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アメリカトランプ大統領のインフラ投資政策

8月8日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:アメリカのトランプ大統領の経済政策では、税制改革と並んで市場の期待が大きかったのが、インフラへの巨額投資でした。

現状はどうなっているのか、ワシントン支局の田中記者に聞きます。

トランプ大統領は10年間で官民合わせて1兆ドル日本円で110兆円余りの巨額のインフラ投資を行う方針を掲げて大統領選挙を勝ち抜きましたけど、その進捗状況はどうなっているんでしょうか。

 

田中:巨額のインフラ投資への市場の期待はしぼんでいます。

市場では、当初1兆ドルの多くが政府によるものだと期待していましたが、政府の予算要求いわゆる予算教書の中で、連邦政府の予算として求めたのは10年間で2千億ドルだけで、残りの8千億ドルは民間の投資に委ねたかたちです。

このため、IMF国際通貨基金)は先月、財政出動の規模が当初の想定ほど大きくないとして、アメリカの来年のGDPの伸び率の見通しを従来の2.5%から2.1%まで大幅に下方修正しました。

さらに既存のインフラ事業でさえ進捗が危ぶまれているケースも出てきています。

ミネソタ州ミネアポリスでは、7年前から進められてきた鉄道の建設計画の先行きが不透明になっています。

この事業は、連邦政府が毎年2300億円ほどの予算を配分している公共交通の整備プログラムへ承認され、これまでに環境影響評価などの予算として連邦政府から15億円が注ぎ込まれています。

今年建設を開始して、4年後の開通を目指していました。

しかし、トランプ政権がこの計画に待ったをかけました。

事業費2000億円のうち半分は連邦政府補助金を見込んでいましたが、今後は民間資金を活用した事業を優先するとして、政府の要求段階では予算の計上が見送られたのです。

鉄道会社のマーク・ファーマン副社長は、この鉄道計画への投資は、地域の繁栄にとって欠かせない、引き続き他の州と一緒に手続きが進行中の連邦政府補助金が得られるよう求めていく、と話していました。

 

キャスター:既存のインフラ投資計画も滞っているケースがあるということですけど、トランプ政権の方針によって、事業コストが上がる懸念も広がっているようですね。

 

田中:トランプ大統領は、アメリカの製品を買おうと呼びかけていて、こうした政策をさらに強化する方針を打ち出しています。

トランプ政権の前から、アメリカでは政府調達に加え、連邦政府の補助を受ける鉄道事業などでは、物資の購入にあたって、アメリカ産の製品を使う比率が定められてきました。

ワシントンのシンクタンク「アメリカンアクションフォーラム」の調べによりますと、アメリカの鉄道事業者は、車両の購入にあたって、外国と比べて34%もコストがかかっていることがわかりました。

これは、法律で車両のコストのうち60%以上アメリカの部品を使用することが義務付けられていたためです。

このシンクタンクのフィリップ・ロセッティ研究員は、Buy American政策による高いコストを負担しなければならないのは、どのケースでも最終的には納税者だ。こうした政策は、特に保護主義的と言えるだろう。と話していました。

アメリカのインフラ投資には、日本企業も期待を寄せていましたが、その規模が想定ほど大きくない上、Buy American政策がさらに強化されれば、日本企業が入り込む余地も限られる可能性があり、大きな期待はできそうにありません。

市場の期待が大きかった税制改革、インフラ投資といったトランプ政権の経済政策は、思うように進んでいないと言えそうです。