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いつまで続くパキスタンと中国の蜜月関係

8月1日放送  「NHKマイあさラジオ」ワールドリポート

 

キャスター:世界各国で存在感を示している中国ですが、とりわけ南アジアのパキスタンではこのところ急速に存在感を強めています。

背景にはパキスタンが抱える地政学的な事情もあるようです。

この話題についてイスラマバード支局の宮内記者に聞きます。

パキスタンでの中国の存在感はどのくらい大きいんでしょうか。

 

宮内:急速に高まっていると言っていいと思います。

私は先月、ここイスラマバードに赴任したばかりなのですが、現地に向かう飛行機の中や支局の入っているビルの中でも多くの中国人を見かけるので驚いています。

 

キャスター:そうした中国人たちはパキスタンで何をしているんでしょうか。

 

宮内:多くがパキスタン国内でのインフラ建設事業に携わっていると見られています。

そのきっかけは、中国の習近平国家主席が打ち出した巨大経済圏構想一帯一路です。

この一帯一路構想は鉄道や道路網それに港湾の整備を通じて、アジアとヨーロッパを結ぶ、巨大な物流ルートを構築するものですが、その重要な協力相手の一つとして、中国が重視しているのがパキスタンなのです。

習近平主席は、この構想を打ち出したよく年の2015年、パキスタンを訪れ、日本円で3兆円あまりに上るインフラ投資を進めることでパキスタン側と合意しました。

こうした中国側の姿勢は、直ちに数字として現れています。

パキスタン政府の統計によりますと、2016年度の中国からの投資額は、日本円で1300億円余りと、構想が打ち出された当時のおよそ3倍に急増しているんです。

これはパキスタンの海外からの投資額のほぼ半分を占めていて、日本のおよそ26倍、アメリカのおよそ16倍ということですから、中国側のパキスタンに対していかに巨額の投資を行なっているかがわかります。

 

キャスター:中国の存在感の高まりの背景にはパキスタンへの経済的な肩入れがあるようなんですね。

ただ、中国はどうしてそこまで力を入れるんでしょうか。

 

宮内:背景のひとつには、この地域の地政学的な要素があります。

中国は、同じように経済成長が著しく、安全保障の分野でも力をつけているインドを、このところ特に 警戒しています。

また、パキスタンにとっても、カシミール地方の領有権問題などをめぐり、過去3回戦争をしたインドは、長年のライバルとも言える存在です。

インドという共通の安全保障上のライバルを持つ両国にとって、敵の敵は味方という力学が働き、関係を深めやすいのです。

さらに中国は、インフラの輸出に力を入れたいという自らの事情も抱えています。

かつては年間10%を超える二桁台の経済成長率を叩き出していましたが、このところは6%台に落ち込むなど、経済成長に陰りが見え、国内の消費も伸び悩んでいます。

中国の場合、鉄鋼やセメントといった建築資材は、ほとんどが国有企業によるもので、こうした企業は雇用を維持するためにも、直ちに減産に踏み切れません。

国内でのだぶついた建築資材などの輸出先としてもパキスタン非常に魅力的なのです。

 

キャスター:そうしますと中国とパキスタンの関係はお互い思惑が一致した上での経済協力ということで、問題はなさそうに見えますね。

 

宮内:ただ今後パキスタンは中国に対する負債の返済を迫られることで、財政面への影響が懸念されているほか、建設現場には中国からの多くの労働者や資材が投入されていることから、地元の雇用増加につながっていないという批判も根強いです。

さらに先週、中国との関係強化を主導してきたシャリフ首相自身が、いわゆるパナマ文書をきっかけとした脱税などの不正疑惑に絡んで、首相を辞任する事態となりました。

パキスタンでは今後、与党を中心に後任の首相選びが進められますが、政治情勢の混迷によって、パキスタンと中国の蜜月とも言える関係がいつまで続くのか不透明感も出ています。

中国のインフラ外交が、パキスタンでどう受け入れられていくのか、今後も注目して見たいと思います。