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ビザ緩和でどうなる?ロシア極東の観光

8月2日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:ロシア極東で始まるビザの緩和制度について、ウラジオストク支局の塚越記者に聞きます。

ビザの緩和制度ということですが、これはどんな制度なんでしょうか。

 

塚越:この制度は、ロシアに入国する外国人が、事前に専用のホームページで申請すれば、各国にあるロシア大使館や領事館に行かなくても、最長で8日間滞在できる電子ビザが無料で発給されるという新たな制度です。

しかしいろいろと規制されていまして、そこからロシアの狙いが伺えるんです。

まず対象は、日本や中国のほか、インド、シンガポールなどアジア経済の中心となっている国々、またサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)といった中東地域のエネルギー大国など18カ国の外国人が対象です。

渡航の目的も、ビジネスや観光などに限定しています。

さらに入国と出国する場所は、ウラジオストクの空港と港の2箇所に限定され、訪問先もウラジオストクとその周辺に限られ、首都のモスクワなどには行くことができません。

 

キャスター:いろいろと限定されているようですけど、どんな狙いがあるんでしょうか。

 

塚越:ひとつは、ロシア極東地域の経済振興です。

広大な土地に人口減少が進む極東地域の開発を進めたいロシアのプーチン政権、特にその中心となるウラジオストクには、経済特区を作るなどして外国からの投資などを呼びかけています。

しかし、ロシアによるウクライナのクリミア併合をきっかけとする欧米諸国による制裁や、石油価格の下落もあり、ロシア経済は低迷、外国からの投資や企業の進出もロシアの期待するようには進んでいないのが実態です。

そうした中で、アジアや中東からのビジネスでの短期訪問を活発化させ、ロシア政府としては経済発展の足がかりにしたいのです。

またもうひとつは、観光振興です。

ソビエト時代は、軍事閉鎖都市だったウラジオストク、しかしロシア政府は、アジアに近いこのウラジオストクを国際観光都市にしようと、この数年間にカジノや劇場・水族館など観光施設を相次いでオープンさせています。

実際、町の中心部を歩いてみると、中国や韓国などからの観光客も多く目につき、この3年間で外国人観光客は40%以上増えているということです。

ビザの緩和によって、さらに観光客を呼び込みたいのです。

 

キャスター:ターゲットを絞った対策のようですけど、狙い通りうまく行くんでしょうか。

 

塚越:観光については期待できる部分は大きいと思います。

例えば、ロシアと韓国の間では、3年前から観光を目的に入国する際は、ビザが必要なくなっていますが、毎年1.5倍ほど観光客が増えているんです。

また日本などからの個人観光客にとって、ロシア旅行の際のネックになっていたのが、ビザの取得手続きの難しさでした。

空港で、日本人観光客に話を聞くと、ビザが緩和されれば、北海道に行くような感覚で、2時間ほどでヨーロッパのような街に行けるのは魅力ですと話していました。

一方で、課題も多いと言えます。

地域が限定されているため、旅行会社はツアーを組みにくく、どれだけこの制度を利用できるか未知数です。

また、ビザの緩和制度の内容や手続きについては、直前まで詳細がわからないなど、周知は十分であったとは言えず、制度が始まってからも、入国できないことや、現地でビザがないことによるトラブルも懸念されているんです。

さらに制度の開始時期は、当初は7月の予定でしたが、延期に延期を重ねた上、昨日も申請が始まったと政府側が発表したものの、夜になってから、導入試験のため8日から申請を開始するとして、再び延期されるなど、当局の対応への不安の声も多く聞かれます。

新たな制度が実りあるものになるのか、日本人にも関わる制度ですので、引き続き注目したいと思います。