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発足から半年のトランプ政権、日本の役割は? 社会の見方・私の視点

7月19日放送「NHKマイあさラジオ」

解説:渡辺靖慶應義塾大学教授)

 

キャスター:トランプ政権発足から6ヶ月が経ちます。

トランプ大統領ですけど、支持率が低いですね。

 

渡辺:先日発表された最新の世論調査では、支持率が36%、不支持率が58%ということで、大統領就任から6ヶ月の時点での支持率としては、戦後歴代大統領で最も低い数字になっています。

大体半年経った時点では6割を超えるのがこれまでのパターンですので、それに比べると、トランプ大統領は20%以上も低いということになりますね。

特に、4月と比べても6%ぐらい減ってるということで、ロシアとの共謀疑惑ですとか、あるいはオバマケアの代替案が不人気だとかいう要素が下落に加担してるのかなと思います。

もうひとつ大切なのは、確かに支持率自体は低いんですけど、共和党支持者の間では未だに8割以上の高さを誇ってるんですね。

特に、選挙でトランプ氏を支持した熱烈なファンの間では支持率が今でも9割ありまして、そのあたりの人たちを手放さなければ今後も大丈夫と目論んでるんじゃないかと思います。

 

キャスター:トランプ政権の成果というのはかなり上がってると考えていますか。

 

渡辺:言っていたほどではないですね。

アメリカというのは三権分立ですので、裁判所が認めなかったり、議会が認めなかったりということがあって、オバマケアも選挙期間中から廃止して代替案を用意すると言ってたんですけど、実際は上院での可決の見込みが当面なくなって、かなり厳しい政局を迎えていると思います。

 

キャスター:FRB連邦準備制度理事会)のイエレン議長は、トランプが掲げる3%の成長は極めて困難というコメントも先週出しましたね。

 

渡辺:実際は、1月から3月までの上四半期を見ても1.4%の伸び率ということで、このままだと3%に届きそうにないと。

そうなると、オバマケアの代替案もうまくいかないとなると、それを見越して法人税の引き下げですとか、大型のインフラ投資の財源に当てようとしてたはずなんですけど、それもできなくなるということになると、さらに景気回復という面に関してはブレーキを踏んでしまいかねないということだと思います。

 

キャスター:加えて大統領選挙期間中のロシアとの共謀に関してもニュースが流れまして、その立場も危ういんじゃないかという情報も流れてますけど。

 

渡辺:選挙対策のためにロシアと共謀していた、つまり裏取引をしていた、あるいはFBIの捜査を妨害しているという疑惑、いわゆるロシアゲートというのが足を引っ張っている感じで、この経済とスキャンダルというのが今後さらに足を引っ張って、支持者の間でもトランプ離れを引き越してしまう可能性もあると思います。

 

キャスター:今トランプ政権というのは一枚岩になっているのですか。

 

渡辺:そんなことはないですね。

3つの派閥に分かれていると言われていまして、ひとつは娘のイヴァンカさんとか娘婿のクシュナーさんというような親族の人たちです。

それから、共和党の議会と通じた共和党系の人脈ですね。

それと、今回のトランプ現象を支えた白人の労働者層を中心とした反エスタブリッシュメントと言われてるような人たち、特にスティーブ・バノン大統領顧問を中心とした勢力の人たち。

この3つくらいに分かれていると言われています。

この3つの派閥が、それぞれ人事などで足を引っ張り合ってて、その結果今でも政府の高官ポストのうちの5%くらいしか承認されていない、しかも8割以上が指名すらされていないという状況なんです。

 ですから、これはホワイトハウスの中の人間関係の対立が政権運営に直接的に影響を及ぼしてるということだと思います。

 

キャスター:アメリカの外交政策についてはどうご覧になってますでしょう。

 

渡辺:先日ピューリサーチセンターというところが、世界でのトランプ政権に対する評価を発表したんですけど、それによるとイスラエルとロシア以外はことごとくオバマ大統領の頃と比べるとアメリカに対する好感度が劇的に落ちてるんですね。

ヨーロッパや日本などでは8割ぐらいあったアメリカへの好感度が4分の1ぐらいに下がってるということですから、アメリカの基本的な信頼度という点でも、相当マイナスのダメージがあると思います。

そうして中で、大きな政策課題例えば北朝鮮問題なども、人事的な面で陣容が固まっていないということもあって、表向きにはずいぶん強気のポーズを崩してないんですけど、実際どういう政策をとっていけばいいのか手詰まり感があるということだと思います。

 

キャスター:トランプ大統領がとった政策で、これは後々尾をひくなというのはどんなことがありますか。

 

渡辺:大きなところでは、TPPから離脱をしたとかですね、あるいは気候変動に関するパリ協定から離脱を表明したということというのは、とても大きいと思います。

と申しますのは、アメリカというのは自由貿易ですとかあるいは多国間の枠組み・ルール作りという点で世界を牽引してきて、第二次世界大戦後の世界秩序を作ってきたという、そこがアメリカの国益でもあったわけですけど、そうしたことから身を引こうとしてるというか孤立主義的な傾向が目立つ、それがアメリカの国益も損ないつつあるのではないかという印象を受けています。

 

キャスター:ではその上で、そうしたアメリカに日本はどう向き合っていけばいいでしょう。

 

渡辺:日本としては安全保障に関してアメリカに依存してる面もあるので、それほど選択肢が多いわけではないと思うんですけど、一方ではアメリカが世界から孤立しないように、アメリカが自由主義に基づく世界秩序から離脱しないように、いろんな形で圧力を加えていく、例えばTPP11というのが行われていますけど、そういった自由貿易に関する枠組み作りですとか、あるいは先日EUとの間で経済連携協定(EPA)が締結されましたけど、そういったものを通して、このままだとアメリカ抜きで国際的なルールが作られてしまうよと、アメリカ企業がそれではまずいということでトランプ政権に対してなんとかしてくれと圧力をかけていくという形に持っていくのが望ましいのではないかと思います。

 

キャスター:渡辺さんは日本のソフトの力を発揮させて世界のイニシアチブを取るべきだということをお話しされてますけど、そのソフトの力をこの場合発揮できますでしょうか。

 

渡辺:日米の間で培ってきた人的な蓄積というのがありますので、それをいかに活用していくかということだと思います。

その意味では、来月になると思いますけど、ハガティー氏が駐日大使で着任されることになっています。

ハガティー氏はビジネスマンとして日本で3年間の駐在経験があって、日本語も堪能ということですので、まさにこういった各界の人脈をフル活動して、日米の関係が壊れないようにしていくことが重要かと思います。