ニュース解説 国・沖縄県 再び法廷闘争へ
7月24日放送「先読み!夕方ニュース」(NHKラジオ)
キャスター:国が進めるアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設工事について、沖縄県は、那覇地方裁判所に差し止めを求めて提訴しました。
政府と沖縄の対立は、再び法廷に持ち込まれることになりました。
基地問題担当の西川解説委員に聞きます。
この普天間基地の辺野古移設をめぐる裁判、国と沖縄県の裁判ですが、去年12月に最高裁で県の敗訴が確定したという経緯があるわけですけど、今回の訴訟はどういうものなのかからお願いします。
西川:最高裁で沖縄県の敗訴が確定した訴訟というのは、翁長知事が普天間基地の移設先とされる辺野古沖の埋め立て承認を取り消したのは違法だとして国が県を訴えたものだったんですね。
今回は逆に、県側が国を訴えたものです。
埋め立てに必要な海底の岩礁を壊す県の許可の期限が今年3月で切れているのに国が許可を申請しないまま工事を進めているとして工事の差し止めを求めています。
埋め立て作業では、サンゴ礁など海底の環境が大幅に変わることになり、漁業に影響が出るため、知事の許可を得ることが県の漁業調整規則で定められています。
県は再三国の沖縄防衛局に許可を得るよう求める行政指導を行なってきました。
しかし、国がこれに応じないまま埋め立て工事に着手し、工事を進めています。
県は工事の差し止めと共に裁判で決着が着くまでの間工事を止めるよう求める仮処分の申し立ても行いました。
これに対し国側は、県が求める岩礁を壊す許可そのものが必要ないという立場です。
地元の漁協が、漁業権を放棄したためというのがその理由でして、県側の主張とは真っ向から対立しています。
キャスター:その工事なんですが、どこまで進んでるという状況なんですか。
西川:国が辺野古の埋め立て区域の外側を囲う護岸工事に着手したのは今年4月25日のことでした。
それから3ヶ月になるんですけど、護岸づくりは大量の石材を海に投入するなどして着々と進められ、護岸は海上およそ100メートルまで伸びました。
先月の末からは、護岸の根元の部分に1個の重さが20トンある波消しブロックを設置する作業が行われています。
さらに国は、埋め立て予定地と別の護岸工事に向けて資材や機材を運ぶための搬入路の整備も始めるなど、護岸の建設を加速させています。
県側に裁判を見据えた動きがある中で、こうした動きを進めることには、移設に反対する人たちから既成事実化を進め諦めを狙っているとか、強引なやり方だなどと抗議の声が上がっています。
キャスター:翁長知事にとりましては、すでに埋め立て承認の取り消しをめぐる裁判で敗訴してるわけですし、国も方針を変える立場は見られませんけど、まさに正念場ということが言えるんでしょうね。
西川:翁長知事にも事態の解決に向けた妙案があるわけではないんですね。
来年1月には、辺野古を抱える名護市の市長選挙があり、秋には翁長知事自身の選挙も控えています。
今年に入って行われた宮古島市・浦添市・うるま市の沖縄県の3つの市長選挙ではいずれも翁長知事が支援した候補が敗れているほか、今月投票が行われた翁長知事自身がかつて市長を務め、お膝元である那覇市の市議会議員選挙で翁長知事を支持する勢力が議席を減らしていまして、知事の求心力の低下が指摘されています。
キャスター:そうしますと今回の裁判で負けるようなことになりますと、そうした状況にさらに拍車がかかるということになりかねませんね。
西川:確かにそういう意見もありますね。
先月12日には、生涯沖縄の基地問題を訴え続けた太田元知事が92歳で亡くなりました。
普天間基地の返還に日米両政府が合意したのは太田県政時代の1996年のことです。
その後返還の条件として、辺野古移設が盛り込まれたことから、太田元知事は最終的に県内移設は認められないという考えを示し続けましたけど、時の政権がパイプを閉ざすということはなかったと言います。
沖縄に寄り添い、県民が納得できる対応がないと思われたままでいいのか、対立だけでなく政治対話に向けた協議と誠実な対応を国は求められているように思います。