エネルギー計画改定へ 焦点の原子力は
8月10日放送 「先読み!夕方ニュース」
キャスター:政府がエネルギー基本計画の改定作業を始めました。
これは国の中長期的なエネルギー戦略の方針を示すものですから、エネルギー全般の議論が行われることになるんですが、大きな焦点となるのが原発の扱いなんです。
前回の計画で依存度を可能な限り制限するとされたものの、具体的にどこまで減らすのかあいまいな点が多く残されている上に、この間再稼働は政府の思惑通りには進まず、もんじゅも廃炉となるなど状況が大きく変化しているからです。
にもかかわらず事務局の経済産業省はすでに前回と骨格は変えないと説明しています。
これで民主的な改定作業となるんでしょうか。
水野解説委員に聞きます。
昨日から始まった改定に向けた作業部会なんですが、どんな意見が出たんですか。
水野:この間基本計画の改定ですけど法律を3年ごとに見直すということが決まっているもので、それで経産省がエネルギーや環境分野の専門家を集めた検討会で昨日から議論を始めたんですが、昨日専門家から多く出たのはやはり原子力に関することで、今後も原発に頼るのであれば原発の建て替えについてもそろそろ議論を始めなければならないと言った意見ですとか、それから再稼働への反対は根強いので、再生可能エネルギーをもっと重視すべきだなど多くの意見が出ました。
ただ、昨日の冒頭もそうでしたけど、世耕経済産業大臣が会議が始まる前から計画の骨格を変える段階ではないと強調している点が非常に気になるんですね。
前回から3年しか経っていないと理由を説明しているんですが、前回の計画では原子力にあいまいな点が多く残されていますし、この3年間でもんじゅが廃炉になるとか大きく状況が変化していますので、結論ありきではなくて適度な議論をしていかなければならないと思います。
キャスター:確認しておきたいんですが、前回の計画では原発はどういう風に位置付けられていました。
水野:原発依存度については可能な限り低減するという風になりました。
と言いながらも原発は昼夜を問わず電気を供給する重要なベースロード電源とも位置付けられました。
これは福島の事故で火力発電の依存度が高まって発電コストが上がったと、それから火力発電でCO2の排出量も増えたことからやはり原発はある程度頼らざるを得ないというのがその理由で、2030年の電源構成がその後決まったんですが、原発は2030年に20%から22%を目指すことになりまして、再稼働を加速させるという方針が明確に打ち出されました。
しかし依存度を低減させるとはいうものの、具体的にどこまで減らすのか、どれくらい原発を維持していくのか、明確な方針があいまいなままに3年間使われてきたんですね。
その結果再稼働の判断は、電力会社に任されることになったわけです。
キャスター:原発の現状はどうなってるんでしょう。
水野:福島の事故後、福島第1原発に加えまして老朽化で採算が合わなくなった6機が廃炉となりましたけど、全国42機の原発のうちこれまでに建設中の大間原発も含めて26機か再稼働申請しています。
5機は合格してるんですが、残る原発も多くは再稼働を目指していまして、将来的に一体何機ぐらい再稼働になるのか、これがなかなか見えてこないですね。
キャスター:そういう話を聞いていますと、可能な限り低減させて行くという政府の方針、本当にそのつもりがあるんですか。
水野:それがなかなか疑わしいところでして、ひとつは原発の40年運転ルールというのがありまして、事故後に依存度の低減を目指して原発の運転期間を原則40年とするというルールが導入されたんですが、当初は延長も1回に限りできるんですが、延長は相当困難で例外だと説明されてきたんですね。
ただ先ほど言いました2030年に20から22%の原発比率を確保するには、30機以上の原発の再稼働が必要になるんですけど、政府は今のところ原発の増設や建て替えは想定していないとしていますので、そうなりますとこの40年を超える老朽原発を10機以上運転させなければ実現できない目標なんですね。
実際その後、関西電力の高浜原発、それから美浜原発と、電力会社が申請した老朽原発は優先的に審査が行われまして、全て運転延長が認められています。
今後この老朽原発の延長申請ラッシュも予想されますので、この40年ルールは形骸化しているという指摘もあって、依存度低減には繋がらないのではないかと。
