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安倍内閣、信頼回復 厳しい道のり

NHKラジオ「先読み!夕方ニュース」7月10日放送

ニュース解説   伊藤解説委員

 

キャスター:小池知事率いる都民ファーストの会が圧勝し、自民党が大敗した東京都議会選挙から1週間が経ちました。

各種の世論調査で、安倍内閣の支持率が下がり、政権への逆風が強まっています。

NHKの世論調査も出たようなんですが、安倍政権に対して厳しいようですね。

 

伊藤:そもそも今の安倍1強と言われる政治状況を考えてみますと、この源というのは高い内閣支持率それから自民党1強とも言われる高い自民党の支持率、これを背景に国政選挙で連勝を続けてきたという選挙の強さにあったわけですね。

東京都議会議員選挙での大敗は、その根底を揺るがしかねないということで衝撃が走ったわけです。

これが本当に東京都だけの現象だったのかという点で言いますと、NHKの今月の世論調査の結果、安倍内閣を支持すると答えた人は先月より13ポイント下がって35%、支持しないと答えた人は12ポイント上がって48%、支持と不支持が逆転したんですね。

この内閣支持率35%という水準なんですが、これは調査の方法が違うので直ちに比較をすることはできないですが、第2次安倍政権が発足して以降最も低い水準と言っていいと思います。

東京都議会議員選挙の投票の際にNHKが行なった出口調査ですと、安倍内閣を支持すると答えた人は43%、支持しないと答えた人は57%でした。

これも調査の方法が違うので直ちに言えないんですが、政権への逆風は東京都だけではなくて、全国に広がっているということが明らかになったと思います。

さらに、支持と不支持の理由を見てみますと、支持の理由で最も多いのが「他の内閣よりよさそうだから」という消極的な理由なんですね。

一方、不支持の理由なんですけど、「人柄が信用できない」というのが最も多いということで、政権に対する不信感の高まりを示していると言えると思います。

 

キャスター:政権はともかく政党の支持率には変化はあったんでしょうか、

 

伊藤:これは、実は自民党政党支持率も減らしているんですね。

自民党の支持率は先月より5ポイントあまり減って、30.7%、民進党も2ポイント減らして5.8%ということでした。

野党第一党民進党が、政権批判の受け皿になれていないという現状も明らかになったということですので、自民党1強という構図自体には大きな変化はなかったということなんですね。

ただ、ちょっと注目しておくべきことは、特に支持する政党はないと答えた人が47%という高い水準になるんですね。

これは、自民党の支持の30.7%を上回っているということですね。

いわば規制の政党、これが支持を失っているという結果ですので、与野党とも政治に対する不信があるということを深刻に受け止めるべき状況にあると思います。

 

キャスター:そうした中で、今日国会では、国家戦略特区での加計学園獣医学部創設をめぐる問題で、閉会中の審査が行われました。

 

伊藤:これは政権にとって考えてみれば、信頼回復に向けた第一歩の取り組みということになると思います。

東京都議会議員選挙の結果について安倍総理大臣は、「政権に緩みがあるのではないかという厳しい批判があったんだと思う」と述べて、初心に立ち戻って信頼回復に全力を挙げる考えを示しています。

政権の緩みとは何かということですが、加計学園獣医学部の新設をめぐる問題あるいは自民党を離党した豊田議員の暴言、さらには稲田防衛大臣防衛省自衛隊をめぐる発言、これを念頭に置いたものだと思います。

ですから今日は、政府与党にとっては野党側の言い分を聞いて、説明責任を果たすという位置づけだった、ということが言えると思います。

 

キャスター:今日は長い審査をやったわけですが、この中で何が明らかになったんですか。

 

伊藤:新たな事実が出たかというと、必ずしもそうではなかったということですね。

注目は、前川全文部科学事務次官参考人として出席したことです。

前川次官は、ニュースでもありましたけど、加計学園獣医学部の新設については、プロセスが不公平で不透明である。

初めから加計学園ありきと決まっていて、プロセスを進めてきたように見えるという点ですね。

そしてもうひとつは、総理大臣補佐官あるいは当時の内閣官房参与から働きかけを受けた、というふうにした上で、背景には総理大臣官邸の動きがあったと思うと指摘したんですね。

