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日本とEUのEPA大枠合意 EUの思惑は  ワールドリポート

NHKラジオ「NHKマイあさラジオ」7月12日放送

ワールドリポート

 

キャスター:日本とEUが先日EPA(経済連携協定)に大枠で合意しました。

EUにとってのメリットや思惑について、ブリュッセル支局の工藤記者に聞きます。

EPAの大枠合意についてEU側はどんな反応を示していますか。

 

工藤:EU側はこれまでにまとめてきた2国間協定の中で最も重要な協定だと高く評価しています。

その理由のまずひとつは、EPAがもたらす経済的な利益です。

EUによりますと、日本とのこれまでの貿易で企業が支払ってきた、毎年の関税合わせて10億ユーロおよそ1300億円が取り払われるということです。

そして日本への輸出が2兆円以増える可能性がありまして、EU域内のGDPを最大で、0.76%押し上げる効果もあると試算していまして、その期待は非常に大きいものがあります。

 

キャスター:一方で政治的にはどんな意義があるんでしょうか。

 

工藤:EUにとって自由貿易は、経済を成長させて、雇用も拡大させ、さらに域内の企業の競争力も高めるものだという、いわば揺るぎのない信念のようなものなんです。

保護主義的な動きが世界で強まる中で、EUとしては経済規模で世界3位のEUと4位の日本が積極的に自由貿易推し進めるのだという姿勢を広くアピールする狙いがあります。

またEUは現在、イギリスとの離脱交渉を進めているだけに日本とのEPAによって恩恵が生まれることで、各国に対してEUに残るメリットを示し、求心力を高めたいという思惑もあります。

 

キャスター:日本の製品特に自動車に対する懸念についてはどう考えているんでしょうか。

 

工藤:EUに輸入される乗用車の中では、日本からのものが最も多く、去年は日本円で1兆1500億円あまりで乗用車の輸入額のおよそ24%を占めています。

また台数では、日本からの輸入された乗用車は57万台あまりでして、EUから日本に輸出される台数のおよそ2倍になっています。

このため、ヨーロッパの自動車メーカーで作る業界団体はEPAによって日本からの乗用車の輸入がさらに増えるのではないかと警戒しています。

一方で、EU域内には日本の自動車メーカーの工場が14箇所、研究開発拠点は16箇所ありまして、合わせて3万4千人を雇用しているという側面もあるんです。

このためEU側には、EPAが発行して貿易がさらに活発になれば、現地生産を行う日本メーカーの工場が増えて、雇用も増える可能性があるという見方もあるんです。

 

キャスター:今回はあくまで大枠合意で交渉自体はまだ続くわけですね。

 

工藤:最大の難関だった酪農製品それに乗用車の関税についてはまとまりましたけど、この他にも投資や電子商取引を円滑化するルールも定めるなど、幅広い分野の交渉がまだ残っています。

EUは2019年のEPA発効を目指したいとしていますが、日本側は慎重な立場です。

また今回のEPAも、他の貿易協定と同様に、EU加盟国の議会の批准が必要になるとみられます。

そうなれば、反対する議会が出てくるなど、紆余曲折がないとも限りません。

今後のEU各国の経済や政治の動向などにも留意しながら、EPA交渉の行方を丁寧に取材して伝えていきたいと思います。