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フィリピン、ISの拠点構築をめぐる攻防の行方 ワールドリポート

7月18日放送  「NHKマイあさラジオ」

 

キャスター:フィリピン南部で過激派組織ISが進める拠点構築の動きについて、マニラ支局の姫野記者とお伝えします。

まず、フィリピン南部では政府軍とISを支持する武装勢力との戦闘が始まって2ヶ月近く経ちますが、現地の情勢はどうなってるんでしょうか。

 

姫野:フィリピン南部ミンダナオ島のマラウィーという都市で政府軍とISを支持する武装勢力との間で戦闘が始まったのが5月の下旬です。

当初は2〜3日以内で制圧できるとしていた政府側の目論見通りには進まず、現地では今も激しい戦闘が続いています。

政府軍はマラウィーの90%以上を制圧しましたが、武装勢力側は住宅街に入り込み大勢の市民を「人間の盾」にして激しい抵抗を続けています。

このため、軍が空爆を限定的なものにとどめ、地上部隊によって武装勢力の支配地をひとつずつ奪還していかざるを得ない状況です。

これまでに市民45人を含む530人余りが死亡し、約20万人いるマラウィーの住民の大半は周辺の町などでの避難生活を余儀なくされています。

 

キャスター:フィリピンは国民の90%以上がキリスト教徒ですよね。

東南アジア唯一のキリスト教国として知られてますけど、なぜミンダナオ島でISを支持する武装勢力が台頭しているんでしょうか。

 

姫野:フィリピンの中でも、ミンダナオ島だけは少し事情が異なるんです。

島とはいえ、フィリピンの国土の3ぶんの1を占めるほどの大きさがあります。

そしてイスラム教徒の多いマレーシアやインドネシアのすぐ近くに位置し、500年前にはイスラム国家が栄えたこともあります。

そして現在も、200万人余りいる島の人口の4ぶんの1をイスラム教徒が占めています。

そして1970年ごろからは、複数のイスラム武装勢力が分離独立を求めて、反政府活動を続けて、ISが中東でイスラム国家の樹立を一方的に宣言した3年前から、それらが次々とISに忠誠を誓うようになったんです。

以前は別々に活動していた複数の武装勢力が、ISの旗印の下結集し、今回マラウィーに拠点を構築しようと目論み、政府軍との間で戦闘になったんです。

 

キャスター:仮にフィリピンにISの拠点が構築されるようなことになれば、アジア全体にとって大きな脅威を抱えることになりますが、今後はどうなりそうなんでしょうか。

 

姫野:ドゥテルテ大統領は強硬な姿勢を崩していませんが、ISの脅威を完全に抑え込むというのは容易ではないと思います。

大統領は戦闘が始まった時、フィリピン南部に対して令状なしに身柄の拘束ができる戒厳令を出して、軍の統制下に置き、武装勢力の掃討作戦を一気に進めようとしました。

しかし戒厳令の60日という期限が今週末に切れ、大統領はその延長を図る考えを示していて、事態の長期化は避けられない情勢です。

フィリピンでは、地縁血縁が非常に強く、武装勢力も兄弟から親戚、その友人と、かなり広い範囲で結びついています。

今回の戦闘で武装勢力側は、戦闘員の80%以上を失ったとされますが、歪んだ憎しみから新たな戦力が出て来ることも考えられます。

ミンダナオ島は、国内でも貧しい地域のひとつで、それが政府への不信となり、過激な思想への傾倒にもつながっています。

貧困の解消という長年のそして根本の問題を解決しない限り、ISの脅威を取り除くことはできないと思います。