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南北合意 平和につながるのか?

2018年3月7日放送 NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」

解説:出石直解説委員

 

韓国と北朝鮮は来月末、板門店にある韓国側の施設で南北首脳会談を開催することで合意しました。

北朝鮮は非核化への意思を明確に示し、対話が続く間は新たな核実験や弾道ミサイルの発射は行わないと約束したということです。

一方日本やアメリカ政府は北朝鮮の真意を見極めたいと慎重な構えです。

今回の合意の意義や今後の展開について聞きます。

 

今回の南北合意、聞いて驚きましたけど、どう評価いたしますか?

出石:

私も正直驚きました。

北朝鮮側はかなり踏み込んだなというのが率直な印象です。

ひとつは文在寅大統領の親書を携えたとはいえですね、金正恩委員長が直接彼らと会って、笑顔で握手を交わし、厚くもてなした。

これもびっくりです。

合意内容を見ましても、あくまでも韓国政府の発表ですけど、これまで北朝鮮がかたくなに拒んでいたものも含まれているんですね。

まず北朝鮮の体制が保証されるならば核を保有する必要がないとした点なんです。

実は金正恩体制になってから北朝鮮憲法を改正して、自分たちは核保有国であると明記したんです。

核開発と経済発展を政策の二本柱としてきているわけなんです。

今回体制が保証されるならばという条件は付いていますけど、金正恩体制になって北朝鮮が非核化の意思を示したというのは初めてのことです。

もうひとつ驚きましたのは、非核化問題の協議と米朝関係正常化のためアメリカと対話をする用意があるとしている点なんです。

北朝鮮はこれまで非核化の対話には一切応じないと繰り返し主張していましたので、非核化について対話に応じると表明したのは大きな前進と言っていいと思います。

それから北朝鮮がずっと中止を要求していましたパラリンピック後の米韓合同軍事演習についても北朝鮮側は理解を示したというんですね。

これも驚きです。

 

南北首脳会談の場所なんですけど、板門店ということで、今までは平壌だったわけですけど、これもかなり異例ですね。

出石:

これまで2回の首脳会談は平壌でしたから、今回は板門店のしかも韓国側の施設で行うとしているんですね。

これがもし実現しますと、北朝鮮の最高指導者が初めて軍事境界線を越えて韓国側の施設に足を踏み入れると、これは画期的な出来事になると思います。

 

これまでのかたくなな強硬姿勢とは打って変わって大幅に方向転換したようにも受け止めますけど、北朝鮮というのはなかなか信じがたいところもあるし、この思惑・真意はどう読み解いたらいいんでしょうか。

出石:

正直金正恩氏に聞かないとわからないところがありますけど、ひとつは国際社会による制裁が功を奏して、制裁を何とか逃れたいと制裁逃れを狙っているという見方もできると思います。

北朝鮮は9月に建国70周年を迎えて、これを今年大々的に祝いたいわけなんですけど、その時に制裁の解除あるいは緩和によって、経済を立て直したい、国民の生活を豊かにすることで金正恩委員長への求心力を高めたいと、こういった思惑があるのかもしれません。

ただ考えてみますと、国連安保理による制裁が本格的に強化されたのは猶予期間がありましたので今年の1月からなんですね。

ですから制裁の効果が実際に効いてくるのはもう少し先になりますので、いま厳しい制裁に耐えきれなくなって態度を変えて来たというのは見方としては違うのではないかと思います。

むしろ北朝鮮がここにきて態度を変えてきたのは、ここまで核開発を続けてきて、金正恩委員長が自信を持ったという表れだと見ることもできるんですね。

去年11月に北朝鮮ICBM発射しました。

この時に北朝鮮は、国家核武力が完成したと言いました。

今年の新年の辞でも金正恩委員長は同じ表現を使っているんです。

彼れが言うところの抑止力としての核、つまりアメリカから攻撃を受けないための核武装が完成したのだから、これからは同じ核保有国同士として、アメリカと対等の立場で交渉ができると、北朝鮮はそう考えているのではないでしょうか。

北朝鮮核武装が完成したかどうかについては諸説ありますけど、少なくとも北朝鮮はそう考えているというふうに見るべきだと思います。

 

そうなりますと今後の焦点は果たしてアメリカの方が北朝鮮との対話に応じるかどうかだと思いますけど、そのあたりはどうでしょうか。

出石:

北朝鮮が言っている体制保証ですね、それから米朝関係の正常化、これをどう捉えるかという所がポイントだと思います。

北朝鮮が言っているのは、朝鮮戦争の休戦状態を終わらせて、アメリカと平和協定を結ぶんだと。そして国交正常化をしたいんだと。こう言っているわけなんですね。

その上で、同じ核保有国として核のない世界を目指してお互いに核軍縮交渉を行いましょうと。

さらにそのためには最も沢山の核兵器を持っているアメリカが核軍縮をするのが先だと。

これが北朝鮮の言い分なんですね。

これに対してアメリカは、核を持っている北朝鮮と平和協定を結んだり、国交回復をすることには応じられないと。

むしろ、核を完全な形で放棄するのが先だろうというのがアメリカの立場なんですね。

つまり核兵器が先なのか、平和協定や国交回復が先なのか。

両者の主張は大きく隔たっているんです。

ですからたとえ米朝対話が始まったとしても、まったく出口の見えない議論が果てしなく続くと、こういった可能性は十分にあると思うんですね。

 

そうしますと対話が続いて引き伸ばしになるということはないですかね。

出石:

時間稼ぎという見方もありますし、今回あたかも北朝鮮が譲歩をしているようにも見えるんですけど、むしろ核武装が完成したという自信を背景に強い態度に出てきているようにも受け取れると思います。

 

プーチン大統領が「草の根を食ってでも核は放棄しない」といった発言が思い出されるんですけど、ただ折れてきたということではないと。

出石:

北朝鮮がいっている非核化というのは、一方的に北朝鮮だけが核を放棄するということではないんですね。

むしろ核兵器をなくすことには合意しますよ、そのためには自分たちも核軍縮をやるけれども、まずはアメリカが核兵器を手放さなくてはいけないんだと。

そういうことですから決して彼らが非核化に応じるあるいは非核化の交渉をアメリカとすると言ったからといって、一方的に北朝鮮が折れてきたというわけではないんですね。

 

そうしますと南北が合意したからといって今後の交渉はなかなか楽観は当然のことながらできませんね。

出石:

むしろ難しくなってきたという見方もできると思うんですね。

ただ朝鮮半島情勢が大きな転換期を迎えていることは間違いないと思います。

今回金正恩委員長との会談に臨んだ韓国政府の当局者は近くアメリカを訪問して、会談の結果を説明することになっています。

この後中国・ロシア・日本と六カ国協議の当事国も訪問するわけなんですね。

各国からも韓国政府に対して、北朝鮮の真意はどこにあるんだとあるいは今後どうするんだと、さまざまな質問が寄せられると思います。

いま何より大切なのは、国際社会の連携だと思うんですね。

物事が北朝鮮のペースで進むこともよくないですし、韓国が北朝鮮との融和を急ぐあまりどんどん前のめりになってしまうのもよくない。

ですから国際社会が一致して朝鮮半島の非核化という目標に向かって進んでいく。

国際社会の足並みを乱さないということが大事じゃないかと思います。

 

そうすると日米韓・中国・ロシアと、ここのところの思惑や足並みが乱れないことが肝心ということになりますね。

出石:

思惑の違いはもちろんあるんですけど、だからといってお互い足を引っ張るんじゃなくて、できるだけ調整して朝鮮半島の非核化のために努力していくということが一番大事だと思います。