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日米の金融政策を考える

 

NHKマイあさラジオ「社会の見方・私の視点」6月21日放送

解説:評論家 田中直毅

 

キャスター:アメリカの中央銀行にあたるFRB連邦準備制度理事会は、先週開いた金融政策を決める会合で、アメリカ経済は緩やかに拡大しているとして、今年3月に続いて利上げに踏み切ることを決めました。

また、量的緩和策で膨らんだFRBの資産規模の縮小について、年内に始める見通しだと、金融の引き締めの方向で政策を見直し姿勢を示しました。

このFRBの決定をどう見ますか。

 

田中:世界の先進国は、アメリカもヨーロッパも日本も皆、金融の量的緩和をやって、低い金利にして、兎にも角にも経済活動を引き上げる、そういう同じ方向にベクトルが向いていたんです。

アメリカはその中から最初に異常な量的緩和をもうやめようと思いますと、そして金利を引き上げますと、そして中央銀行貸借対照表、どんどん国債を買ったもんですから、資産が増える、それに見合ったお金が市中に流れたわけですが、これも膨大になりすぎたんで、少しずつではあるけれど、中央銀行貸借対照表を縮めていく、こういう決意表明をしたわけです。

きっかけは、アメリカの雇用が十分に拡大しつつある。

失業率がどんどん下がって参りました。

物価の方はもう少し上げたいという意見はありますけど、しかしもうデフレなんて議論は、アメリカにありませんから、これも雇用量と物価を見て、そして金利水準を決めるという、通常の金融政策に、我々は戻りますよ、そのための手は打ちました、こういうことなんですね。

したがって、ユーロ圏そして日本は、アメリカが先にリーマンショックから9年近くやってきたこの異常な非伝統的な金融政策に別れを告げつつある。

これに対して日本は、それに対応することができるのか、という議論になるんです。

そういう意味では、アメリカが先行した、我々はそれに追いつけるのかなということになるわけです。

 

キャスター:アメリカの場合、物価の上昇の勢いが弱まっているという声もありますけど、利上げのペースが変わるかどうか注目されていましたよね。

 

田中:確かに物価上昇率2%ぐらいは欲しいという声が、アメリカの中央銀行の内部にもあるんです。

それからいくとですね、現在アメリカの物価上昇率は、いろんな物価の取り方がありますけど、伝統的にアメリカの中央銀行は、個人消費支出デフレーターといって、個人が消費を行う時の何をどう買うのか、それがどの程度上がってるのか、この個人消費支出デフレーターで議論することを決めてるんです。

これからいくと、2%には行かないんですよ。

1.5から1.7という数値が出てるんですけれども、これで十分だろうと、2%まで物価が上がらないといけないという議論はないというところまで来たんです。

そういう意味では、失業率についてはもう十分改善してますから、物価もこの程度ですが、当初の狙いの2%にはいかないけれども、ここまで回復すれば、金利を上げていくかたちで対応していいんじゃないか。

そういう意味では、伝統的なやり方、正常化という言い方もあるんですけど、そこに踏み切ったということになりますね。

 

キャスター:いわゆる出口戦略を取り始めたということができるんですね。

 

田中:10年近く出口を模索しようにも、経済の実態が不安だという議論が多かったわけですが、ついにここへ来て、もうそういう不安材料はほとんどない、自信を持って正常な金利の引き上げというかたちで、経済実態に対応できる。

そういうステートメントがアメリカの中央銀行から出たわけですね。

アメリカの株価はその後も順調に水準を上げて来てるんですけど、しばらくは安心して取引ができるのかなということになります。

それから、国債の価格、流通利回りと言うんですけど、この金利についても、長期金利は、短期金利を上げていくわけですから、今までだったら長期金利も上がるってことが多いんですけど、今はどちらかというと、短期金利は上げても長期金利の方はむしろ下がってるんですね。

そういう意味からいうと、中央銀行国債中心に債権を買いすぎたので、これを少しずつ、マーケットに戻すということをやっても、長期金利が急騰するということはないという、出口戦略にとっては願ってもないような状況が今あるわけですから、やっとそこに我々入りますということなんですね。

今から3、4年前は、もしアメリカが出口戦略を模索し始めたら、長期金利は上がってしまうんじゃないか、すなわち中央銀行にいっぱい買い取っていた国債をマーケットで売るわけですから、中央銀行が売るなら値段は下がるだろうと、下がるということはすなわち利回りが上昇するということですから、長期金利が上がるようじゃあ、アメリカの経済の先行きははかばかしくいかないだろうと、こういう議論になったわけですから、本当に中央銀行貸借対照表を縮小していくこと出来るんでしょうか、という疑問がずっとあったんですが、今はたまたまそういうかたちで物価は上がっていく心配がない、そして長期金利もマーケットで十分安定したというか少しずつ低めに出て来ているわけですから。

これなら年内に中央銀行にある国債を市場に売って減らしていくということには入れそうだという、こういうステートメントなんですね。

ですからアメリカにとっては、アメリカの金融機関同士にとっては、こんないい状況で出口戦略が模索できるとは思っていなかった。

そういう状況が生まれているということですね。

 

キャスター:日本の金融政策はどう見たらいいでしょうか。

 

田中:出口戦略を模索するところまで行きませんね。

それは、中央銀行がマーケットから国債を買い続ける、この姿勢を変えることはしばらくできないだろうと思われているわけです。

そして、まだまだ先になりそうですね。