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EPA大枠合意に対するヨーロッパの反応 ワールドリポート

7月24日放送「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:今月、日本とEU(ヨーロッパ連合)が大枠で合意したEPA(経済連携協定)のヨーロッパでの反応について、ヨーロッパ総局の小島記者に聞きます。

今回のEPAの大枠合意はヨーロッパではどのように受け止められているんでしょうか。

 

小島:日本の市場にワインやチーズを輸出している関係者からは期待の声が聞かれました。

このチーズは、今回の交渉の最大の争点のひとつだったんです。

EU側は30%近い関税がかかっているカマンベールやモッツァレラといった、いわゆるソフトチーズも含めすべてのチーズの関税の撤廃に強くこだわっていました。

これに対し、日本側は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)でもソフトチーズの関税は撤廃していないなどとして、難色を示していました。

しかし、最終的にソフトチーズについても輸入量の上限を新たに設ける代わりに関税を15年後に撤廃することになりました。

取材したフランスのカマンベールの生産者は、EPAをきっかけに輸出量を増やしていきたいと意欲を示していました。

 

キャスター:EU側がチーズにこだわってきた理由には何があるんでしょうか。

 

小島:チーズの原料となる牛乳にその理由があったんです。

EUは、一昨年長年続けてきた牛乳の生産量を調整して価格を維持する制度を廃止しました。

この制度がなくなったことで、EU域内の牛乳は、供給過剰になりまして、価格が大幅に下がりました。

酪農家は厳しい状況に置かれ、各地で激しい抗議活動が起きました。

こうした不満を和らげるためにも、チーズの輸出増加につながる関税撤廃にこだわった側面があります。

 

キャスター:チーズ以外では何か注目する品目はありますか。

 

小島:ワインです。

ワインは、協定が発効すれば、即時関税が撤廃することになりました。

750ミリリットル1本あたり最大で100円程度かかっている関税がなくなることになります。

ワインは価格帯が様々なんですけど、1000円から3000円程度のワインを輸出しているフランスのメーカーは、EPAが日本の市場で自分たちの商品価値を高めるチャンスになると話していました。

関税がなくなる分、ワインの価格を下げるのではなくて、ボトルにワインのちょっとした説明を付け足すといったPRの費用にあてたいとしています。

日本の消費者に自分たちのワインの特徴や歴史と伝統を理解してもらうのが狙いです。

今日本の市場では、低価格のチリ産のワインなどが急速に存在感を高めています。

こうしたワインに、価格ではなくブランド力で対抗する戦略と言えそうです。

 

キャスター:協定の発効はいつ頃になりそうでしょうか。

 

小島:EU側は再来年の発効を目指したいといっています。

今後の最大の課題は、承認手続きです。

正式な発効には、EU加盟国すべての議会の承認が必要です。

実は3年前に交渉を終えたEUとカナダの自由貿易協定は、1部の加盟国の議会で反対の声が上がったことなどから、未だに正式に発効していないんです。

今回のEPA大枠合意のニュース、実はこちらでは日本と比べてあまり大きく報じられていません。

市民のほとんどはよく知らないというのが実情です。

世界的に保護主義の動きが広がる中、ヨーロッパでも自由貿易に懐疑的な主張は少なくありません。

EUにとっては今後、加盟国や市民にこの大枠合意の内容や必要性を説明し、理解を得られるかが焦点となります。