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迷走する脱・時間給

8月1日放送  「先読み!夕方ニュース」(NHKラジオ)

ニュース解説:竹田解説委員

 

キャスター:年収が高い専門職を労働時間規制から外す脱・労働時間規制について、政府は秋の臨時国会での成立を目指しています。

この法案の審議の行方について竹田解説委員に聞きます。

まずこの脱・労働時間規制というのはどういったものなんですか。

 

竹田:これは正式には、高度プロフェッショナル制度と呼ばれるものです。

アメリカで実施されているホワイトカラー・エグゼンプションという制度が元になっているんです。

具体的に言いますと、一定以上の年収がある専門職を労働時間の規制から外す、具体的には年収は1075万円以上、これは平均給与の3倍以上を上回る賃金ということになります。

職種は、種組むの範囲が明確で、高度な専門知識が必要とする仕事、金融ディーラー、コンサルタント、研究開発職などが想定されています。

どれぐらいこの対象の人がいるのかというと、年収1000万円以上の人は全体の3%程度その大半は管理職ですので、一般職で対象となると1%程度と見られています。

 

キャスター:そうした人たちを残業代の支払い対象から外すというわけですけど、なぜ政府はそういった制度の導入を急いでいるんでしょうか。

 

竹田:経団連を中心にする経済界の主張はこうですね、「人口が減少し働く人が減る以上、一人一人がもっと生産性を上げないと、経済水準が維持できない。そのためには、働いた時間の長さではなく、いつどこで働こうが仕事の結果・成果で評価される働き方が重要だ」というものです。

一方、連合側はこれに対して、時間規制の縛りがなくなれば、長時間労働の歯止めがなくなる。

結局いくらでも働かせることが可能になる。

その上残業代もゼロになる。

こうしてはじめは少しの部分で限定していても、さらに広がることが懸念される。

ということで反対してきたわけです。

この制度を導入する法案は、こうしたことから国会に提出されたまま2年余り一度も審議されず、たなざらしになっています。

 

キャスター:政府・経済界は導入を急いでいて、労働界・組合側はそれに反対しているというわけなんですけど、これだけ対立するというのは、どこに問題があるんでしょうか。

 

竹田:まず法案では、この制度が適用されますと、労働基準法に定めている労働時間に関する様々な規制が全て適用されなくなります。

どういうことかというと、1日8時間、週40時間という法で定められた労働時間これはもとより、これを超えて働かせる場合に必要な割増賃金とか36協定とか、それから仕事の途中に取ることが義務付けられている休憩時間、それから1週間に1日以上取ることになっている休日、こうしたものが全て適用されなくなるわけです。

実は同じように労働時間規制から外れている人がすでにいて、それがいわゆる管理職、正確には管理監督者の人たちなんです。

しかしこの管理職も、ほとんど時間規制から外れているんですが、深夜労働については健康上特に配慮する必要があるとして、深夜労働の割増賃金というのはちゃんと適用されているんです。

ところが、高度プロフェッショナル制度は、これも適用されない。

つまり、管理職よりももっと幅広く労働時間規制から適用除外されるわけです。

それだけ、働き過ぎ、長時間労働に対する歯止め策というのが重要になってくると思います。

 

キャスター:この法案審議の行方は今後どうなる見通しでしょうか。

 

竹田:今回連合は、迷走劇の果てに、政府と合意するという方針も撤回したわけですが、政府は連合から出されている修正要求、これに沿って法案を修正する方針なんです。

これは政府自身が、今のままでは健康確保策に不安があると気づいているためです。

連合の修正要求というのは何かというと、法案では働きを防ぎ健康を確保するために、三つの健康確保策のうちどれかを選択するとなっていたんですが、連合は「それではダメだ・不十分だ。年104日以上の休日を必ずこの制度を導入するところには義務付ける。その上で新たに複数の選択肢からどれかひとつをえらぶ」という健康確保策を強化する修正要求を出していまして、これは大変重要な要求だと思います。

結局、高度プロフェッショナル制度というのは、仕事の進め方を自分で決められるわけですが、仕事の量は自分では決められません。

ですから、上司から次々と仕事が振られ続ければ、ろくな休みも休憩もなしに連日働かされ続けるということになりかねないわけでして、今後近く開かれる労働政策審議会で労使の徹底した議論が必要になると思います。