イラク、モスル奪還後の課題は? ワールドリポート
7月20日放送「NHKマイあさラジオ」
キャスター:過激派組織ISに対する作戦が続くイラクの情勢について、今月イラク軍などが9ヶ月近くに渡る激しい戦闘の末、ISのイラク最大の拠点モスルを奪還しました。
しかし、ISがモスルからいなくなったとしても、イラクの安定に向けてはまだまだひと山もふた山もありそうです。
国際部の境記者に聞きます。
モスルの奪還作戦についてニュースでも何度もお伝えしましたが、ISの支配から解放された今どんな状況なんでしょうか。
境:一時は人口の半分にあたる100万人余りが避難していました。
住民は戻りつつありますが、住宅やインフラも激しく破壊されています。
帰っても生活再建のめどが立たないと帰還をためらって避難生活を続ける人もいます。
住民の帰還と復興が大きな課題となっています。
キャスター:イラクと言いますとイスラム教の違う宗派の間で対立も激しかったという印象があります。
このモスルでは宗派の違いというのは問題にはなっていないんですか。
境:それは最大の懸念材料です。
イスラム教のスンニ派とシーア派の対立は、イラク戦争以降解消されていない最大の課題なんです。
ISはスンニ派です。
3年前ISがモスルを電撃的に制圧した時にも、同じスンニ派住民の助けがあったと言います。
というのも、モスルはスンニ派住人が多数の町だからです。
シーア派が主導するイラク中央政府がスンニ派を冷遇しているという強い不満がありました。
ISの支配下にあったこの3年の間にも、ISを支持した人や、家族がISに加わったという住人もいます。
こうしたISの支持者やIS戦闘員の家族への報復は、宗派間の大規模な衝突に発展しかねないということなんです。
キャスター:再び宗派間の暴力に発展する懸念があるということですね。
境:さらにもうひとつ不安な要素があります。
今年9月に独立の賛否を問う住民投票を行う方針です。
クルド人は、イラクとシリア・トルコ・イランの4カ国の国境地帯に3千万人ほどが住んでいるとされる国を持たない世界最大の民族です。
クルド自治政府の治安部隊は、ISの掃討作戦に貢献しました。
一方で自治区の外の地域にまで勢力を広げ、実効支配をしています。
自治政府はこうしたところも含めて住民投票を行う方針で、イラク中央政府は激しく反対し、新たな火種となっているんです。
キャスター:イラクの将来は前途多難、まだまだ問題が山積している感じがしますね。
安定には程遠い感じがします。
境:懸念材料はまだまだ多いですけど、鍵を握るのはイラク中央政府の対応だと思います。
過去の政府の失敗を教訓にして、様々な宗教や宗派、民族が団結して国の再建を進めることができるかどうかということにかかっています。
ただ豊富な石油資源の分配など、異なる宗派や民族の間で利害が衝突する場面も多いので、簡単ではないと思います。
ISという共通の敵がいる間は、一致して戦っていけましたが、ISの衰退が明らかになるなかで、それぞれの勢力の間で火花が散り始めています。
今後も目が離せないという状況が続くと思います。