これに対して、戦略特区を担当する山本地方創生担当大臣は、岩盤規制を突破するにはまず地域を限定したところでやるしかない、この医学部の新設は国家戦略特区の趣旨に沿うものだ、とした上で、新設を検討する条件に合致しているということは、文部科学省農林水産省とも確認しており、プロセスは適正だったと反論した訳です。

基本的に、構図としてですね、行政が歪められたとする前川前次官、これを真っ向から否定する山本大臣、その認識が食い違って主張は平行線をたどったというところです。

 

キャスター:伊藤さんは、今回の議論、国民が納得できる内容だったと思いますか。

 

伊藤:必ずしもそうはならなかったと思います。

ですから今後は、なぜその認識が食い違うのかという点、その溝をどうしたら埋められるのかがポイントになってくると思います。

双方が主張する事実関係そのものが間違っているのか、それとも何らかの誤解があるのか、思惑があるのか、そして今なぜ、こうした自体を招いているのか、国民が知りたいのはそこにあるんだろうと思います。

さらに言いますと、今日の審査では、野党側が求めた安倍総理大臣は外国を訪問中で出席できませんでした。

NHKの世論調査では加計学園をめぐって、行政が歪められたことは一切ないという安倍総理大臣の説明について聞いたところ、「あまり納得できない」「全く納得できない」という人を合わせると73%を占めています。

今日の審査だけで説明責任を果たしたとは言えないでしょう。

ですから今後は、安倍総理大臣の出席を求めてのさらなる閉会中審査、あるいは早期の臨時国会の召集が焦点になってくると思います。

さらに言いますと、問題は、前の文部科学省の事務方のトップと、それから国家戦略特区を担当する内閣府と、いわば政府内部の対立の構図になっている訳ですね。

その点で言いますと、内閣府の側の調査が、本当に徹底しているのかどうかという点で不十分だという指摘もあるんですね。

本来こうした問題は、政権の側が納得のいく調査と説明を尽くすということが本来の姿だと思うんですが、国会でも手詰まりのような状態が続くと、国民の批判は治らないと思います。

中立的な第三者の手による調査に委ねるべきだという声が広まることも予想され、そうなりますと政権の中心が調査の対象になるということですから、政権にとっては厳しい事態になると思います。

 

キャスター:安倍政権の立場に立つと、信頼回復に向けて取り組む課題は何だと思いますか。

 

伊藤:非常に多いと思います。

ただ安倍政権が基本的に考えていることは、都議会議員選挙で示された批判というのは、政権が進めてきた政策そのものに問題があるのではなくて、説明責任あるいは政治姿勢にあると考えているということなんです。

ですからまずは、政権の基盤である政策面で言うと、九州北部の記録的な豪雨に対する万全の対策をとることでしょう。

また経済の安定というのが政権の推進力につながってきたということから、経済の再生に最優先で取り組むこと。

さらに北朝鮮への対応ですね。

国民の不安を解消するためにも、外交的な手腕を発揮するということが必要になってくると思います。

ですが、これだけでは今までの路線と変わらない訳ですから、さらに必要なのは、強気一辺倒ではない謙虚な姿勢で丁寧な国会対応や十分な説明を続けること。

失言やスキャンダルが続くようでは、足元が救われることになると思います。

さらに注目されるのは、来月早々行われる見通しになった内閣改造と党役員人事です。

安倍総理大臣は、麻生副総理兼財務大臣、菅官房長官自民党の二階幹事長を続投させ、政権を支えている骨格の人事は変えないという方針です。

一方で、人心の一新によって、これまでの流れを断ち切って、政権の姿勢が変わったと納得される布陣を形で示すという必要にも求められている。

難しいのは、期待感を持って役職を務める議員が多い一方で、安定感やバランスだけを重視すると、清新さも失われてしまうという難しい人事だと思います。

自民党内はポスト安倍にらんだと見られる動きが出始めています。

政権にとっては、早期の事態収拾が望ましいところですが、その場しのぎでは国民の支持は得られません。

党内の求心力を失って、ポスト安倍の動きを一気に加速させる可能性も秘めているだけに、安倍政権の信頼回復への道のりは決して平坦なものではなさそうです。