嘆きの壁をめぐるユダヤ教徒の対立 ワールドリポート
ワールドリポート
キャスター:中東のエルサレムにあるユダヤ教の聖地嘆きの壁をめぐるユダヤ教徒の対立について、エルサレム支局の佐伯記者に聞きます。
エルサレムと言いますと、ユダヤ教徒とイスラム教徒の対立が浮かぶんですけど、ユダヤ教徒同士の対立なんですか。
佐伯:まずは話を理解するために、嘆きの壁について簡単に説明します。
先月、アメリカのトランプ大統領が現職の大統領としては初めて訪問した場所として記憶に新しいと思います。
その嘆きの壁なんですが、かつてはるか古代に、ユダヤ教の神殿が建っていたとされる土台の外壁の部分にあたります。
その神殿はローマ帝国軍によって破壊されたんですが、土台を覆う四方の壁のうち西側の壁だけが当時からそのまま残っているとされているんです。
このためユダヤ教徒にとって聖地となり、世界中から人々がお参りに訪れます。
キャスター:その壁をめぐってユダヤ教徒同士が対立しているということなんですか。
つまり、男性と女性の祈る場所は別々で、女性は行動も制限されています。
こうした現状に、より寛容な考え方をする改革派と呼ばれる勢力が、嘆きの壁で女性と男性が平等な権利が行使できるように訴えてきました。
そして去年の1月、イスラエルのネタニヤフ政権が、男女が一緒に祈ることができる場所を作ると発表、そこでは、これまで女性に禁止されていたユダヤ教の律法を読み上げることや祈りの歌を歌うことなども認めることにしたんです。
キャスター:伝統的なユダヤ教の世界でも、今の男女平等という価値観に配慮しようという変化が出てきたといったところでしょうか。
佐伯:まさにそういうことなんです。
ところが、この決定に猛反発したのが、超正統派と呼ばれる極めて厳格に教義を守るユダヤ教徒のグループです。
超正統派は、人口比でイスラエルのユダヤ教徒全体の10%にも満たない少数派なんですが、複数の政党を持っていまして、いずれもイスラエルの連立政権に参加しています。
このため少数ながら影響力は強く、これら政党から強い圧力を受けたネタニヤフ首相は、先月の閣議で去年1月の約束の凍結と見直しを決めてしまったんです。
キャスター:そうしますと今度は男女平等を求めていた勢力は「約束が違うじゃないか」ということになりますね。
佐伯:特に激しい反発がアメリカで起きています。
アメリカでは改革派などに属するユダヤ教徒が人口の大半を占めています。
このため、イスラエルに強い影響力を持つアメリカの財界の大物ユダヤ人も失望の声をあげています。
また長年政権と一体となって、ユダヤ人のイスラエルへの移住を促進してきた団体ユダヤ機構も、ユダヤ人の結束を危険にさらす行為だとする異例の意見広告をイスラエルの新聞に出しました。
ネタニヤフ首相は、トランプ大統領の訪問でアメリカとの蜜月をアピールしたばかりなんですが、この嘆きの壁の問題、対応を誤れば、より根深いところでイスラエルとアメリカの関係に亀裂を作ることになるかもしれません。