リニア談合事件の正体
2018年3月2日放送 NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」
解説:清永聡解説委員
リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件と今後の捜査の争点について伺います。
まず今回はどんな談合事件なんですか?
清永:リニア中央新幹線というのは多くの人が聞いたことがあると思います。
最高時速はおよそ500キロ、東京と名古屋の間をおよそ40分で結び、2027年の開業を予定しています。
総工費は9兆300億円。
3分の1にあたるおよそ3兆円は国が長期間にわたり低い金利で資金を供給する財政投融資でまかなわれています。
東京地検特捜部によりますと、大成建設の元常務と鹿島建設の専任部長の二人が大林組や清水建設の当時の幹部らと共に事前に落札業者を決めるなどの談合をしていたとして、独占禁止法違反の疑いがもたれているわけです。
これまでの調べに対して二人は、「談合はしていない」あるいは「他社と情報交換したことはあるが、不正な受注調整には当たらない」などといずれも容疑を否認しているということです。
今回談合に係った疑いがもたれている四社なんですけど、いずれも日本を代表するゼネコンですよね。
清永:今回のリニア工事も大半がこの四社が受注しています。
JR東海によりますと、昨年末の時点で本体の建設工事は24件契約が結ばれているんですが、この四社がその7割近い15件を受注、しかも各社3、4件ずつほぼ均等に受注していることがわかります。
リニアの工事というのは、確かに高度な技術力が必要です。
JRの入札も業者が提示した見積価格それから技術提案を総合的に評価するという方式で行われているので、金額だけで競争するというわけではありません。
だからといって、自由な競争を阻害することは正当化できません。
あくまでも公正な手続きで工事を受注する必要があります。
もし均等に受注できるよう四社の間で合意があったとすれば、それは適正な競争を妨げる行為だったということになります。
今回談合への関与について、四社は認めているんでしょうか。
清永:そこが割れているんです。
関係者によりますと、大林組と清水建設は談合への関与を認めている。
このように分かれている背景には、平成18年に導入した課徴金減免制度があると見られます。
あまりなじみのない言葉なんですが、これは談合などに加わっていた業者が違反行為について公正取引委員会に自ら報告した場合に、課徴金といういわゆる制裁金が免除されたり減額するという制度なんです。
今回大林組と清水建設は、この四社による不正な受注調整を認めて、公正取引委員会に違反を申し出ていたと見られています。
いうなれば、自首すれば許すというアメとムチのようなものがあります。
密室での談合やカルテルを明らかにしようという狙いです。
つまり、どこかが自主的に申告するかもしれないと考えれば、業者同士が密約を結ぶことができなくなって、談合がなくなることにつながると期待されているわけです。
ただ一方で、捜査が恣意的に進むということがあってはならないわけで、あるいは申告した業者が自分に不当に有利な証言だけを行うという恐れがあるのではないか、この点は慎重な捜査が今まで以上に求められています。
今後の捜査の焦点はどこにありますか。
清永:このリニア関連の工事、発注しているのはJR東海です。
非公表の入札情報は適切に取り扱われていたのか、あるい受注業者を決める過程でJR側の意向が影響を及ぼすことはなかったのか、この受注調整に至るまでの詳しい経緯の解明、ここが焦点になってくると思います。
談合によってもし本来よりも高い値段で工事が行われるということになると、結局利用する側のお金から支払われるわけですよね。
清永:JR東海ということは東海道新幹線を持っていますから、新幹線を利用する人たちの料金が最終的にはリニアの建設工事をまかなっているわけですから、これは民間の事業といっても、われわれには全然関係ないというわけではないということを改めて認識してほしいですね。