北方領土で始まる共同経済活動の現地調査
NHKラジオ「NHKマイあさラジオ」6月28日放送
キャスター:北方領土での日本とロシアの共同経済活動に向けた日本の官民合同の調査団の現地調査が、今日から北方領土の国後島で始まります。
石川解説委員に聞きます。
今回の現地調査の目的はなんですか。
石川解説委員:今回の調査の意味は、経済の視点から島を初めて調査することなんです。
日本側は長谷川総理補佐官を団長として、ロシア側のサハリン州知事や島の行政や経済関係者と会談し、水産加工場や観光施設そして島のインフラの整備状況などを視察します。
重要なのは、民間の代表27名が、漁業・観光・建設業から金融業さらにコンビニまで多彩な業種から参加していることです。
共同経済活動と言いましても、政府が支えるにしても、企業や漁業協同組合など民間が自らの資金でリスクを負って行います。
経済の面から見て、有望なプロジェクトを見つけることが目的です。
キャスター:共同経済活動というのは、平和条約ともリンクしている話ですよね。
石川解説委員:そうですね、安倍総理の進める新しい発想に基づくアプローチの収穫が経済活動です。
いわば、主権の問題が解決した後の島の将来像を、具体的に日露の共同経済活動のかたちで先に築き上げていくことで、双方の立場が今のところは対立する主権の問題の解決策を見出そうというものです。
つまり、島には今はロシア人だけ住んでいて、日本人は住んでいません。
主権の問題が解決したとしても、日露が共存する島となるでしょう。
今は主権の問題、つまり国境線をどこに引くかという点の対立が続きますけど、将来日露が共存する島になるという点で一致するのであれば、その共存の制度をまず、作ってしまおう。
人、モノ、資本という経済の制度をまず作ろうという考え方です。
今までの発送を180度転換しただけに、リスクも伴います。
北方領土は日本の固有の領土しながらも、ロシアに実質的に支配され、ロシア法が行われています。
そこで、日本の領土問題に関する立場を損なわないかたちで、経済活動ができるのかどうかが、ポイントとなるでしょう。
キャスター:北方領土の返還運動の中心になっているのは根室市ですけれども、根室市はこの動きをどう見ているんですか。
石川解説委員:民間の参加者27人の内訳を見ますと、根室から様々な分野の8人が参加していることが目立っています。
根室市は共同経済活動を支持し、積極的に参加するとの立場を表明しています。
この積極姿勢の背景には、安倍・プーチン両首脳が、共同経済活動は平和条約締結につながるとしていること、また4島の経済活動が疲弊した地元の経済の底上げにつながるとの期待もあります。
しかし直前になって根室市の長谷川市長の参加が、日露の調整がつかず今回は見送られました。
理由はわかっていません。
ロシア内部にも共同経済活動への警戒論を抱く勢力もいることが背景にあるかもしれません。
根室では、期待していただけに、戸惑いが広がっています。
キャスター:今回の調査に根室の民間からの参加はあるということで、市長としてはそこをきっかけにしたいという思いはあるでしょうね。
石川解説委員:長谷川市長は、調査団にメッセージを託し、その中で共同経済活動を支持し期待すると改めて表明しています。
そして、今後も様々な障害が予想されるが、根室と北方4島が手を携えて克服したいという気持ちを伝えているんですね。
そして、1日も早い平和条約の締結と繋げようと呼びかけています。
根室市というのは、これまで4島とのビザなし交流の受け入れや島で急病人が出た場合、市立病院で引き受けるなど、島との交流に大きな役割を果たしてきました。
日本政府でも地元の気持ちをしっかり汲み取り、今回の共同経済活動の現地調査を平和条約につなげてほしいと思います。