません。

こうした家族を保護できなければ、新たな恨みを生み、復讐の連鎖に陥りかねず、国際社会としてもイラク政府の対応を注視し、サポートしていく必要があると思います。