であれば、今後どういった方法で何機まで減らすのか、これがやはり今回の改定作業で具体案を示してもらわなければいけないと思います。
それともう一点、そもそも2030年の原発比率20%余りと、この目標自体本当に達成できる数字なのかどうかという声も上がっています。
再稼働は今の所政府の思惑通りに進んでいませんで5機にとどまっているんですね。
今年さらに4機の再稼働が見込まれていますけど、その先となると、敷地内の活断層の審査が長期化しているものもありますし、東京電力が再起動を目指している新潟県の柏崎刈羽原発をめぐっては、新潟県が東電の不信から当面再稼働の判断をしないという考えを示していますので、地元の理解が得られる見通しが立っていない原発も多くあって、30機以上の原発の再稼働はそもそも困難だという専門家もいるんですね。
キャスター:となると原発比率が達成できなかった場合、そのぶんの電力供給はどうなるんでしょうか。
水野:なかなか現状で再生可能エネルギーに全て頼るのは難しいですので、やはりすでにある火力発電で補って行くということが想定されるんですね。
そうなりますとCO2の排出量が増えると。
日本はパリ協定で2030年に26%削減と約束していますので、これが達成できなくなると。
再生可能エネルギーも難しいと。
それではどうするのかと、そういったあたりを議論しなくてはいけないですね。
それと世論なんですが、国民の多くは再稼働に慎重なんですね。
NHKの世論調査でも、原発の再稼働に賛成が13%なのに対して反対が48%と、賛成を大きく上回っています。
ですので実際に実現可能な目標なのかに加えてこういった民意も考慮して原発の比率を再検証しなければならないですね。
最後にもう一点、前回から大きく状況が変わっているのが核燃料サイクルなんですね。
前回の計画では使用済み燃料を全て再処理してプルトニウムを取り出して、高速増殖炉で繰り返し使うと、この核燃料サイクルを推進すると計画ではなっていました。
しかしその要の位置につけられていたもんじゅがなくなるわけなので、当然今回核燃料サイクル全体の見直しが必要になってくるかと思いきや、政府は見直すどころか核燃料サイクルは堅持してもんじゅの先のより大型の実証炉を目指す方針を決めて、今工程表づくりを始めています。
キャスター:もんじゅが失敗したのにどうして見直せないんですか。
水野:なかなかですね、核燃料サイクルの旗は下ろせない事情があるんですね。
背景にありますのは、一般の原発の再稼働なんです。
原発のプールには、使用済み燃料プールに余裕がないところもありまして、再稼働すれば出てくる使用済み燃料、これを青森県の再処理工場に運びたいんですが、青森県としてもそれを置きっぱなしにされては困るため、きちんと再処理して核燃料サイクルを続けるということを受け入れの条件にしてるんですね。
もしも核燃料サイクルを見直したりやめるというのであれば、使用済み燃料は元の原発に返すと青森県は表明しています。
そうするとプールが満杯になって原発は再稼働できないというわけで、政府としては高速炉開発を掲げ続けてサイクルを続ける意志だけは示しておかなければならないという事情があるんです。
キャスター:しかしそれではもんじゅの失敗を繰り返すことになりかねないじゃありませんか。
水野:その懸念はありますね。
ですけど、こうした方針が決まったのには決め方にも問題があったからだと私は思います。
この高速炉開発方針は、政府と電力業界それからメーカーなど、もんじゅを推進してきた限られたメンバーによって非公開の場で決められました。
やはり今回、専門家を交えた公開の場できちんと改めて議論する、そして原発の使用済み燃料を全て再処理して利用する今の核燃料サイクル政策を見直し、それから使用埋み燃料を放射性廃棄物として直接処分できるようにすることなど、新たな策を検討していかなければならないですね。
安倍総理は、先日の内閣改造にあたっての会見の冒頭で、今後は国民の声に耳を澄まして対応して行くと述べました。
であれば、このエネルギー基本計画についても、最初から骨格を変えないというように決めてかかるのではなく、この間の課題を全て国民に提示して、国民の声も聞きながら丁寧に議論を進めていってもらいたいと思います。